転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

文字の大きさ
138 / 231
5章 イズナバール迷宮編

202話 自己紹介

しおりを挟む
 世の中は理不尽だ。
 この世は男と女しかいないのに、俺には「マトモな」女性は寄り付かず、俺の視界にはハーレム王が今日だけで2組も現れやがった。

「ジン、その体勢でそれを訴えても何の説得力も無いんじゃない?」

 何がですかな若さん?
 あいにく、宿でくつろいでいる間、俺がリオンに膝枕をして貰えるのは交渉の結果であり、誰からも後ろ指を刺される事の無い当然の権利でございますよ?
 だから、ベッドで「腹パンされて痛いよ~」と苦しんでいる俺の事は放っておいて、話があるアナタ達はソッチのテーブルとソファでどうぞ。

「ボクが彼女達と何を話すのさ?」
「それを言うなら俺こそ何を話せと? 人攫いだと勘違いしたあげく手加減されてボコられた惨めな連中と、俺の屋台の前に偶然辿り着いたウチの若さんに良く似たボウズ。めでたく合流できたんだからハイ、さよならでいいじゃねえですかい」

 正直関わりたくねえんだよ、アッチのクズパーティはともかくこっちの集団とはさ。

「この下郎! エル様をボウズだと? この方はキサマごときが軽々しく……」
「ほーそうですか。じゃあそちらさんは一体どこのどなた様で? それさえつまびらかに申していただければこちらも、それ相応の態度で接する事もやぶさかではありませんが?」
「ぐ…………」

 エル坊の後ろに控えていた剣士がこちらに向かって身を乗り出すように突っかかってきたので少し挑発してやったのだが、さすがに乗ってはくれなかった。

「デイジー!! ジンさん、申し訳ありません」
「エル坊が謝る事じゃありませんぜ、護衛ならばその対象を守るため無用な衝突は避けるべきなのに、そうやって居丈高にふるまうようでは──ぶっ!!」

 ごふっ!!

「ジン、そう思うのなら若様の立場も考えて発言するように」

 リオン、軽いツッコミのつもりで手刀を人中に落とすのは止めて下さい、軽く意識が飛びます。
 反動で跳ね起きた俺は仕方なく、そのまま若さんが座るソファの後ろに立ち、リオンもそれに倣う。

「……それでは改めまして、こちらはルディ様、さる富豪の3男で今回は古代迷宮イズナバールの話を聞いて物見遊山の旅に来ております。私はジン、そしてこちらがリオン、どちらもルディ様の護衛にございます」
「リオンです、どうぞよしなに」

 リオンさん、ちょいちょい古い言い回しが出るのは誰かの影響ですか?

「ルディだよ。実家がどこかは言えないけどその代わり、ボクらもキミがどこの誰かは聞かないからおあいこで良いよね?」

 おバカさん、いや若さん……そういう台詞は向こうに言わせるもんですぜ?
 ……イヤ、向こうがバカ正直に喋ったらこっちも話さないといけなくなるか……ああ、若さんが正しいよ、だからドヤ顔でこっち見んな。

「ご丁寧にどうも。僕はエル、そして後ろの面々はデイジーを筆頭に皆護衛です。この度は連れの者共々、ご迷惑をおかけしました」

 エル坊が深々と頭を下げる。育ちも躾も行き届いているな……若さん、少し見習って。

「エル様! 勘違いで戦闘を仕掛けたのは確かに私の落ち度ではありますが、エル様が頭を下げる謂れはありません。ここは私が」
「デイジー、貴女達と合流する前、僕は自身の失態でかなり危険な事態に巻き込まれていたのを、このジンさんが身を挺して守ってくれたんだ。それこそ恥と痛みをその身に受けながらもね。その後も、屈辱で胸が焦がされそうなはずなのに、それを差し置いて落ち込む僕を気遣ってもくれた、とても立派な方だよ」
「そのような事が……ジン殿、この度は我が主を守って頂き言葉も無い、どうか無礼を許して欲しい」

 ──ヤメて、それ以上持ち上げないで! 俺のライフは0よ!!

 だからコッチ向いてニヤニヤすんなよ若さん、行儀悪いぞ、エルを見習え。あとリオン、お前のその生暖かい眼差しは何だよ?

「……別にそう珍しい事でも無いから謝罪は無用ですよ。まあどうしてもと言うなら、お詫びに差し出すハメになった甘魚の代金、大銀貨1枚でも払ってくれればそれで。あとはリオンを襲った件は……まあ、ダメージを追ったのはそちらだけですので」

 肉体的にも精神的にもな。

「と、ジンもこう言っているんでこの件はおしまいで良いんじゃない?」

 ガシッ──

「若さん、ホントはアンタが率先して話すことですぜ。それと目の前のエル坊は8歳、自分より2歳も下の子のしっかりとした立ち居振る舞いを少しは見習いましょうや」
「ボクはボクさ──イタタタタ、ジン、頭を締め付けるのは止めようよ!?」
「若さん、”しつけ”と”しめつけ”って、響きが似てると思いませ──んっ!!」

 ドスッ──!!

「ジン、いつも言っていますが……」

 リオン、何を参考にしたのか知らんが、首に手刀を決めても人は気絶しません! そして打ち所が悪いと死ぬんだぞ!

「プッ……アハハハハハハ!! ……ご、ゴメンなさい、3人が、あまりにも仲が良さそうなので……ぷふっ!」
「…………喜んでいただけで何よりで」


──────────────
──────────────


 ジン達とエルの会話はそれからも和やかに進んだ。

「それにしても話を聞く限り、エル君は上に立つ者の自尊心や、傲慢さのようなものが感じられませんね、物腰が柔らかで謙虚です」

 リオンの言葉にエルが面映いのか頬を染めて俯き、後ろの護衛は褒められて嬉しいものの、それはそれで将来上に立つ者の姿勢としてどうなんだと、少しばかり微妙な表情になる。

「僕の場合は父の教えがそうですから、「今のお前はただ父の子として持て囃されているに過ぎない、何も成し得ていない若輩者ならせめて態度くらいは謙虚であれ」と」
「それはまた立派なお父君で……若さん、お願いだから見習って?」

 何故か意味も無くウンウンと頷くルディに向かって、背中越しにジンが呟く。

「それで、どうしてこの町リトルフィンガーに来たの?」
「それも父に言われてなんですけど、護衛はつけてやるからお前の目で少しばかり世界を見て来いと、そうしたら姉さま、イエ、叔母上が行くなら東がいいと仰って下さって」

 ニコニコと嬉しそうに話すエルに、他の誰も反応しない中ジンだけが眉間にシワを寄せて指で押える。
 そんなジンの態度をエルや護衛の女性陣が不思議に思い、頭の上に疑問符を浮かべるが、その後のリオンの言葉で表情を硬くする。

「そうですか、「東にある」イズナバールにわざわざ……そういえば、デイジーさんの剣は確か、帝国屈指の名工による作だとか」
「………………………………」

 そ知らぬ口調のリオンのすぐ横にジンが擦り寄り、小声で話すフリをしながら念話で会話をする。

(リオン! なに向こうを追い込んでくれてんの!?)
(シン、彼女は私のアトラスを侮辱しました、重罪です)
(そんな理由で!? とにかく止めとけ、表向きだけでも事情は知りません、ってスタンス取っときたいんだよ俺は、今回は特に!)
(何かあるの~?)
(エルダー、手前ぇ、分かってて言ってるだろ?)
(さぁね? まあそういう訳らしいからリオン、シンの為にこれ以上彼女達を虐めるのは勘弁してあげてよ)
(判りました。シン、1つ貸しですよ?)
(何で貸しなんだよ!? わかったよ、後でマッサージで全身くまなく揉みほぐ──)

 ズンッ──!!

 ジンの脇腹に0距離でヒットした寸勁は、ジンを数メートル吹っ飛ばしてベッドに転がす。
 そして脇腹を押えて蹲るジンに向かってリオンが、

「おやジン、お腹がまだ痛むのですか? 膝枕ならしてあげますからもう少し待って下さいね」
「イヤ、あの……痛いのは……わき…………」
「ゴメンね、図体ばかりデカイ甘えんぼがリオンの膝枕を恋しがってるから、話の続きはまた明日でいい?」
「はい、それは構いませんが……ジンさん、大丈夫なんですか?」

 心配そうに見つめるエルに、いつもの事だとルディとリオンが太鼓判を押すと、苦笑しながら自分達はこの宿の、上のフロアに部屋を取っていると話し、何かあったらいつでも来て欲しいと告げてエルと5人の護衛は部屋を後にする
 そして……

「ほらジン、みんな出てったよ?」
「ジン、エルと申しましたか、あの子について何か知ってるのですか?」
「……………………………………」
「「ジン?」」
「……イヤ……ちょっと待て……今、わき腹が」

 ……………………………………。
 そして暫くして、

「イツツ……リオン、最近俺に対する扱いがぞんざいに過ぎると思うのだが?」
「最近ジンに対する周りの評価が上がりつつありますからね、少しおとしめておいた方が良いかと思いまして」
「落とすだけで止めとけよ!」
「それでジン、あの連中の事情を聞きたがらないのはどうしてかな?」

 ルディがソファに座ったままジンに向かって問いかけると、ジンはベッドから立ち上がり、

「そりゃまあね……」

 ドアの方へ歩き出す。すると、

 ──コンコン。

 ドアをノックする音にリオンとルディが視線を向けると、ジンはそれがわかっていたかのようにドアを開ける。
 そこには、

「──よう、お久しぶり」
「まさかこんな所で再会するとは思わなかったぞ?」
「おや? アナタは先ほどの」

 ドアの向こうには、リオンと5人の戦闘を背後から観察していた6人目の人物が。

「ジン、そのひとは?」
「ああ、コイツは────帝国の密偵だよ」

 ルディの問いかけにジンは、アトワルドやバラガ──各地で何度か顔を合わせた密偵を2人に紹介した。

「──よろしく」

 ジンはため息をついた。
しおりを挟む
感想 497

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。