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しおりを挟むその声は、100人近く居た大広間にも関わらず大きく響いた。
きらびやかなシャンデリア、色とりどりの美しいドレス。華やかな夜を彩る演奏ー…
そのどれにもそぐわない大声だった。
控えめに演奏していた楽団の者たちは徐々に剣幕に押され演奏を辞めた。
「マリオット様、この様な場所でその様に大声を上げるのは…」
「いい加減にしろ!!エリザベス・メイア!!」
公爵令嬢、エリザベス・メイアはビクリと肩を揺らした。
「どうしたのですか…一体…?」
「知らばくれる気か!何度も言っているだろう!!」
エリザベスは、一体何が彼をそんなに怒らせてしまって居るのか分からず周りを見渡した。周りの人々は、怪訝な顔をしながらこちらを伺っている。が、その奥には、好奇心が見え隠れしているのが感じ取れた。
(知り合いの居ない夜会なのに、どうして今なの…?)
「お前と言う者は!!何度も、私の忠告を無視してまでコーネリア嬢を虐げ続けるのか!?」
あぁ、またか、とエリザベスは思った。
この男マリオット・リュンゲルは同じ爵位を持つエリザベスの婚約者である。なぜかここ最近、親しくない子爵令嬢のコーネリア・ブリッケンゲルドを話の引き合いに出してきたり、コーネリアの事でエリザベスを攻め立てた。その度に、エリザベスは困った顔をし「知らぬ」「存ぜぬ」を通して来た。
当たり前だ。夜会やお茶会での顔見知りではあるが、趣味も違う、爵位も違う、親の付き合いも無い、友達と言えぬ遠巻きのそのまた遠巻きな令嬢なのだから。その令嬢の事を言われても、わかる訳が無い。
「なぜその様なお話を今されるのですか…!?」
「お前が、二人きりの時に話しても改めないからであろう!?前回辞めるように言ったのにも関わらず…!!また…!」
エリザベスは目眩がした。少し頑固な所があるマリオットだからこそ、エリザベスはマリオットを怒らせないようにしてきたと言うのに。婚約者とはいえ、政略的な折り合いもある婚約者に、親からやんわりと言われていたのに…
「マリオット様…とりあえず、場所を変えましょう…?」
「黙れ!今日と言う日はお前の罪を明らかにする!」
罪とは何なのか、エリザベスには分からない。
「マリオット様っ!お止めくださいましっ」
そこに飛び込んで来たのは頬を赤く染め、涙を流す女。
件のコーネリア・ブリッケンゲルドである
「コーネリア嬢…」
「マリオット様、私が…私が悪いのです…大丈夫ですからっ」
「コーネリア嬢、決して良くないよ?未来の公爵夫人たるもの、あの様な事をしては、将来の公爵家の為にならないのだから…」
ハラハラと泣くコーネリアの肩を優しく抱くマリオット。
何の茶番なのだろうか。エリザベスは、必死に泣きたいのを我慢しているのに。
婚約者である筈の男が、他の女の肩を抱いている。婚約者の女に罵声を浴びせ、他の女にとろけるような、優しい声を掛けている。
(この様な事をされる様なことを、私はしてしまっていると言うの…?マリオット様……)
「エリザベス・メイア!お前は私の妹の親友コーネリアを私の婚約者と言う肩書きを持って悪しきように茶会で話し孤立させ、あまつさえ誰も見ていない所で公爵の地位を使い暴力や圧力、脅しで人権を無視した行動は目に余る!!」
「その様な事はしておりません!それにっ……」
エリザベスにとって全て初耳だ。何ならコーネリアと呼ばれる令嬢の顔をしっかりと見たのさえ初めてと言うのに…
「黙れ!お前はもう、何も言うなっ……!!嫉妬にかられた事とは言え、目に余るのだ!それに、いつもその様な事で私の忠告を聞かぬお前の話をなぜ私が聞かなければならない…!?それに見ろ!お前に叩かれたコーネリア嬢の頬を!!!」
まるで舞台俳優のようにマリオットは身振り手振りを交え、悲劇を続けた。
「なっ……」
「マリオット様っ、良いのです…もう、良いのですっ貴方がこれ程までに怒ってくれただけで私は何もいらないのですから!」
コーネリアも、エリザベスが涙をこらえ一言も話せず耐えている横でマリオットの胸にしなだれかかりながら高らかに言う。エリザベスは、マリオットに言われなくてもこれ以上何も話せない。ここまでの辱しめを受けては話してしまうと、涙が決壊しこぼれ出てしまいそうだった
「エリザベス…残念だよ。ここまでしてもネリーに謝罪の、一言も無いとは…次期当主として、お前との婚約も、破棄だ!!!私の方から追ってお前の家に通達させてもらう!」
(何と言うこと、マリオット様はブリッケンゲルド嬢の愛称まで呼んでいるではないの…!)
「あ…お、お待ち…」
小さな声が震えながら出た。
「まだ居るのつもりなのか!エリザベス・メイア!」
コーネリアを抱き締め、親の仇でもあるかに睨まれ、エリザベスは全てを諦めた。
(きっとマリオット様の中で、私の意見はどんなに冷静になっても…届かない!!決まったことなんだわ!!この様に何度も名前をフルネームで叫ばれたら、これから家も評価が下がってしまう…!それたけは嫌っ…!!)
ぶるぶると震え、さっと頭を下げエリザベスは急いで出ていった。
こうして、悪女エリザベスは婚約を破棄された。
美しく思慮深い令嬢コーネリアを虐め、それを諌めた婚約者だった果敢なる公爵嫡男、マリオット。
逃げ帰った悪女エリザベスと言う図式が、広間の参加者達には最高のスパイスで、また、会場で悪女が出ていった後、マリオットはコーネリアに片膝を付き、愛を囁き求婚。コーネリアは頬を染め遠慮がちに承諾。何と言う美しい物語だったことかー…
馬車を呼び、帰路でひっそりとエリザベスが泣いている事など誰も知らない。
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