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量的視野検査
しおりを挟むさほど大きくない町。少しばかり美意識の高い女がひと風呂浴びてる間にすっかりと横切ってしまえるほどの大きくない町の外れに、一軒のカフェが営業中のランプを灯していた。カフェの中は照明が暗く、外に置かれた営業中のランプが一番あかるいのではないか。と、そんなことを頭によぎらせた若い男二人が恐る恐る店のドアを開け、首を覗かせた。
中にはどこか懐かしさを感じるチェックのシャツにオーバーオール、テンガロンハットを着た今にもブルースを歌いだしそうな男が立っていた。
「開いて…ますか?」
「…」
そのブルースは黙って入り口に近い机にコーヒーカップを置いた。
「何にいたしましょう」
「コーヒー…ってことかな?」
「そうだろう」
若い男二人はアメリカンコーヒーを頼んだ。
「チョコレートプリーズ」
店の奥から老婆の声がした。見えにくかったが確かに老婆だ。
「…」
ブルースはそれを無視してコーヒーを出した。そしてギターを取り出し、若い男二人の横で本当にブルースを歌いだした。1曲終えると若い男二人はすっかりブルースの虜になった。そのテキサスブルースは自慢気に何曲も披露した。が、曲の終わりにはいつも老婆が水をさす。
「チョコレートプリーズ」
若い男のうちの片方がポップスを歌いだした。聞くに堪えないと感じた髪の長いもう片方は、カウンターのバスケットの中に小さな包み紙のチョコがあったので老婆に渡しに行った。
「どうぞ」
「…」
老婆は受け取ろうともしなかったので、彼は机にポツンと置いた。彼はこのカフェはわけがわからないと思った。とにかく店の奥が臭った。すぐにテキサスブルースは冷めたコーヒーを片付けながら言った
「もう閉めるから」
それには逆らえず若い男二人は会計を済ましそそくさと店から出ていった。もう1時間は開けててもいいだろう。そんな時間だった。
「あんたも出て行ってくれ」
老婆は「チョコレートプリーズ」と手を差し出したがテキサスブルースの反応が無いのでものの5秒で手と机の上のチョコレートをしまってから店を出た。足が悪そうだった。店を出るのにはとても時間がかかった。
テキサスは店終いをし、表に出た。シャッターを閉めていると後ろから「チョコレートプリーズ」と聞こえた。老婆にはテキサスでないといけない理由があった。テキサスは少し驚いたが振り返るとしゃがれた声で
「もう来ないでくれ」
とだけ言ってシャッターの方をみた。鍵が上手くしまらなかった。
老婆は持っていたチョコレートをまるで手品師の様に硬貨に変えた。そして
「カフィープリーズ」
美しく全てを許すといった笑顔を作って硬貨を差し出した。が、テキサスは
「コーヒーでもあんたのその臭いは消せはしない」と自転車に乗り帰ってしまった。老婆はわかっていた。知っていた。足が痛んだ。
なんでもないことだ。前を見ているうちは後ろを見ることはできない。なんでもないのだ。そうだろう?これを読んでいるうちに君の後ろを何人が横切ったか。壁は崩れたり変化していないのか?考えれば簡単なことなのよ。
サイレンが鳴る。若い男が一人、ナイフで腹をやられた。ポップスを歌う男は異様に取り乱していた。手口は簡単だ。正面からやって来てブスッとやる通り魔事件だ。まったく簡単な話だ。これはどこでも起こっていることなのだ。
…end
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