蓮城さんちの兄と弟

桐山アリヲ

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蓮城さんちの弟

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 試合を見たあの日から、シュウはオレの憧れで、追いかける目標にもなった。小学校のミニバスチームに入り、だれより練習に打ちこんだのも、中学で一緒にプレーしたいという強い思いと明確な目標があったからだ。
 その念願が叶い、中学へあがってまもなく、オレは公式戦でのスタメンデビューを果たした。
 
 実力を重視する顧問のやり方に、表立って反発する部員はいなかった。
 シュウをはじめとする3年生は、なにかと目をかけてくれていたし、レギュラーを争う2年生や同学年との関係も悪くなかった。
 チームとしての完成度が高く、戦術を十分練れたことが大きかったんだろう。その年、男子バスケ部は、関東大会進出という過去最高の結果を残してシーズンを終えることができた。
 創部以来はじめてとなる快挙に盛りあがる一方で、2年生の一部が、オレに冷ややかな視線を向けていることにも気づいていた。
 
 「試合に出られる人数は限られてる。1年でスタメン入りしてれば、上から多少の反感を買うのは仕方ないだろうな。でも、なんとかするよ」

 電池の交換でも請け負うような気軽さで、シュウはいった。

 「チームの風通しをよくするのは、キャプテンのおれの仕事だ。ナツはプレーに集中してればいい」

 その言葉通り、部内は円満に保たれていた──シュウが卒業するまでは。

 部活を引退したあとも強い影響力を保ち続けたシュウが学校からいなくなると、それを待っていたように、進級した3年の一部が嫌がらせをはじめた。以前から、オレを目の敵にしていた連中だった。

 あいさつを無視したり、これ見よがしに陰口を叩いたりする、幼稚で陰湿な嫌がらせ。もちろん気分は良くないけれど、それ以上の害もない。試合に出ている他の先輩たちや同期との関係は変わらなかったから、相手にしないで放っておいた。
 それが気に食わなかったのかもしれない。はじめはオレの揚げ足取りに終始していた悪口の内容が、しだいに家族のプライバシーにまで及ぶようになっていった。

 狭い地域のことだ。オレたち家族の抱える複雑な事情は、学校中に知れ渡っている。
 向こうもさすがに正面からやり合う度胸はないんだろう。あえて匂わせる程度に留めているのがわかったけれど、オレの怒りを沸点すれすれまで煽るくらいの効果はあった。

 ある日、着替えのために部室へ向かうと、部屋の中から、嫌な感じの笑い声が聞こえてきた。

 「連れ子がいる中年同士でくっつくとか、ウケる」

 「知ってた?柊弥さんの父親って、なんか有名な外科医らしいんだけど、愛人作って出てったんだって。要するに、楓先生はサレ妻ってこと」

 「けどさ、結局あの先生、患者の親に手ぇ出して再婚までこぎつけたわけだろ?うちの母ちゃん、ドン引きして病院変えてたわ。子どの教育に悪いとか、倫理観がどうとかいって。うちだけじゃないみたいだぜ。あれで患者の数、けっこう減ったらしいじゃん」
 
 「そりゃ評判落ちるよな。子ども相手の商売なんだから、ゴシップはだめでしょ」

 「楓先生、無駄に美人で色気あるからなぁ。柊弥さんに激似」
 
 「ばぁか、柊弥さんが先生に似たんだろ?けど、たしかに柊弥さんも雰囲気エロかったよな。ここでフツーに脱いでたけど、肌とかやたらきれいでさ」

 「なに、おまえそっち系?」

 「ちげーって。やっぱ血は争えねえって話。頭いいのはわかるけど、あのビジュで小児科継ぐのってどうなん?」

 「それな。子どもがなつく前に、母親の方がなついちゃったりして」

 「なにそれ、えっろ。しかも男までその気にさせるとか、そっちの才能あるんじゃね?」
 
 気づいたときには乱暴にドアを開け、殴りかかっていた。
 向こうは3人。最初の一発で床に伸びた相手を跨ぎ越し、もうひとりの胸ぐらを掴む。

 「やめろ、蓮城。落ち着けって!ひぃ……っ」

 わめき声を無視し、その顎めがけて拳を叩きこんだ直後、こめかみの辺りに激しい衝撃を感じた。一瞬遅れて、頭の中に割れるような痛みが走る。
 視界のすみを、血に濡れたパイプ椅子が、スローモーションで横切っていく。
 あれで殴られたのか、後ろから……自分でも不思議なくらい冷静に思いながら、ふり向きざま、驚いたような顔で立ちつくすパイプ椅子男の脇腹に、渾身の回し蹴りをめりこませた。

 「おまえら、なにやってんだ!」

 室内に飛びこんできた部長の声が、鼓膜をえぐるみたいに、ぐわんぐわん鳴り響く。
 
 「うわっ、夏樹!?しっかりしろ!」
 
 それ以降の記憶はない。次に目が覚めのは、それから3日後。病院のベッドの上だった。


 
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