聖女召還って言ったでしょ!?~なんだか愛が複雑過ぎませんかね?~

meeero

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聖女召還

いち☆召還

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あー、今日も疲れた。
本当に疲れた。

今週は、納期が明日に迫って居たから朝から晩まで本当に頑張った。あのクソ上司…セクハラまでしてきて…精神的にも、体力的にも、疲れた。ブラック企業何かじゃないけど、不定期にある無茶振りしてくるお客様。繁忙期も相まって、今月は忙しいのに今週は特に、酷かった。
終電を逃してしまったから、何とか三駅歩いて。タイミング悪くタクシーも捕まえれなかったー…

暗い部屋に帰ってきたのに、ホッとした。

電気を付けると、枯れかけたミントが目に入った。

「あ、水…2日もあげれなくてごめんね…」

最近、趣味にも割く時間が無かった。
緑が多めの部屋は、私にとって癒しで、毎日朝にちょっとだけ早く起きて、小さなベランダにあるプランター達や、部屋の観葉植物達に水を撒くとスッキリするから26の独身女子にはセラピー効果は抜群だと思う。自分で女子、って言ってて自己嫌悪に陥りそうだけど…

明日、納品したら、私はちょっとだけ忙しさがマシになる。そうしたら、明後日は休みだからーー…
ミントちゃんに水をあげながら楽しみを考える

「よし、今度の休みこの荒れた部屋を一掃しよう。」

充実した休日を送るのだ。
朝から掃除して、午後にはアクセサリー作りなんかしちゃって。ご飯も少し手の込んだやつ作っちゃおう。
その為に明日は早く帰ろう。

気合いを入れた所で冷蔵庫を開けたら、テンションがまた下がった。

「最悪、何も無いの忘れてたー…」

これじゃ朝ごはんも作れないじゃない
仕方がない、買い物、行かなきゃーー……
24時間スーパー、ちょっと遠いな…コンニビで済ませてしまおうか…
三駅歩いたから、足がパンパンだけど、ムチ打って玄関を開けた。

手には、財布、携帯、いつもの休日使ってるショルダーバッグ。まだ着替えて無いから、スーツ姿のままだけど。コンタクトだけはソッコーで外してしまったから、メガネをかけて。


眠気が襲ってきているから早く帰って来よう
明日も早いし、ね。

私が覚えているのは、鍵を締めて、鞄に放り込んでいる最中だって事。

手を鞄に突っ込んだまま瞬きをしたら、急に眩しくなってそこはもう光景が変わっていた

「え?」

ーーーー………

誰よ、こんな眩しくしてるのは
それとも、車のハイビームの正面に立ってしまったのか、私は。

「おお!聖女召還に成功したぞ!」

「流石はライオネル様だ!!」

「クレイオス卿をお支えしろ!」

眩しくなって、その光の後に暗くなって、
聴こえるのは、沢山の声。

光の変化に慣れなくて顔もわからないけど、感じるのは、ひんやりした空気にまじってピリピリとした静電気。気のせいかもだけど見られているという感覚。

ガシガシと目頭を押さえていたら大声が響いた

「おお!貴殿が聖女で在らせられるか!私は、ライオネルと言う。聖女よお手を…こちらへ」

「は?聖女…?オレ、男なんだけど…?まって、どうなってんの…これ…?え…、え…?」

目が少し慣れて来た所に飛び込んできた光景は、私の前で座り込んでいた少年。と、手を差し出す髪色の奇抜さと、どこぞの貴族よ、な変な服の少年。

戸惑う少年の手を颯爽と取ると行くぞ!とぞろぞろ部屋らしき所から出ていってしまった。

「は?なにこれ?」

残った数人が気まずそうにしている顔。

「えぇーーーっと…?」

「ごほんっ!失礼致しました。ささ、あなたもどうぞそちらへ」

数分、お互いが固まってしまっていた所にいち早く復活した人がわざとらしく手をドアの方へ向けた。

「あ、はい」

「さささ、どうぞ」

笑顔、引きつってるわよ…
間の抜けた返事になってしまったが私も釣られて、愛想笑いを浮かべたけれども。私も絶対、同じように引きつってるわ
不安から肩に掛けたバッグをぎゅと握り混んでしまったら、今度は少し困った様な、哀れみなのか、とにかく複雑そうだけど、さっきよりかいくぶん優しい笑顔を向け「すみません、」とだけ言われた。
そんな、とても人間くさい表情をされるとこっちもなんだか親近感に近い感情と共に、申し訳なくなって「こちらこそ、なんか、すみません」と頭を少し下げ後を着いていくことにした。

「あの、何処にいくんですか?」

「あちらの、儀式の間ではゆっくりと状況をご説明出来ませんのでお部屋を移動させていただきます」

「あ、はい。分かりました…」

なんだか丁寧に言われると、こっちもわがままに振る舞うってことがしにくいわね、
穏やかに「こちらのお部屋です」と案内された部屋は長ソファー2脚とテーブルが真ん中に鎮座していて、テーブルにはかわいらしい花が飾ってあった。あと、火は入っていないけど暖炉と、壁にはいくつかの美術品が品よく飾ってある部屋だった。

「なにぶん、急な事ですので、しばらくこちらでどうぞお寛ぎ下さい。後でお茶をお持ちいたします。」

「どうもご丁寧にありがとうございます」

スマートにソファーに座らされた。これがエスコートってやつなのかしら

「必要な事がございましたら、部屋付きのメイドがおりますのでそちらがご対応させて頂きます。申し訳ありませんが、何とお呼び致したら良いですか?」

「私は…小向南鳥です」

「コム…カイ…ナスカ…」

「すみません、名字が小向、名前が南鳥です。ナスカで構いませんよ」

「あぁ、ナスカ様ですね!申し遅れました。私、オーゲンと申します。家名は在りませんが、このフェルグラット宮で執務官として働いております。」

「宮…」

「えぇ。宮でございます。」

「あの、ここって何処なんですか…?」

「フェルグラット宮でございます」

そこじゃない!そこじゃないのよ!
しっかり、ボケをかましてきたかと思ったら優しく微笑まれて、あぁ本気で答えたんだ、この人…と、どっと肩の力が抜けた。これで渾身のボケだったらこの人凄すぎだ。
訳もわからず、見ず知らずの所に居て無意識に緊張していたみたい。終始丁寧で、穏やかに紳士に話してくれているお陰で、少しずつ警戒心が薄れていていた。そんなとこにこんな会話。力が抜けるのも仕方がない。

何もわかってないけど、この人は危なくなさそうだ。

「そうですか…さっきの儀式の間って何ですか?」

「あちらは、フェルグラットで聖女召還を行う際の、儀式を執り行う広間でございます。」

「フェルグラット…」

と言うことは、をして、さっきの場所は聖女召還をするための場所って事ね…

「フェルグラットは中領地になりますが、今回聖女召還の儀を執り行うことが許されました。」

ん?中領地…?また、訳のわからない単語が…いや、領地ってのは分かるけどね…私はますます混乱しそうになってしまった

聞けば聞くほど、知らない名前ばかりが上がってくる。

「……ナスカ様が落ち着いてから、それからお話し頂く方が良さそうですね。」

不安そうな顔をしてしまっていたのだろう、オーゲンさんが深い息を吐いた。

「あ、すみません…自分から色々聞いたのに…」

「大丈夫でございますよ、そろそろお茶をお願いしましょう。ナスカ様はごゆっくりお寛ぎ下さい」

「ありがとうございます…あっと、すみません、様って付けないで下さい!そんな大層なあれじゃないんで…」

「いえ、ナスカ様は、我々がお呼びしたお客様ですので」

「あ、はい」

にこりと微笑みながらもなんか一線引かれた。
ボケッとしてる間にオーゲンさんはさっと出ていってしまった。長話しすぎたかな…?ちょっとめんどくさかったのかも…

1人になったとたんだんだん足が痛くなってきた。
緊張と寝不足の上に歩きすぎたし。

「靴脱ぎたいな…」

何が何だか、考えなくちゃいけないのだろうけど、ぼうっとして何も考えられない。

気が付いたら何だかふっくらした優しそうなお姉さんがお茶をテーブルに並べてくれた。

「お茶の間、私は、ドアの外におりますので、なにかございましたり、お済みになりましたら声をお掛け下さいませ」

ごゆっくりどうぞ。とまた、微笑みながら出ていった。素晴らしい手つきだったし、説明も分かりやすかった。1人で落ち着きながらお茶を楽しめって事だろう。

1口お茶を飲んでみた

「美味しい…」

温かいお茶がじんわりと体を温めてくれたのが、一気に疲れを感じさせる結果となったのだけれども。
回らない頭で、とりあえず髪をほどいてみた。一日中縛っていたから頭痛まで感じる気がしたし。
そうなると、足もやっぱり痛い。……誰も見てないし良いよね……?
ソファーの角に移動して、ヒールを脱いだ。ちょっとお行儀悪いけど、足を揉ませて下さい、と心のなかで言い訳して。ソファーにもたれ掛かって、足をちょっと上に上げさせてもらって。目を瞑りながら、足を揉んでるうちに寝てしまったのは不可抗力だと信じたい。


ぱちっと目を開けたら、ブランケットが掛けてあり悶絶した。枕も挟まってた。なるたる不覚っ
不覚すぎてきっと顔真っ赤だろうに。


こうして私はされてしまったのだ。
納期が、とか、部屋の植物達とか、ちらっと頭の隅をかすめたけど、それよりも状況が変わりすぎて、そんなこと秒で消え去ったのだけれども。


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