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しおりを挟む「代表!!!」
バンと大きな音を立ててドアを開いたサーラ
「ぶっ」
中でお茶を飲んでいた男が吹き出した。
「きったなーい」
「サーラちゃん…驚いたんだよ、こっちは…」
サーラは汚物を見るような目で男を見た。
男、もとい汚物(仮)はこのバカラ商会を束ねる代表と言う立場だった。名はイグイット。一応だがサーラの父だ。
「冷めていたから良かったものだよ…それで、どうしたんだい?」
イグイットはトポトポと音を立てながらまたカップにお茶を注いだ。それをサーラは奪うとごくごくと飲み干し、イグイットに突き返した
「代表?そう言えば、ロンファードで仕事したいって言ってましたよね?」
「え!私はさっき北部から帰ってきたばっかりなんだよ!?」
「ね?言ってましたよね?」
「…………」
イグイットは4代続く商会の跡取り息子として育った。幼なじみの可愛い恋人と結婚し、親から商会を引き継ぎ、娘も産まれた。
そこそこの大きさと、メイヤ家との商売も安定していて自分の人生に大いに満足していた。
『親から引き継いだ商会だ。サーラが大人になったら父からしてもらったように私もこのままを維持して、商会を託せるように頑張ろう』
野心もなく、かといって満身せず、謙虚にトラブルもなく穏やかな男の人生が狂ったのは何時からだろうか。
娘が自分より遥かに商才が有ったことだろうか。
それよりも、父と一緒に仕事についてきて回ってくれた事が嬉しいあまりに、幼い頃より仕事で娘の意見を嬉々として取り入れたことだろうか。
娘が商会に関わり出してから、およそ10年。
年々、いや、日に日に父として、牽いては仕事の上司としての尊厳など無くなっていった。
今では、馬車馬の如く娘にアゴでこき使われている。
「サーラちゃん…私は引退したいんだよぉ?そろそろ、代表代わってよ」
「は?その話はもう終わった話では?この前後8年位はやってくれると仰いましたよね?」
女が代表では何かと不便なのだ、とサーラは言う。
仕事中の為、言い方は割りと丁寧だがイグイットはサーラから途轍もない圧を感じまくった。
我が娘ながら恐ろしい。
「…………」
「また都合が悪くなると黙る!」
「まぁまぁサーラさん、代表は奥様とのお時間が全然無い、とぼやいていましたから。」
空気と化していたイグイットの秘書のサントーリが仲裁に入ってきた
「それにしても、一体どうされたんですか?ロンファードなんて…」
「………そうね、エリザベス様が新鮮な海の幸、食べたいって言ってたのよね~」
ふむ、とイグイットとサントーリは考えた。
((絶対、それだけじゃない…))
「あそこは、リュンデル公爵が幅を利かせておりますよね…」
サントーリは伺う様にサーラを見る
「そうね。そろそろ退場願いたいのよね」
あぁ、やっぱり、である。
サーラが黒い笑みを浮かべている。
「そう言えばエリザベス様、婚約破談になったんだって?」
「だっ!代表!!」
イグイットは空気を変えようと、サーラが大好きなエリザベスの話をふったが失敗した。
サーラが更に笑みを邪悪なモノへと変えた。
サントーリは、また代表がやらかしたと天を仰いだ
「あら、よくご存じのようですね?そんな噂話に余念がないなんてよほどお暇と見えます。だ、い、ひょ、う?」
「サ、サーラちゃああん!」
サーラは表立って商いをしていない。
だが、経営救済で資金援助などをし、傘下店を増やしたり、表立ってバカラ商会名義では新店舗を作らないが、別名義の名でどんどんと新事業に着手。それがまた面白い位に軒並み成功を納めている。
その手腕はこの国の全土まで広がりつつあるため、対抗商会など無く実質この国1の大商会なのだ
お貴族に横やりや、やっかみを買わないように対策まで万全なのだから末恐ろしい。
そんな娘が行ってこい、と言うのであれば行かなくてはならないのを分かっては居るのだ。これでも商談のスキルはピカイチのイグイットだが、イグイットは、妻とチチクリ合いたかった。離れることが多くなった時から、妻への愛が更に増したのだ。分かっては居るのだ、
いつまでもうだうだとしている父にサーラは
「明後日の昼。今から明後日の昼までなら家に帰っても宜しいです。」
にこりと微笑んだ
「ありがとうございます!サーラさまっ!」
そうしてサーラは父を掌で転がした
飛んで出ていったイグイットを横目にサントーリはため息を吐いた
「サーラさん、これで終わりでは無いですよね…」
「何のことかしら?ルーク!あれを持ってきてちょうだい!」
扉の外に居たルークを呼びつけ、颯爽とサーラは出ていった
代わりに入ってきたルークはサントーリを横目に大量の書類をドン!と執務机の上に置いた。
「「…………」」
無言で見つめ合う二人。
「これ、ロンファードでしてほしい仕事、ボスがまとめておいたっす…ご苦労様ですサントーリさん…」
「…お互い大変だね、ルークくん」
「とりあえず、明後日までサントーリさんも休みっす。ゆっくりしてください。ボスに捕まる前に。」
直近の部下二人は見つめ合いながらため息を吐いた
ロンファードでの仕事は帰れるのはいつになることやら…
「……………ありがとう」
「………っす」
ーーーーーーーー
ーーーー
「マーニ、ヒューゴ、2人ともブリッケンゲルトの領地に行ってちょうだいな」
「「かしこまりました」」
「オットー、貴方はモントル村へ」
「はい!」
次々と指示を飛ばすサーラ。そこへルークが戻ってきた
「あら?もう良いの?」
「何すか、キチンと引き継ぎ終わりましたよ。サントーリさんにも明後日まで休みって伝えました。」
「………ふぅん?それなら良いわ」
含みの有る顔だが、何なのだ。
「ルーク、貴方顔が少し赤いわね?やだ、熱?最悪!移さないでちょうだい!」
急にサーラは大げさにルークを避けた
何事なのだ、ホントに。ルークはぴんぴんしているが、普段目ざといくらいに他者の体調が分かるサーラ。自分が気付いてない体調不良もしつこく気付いてくる。なので、皆誰でも有りがたいことに体調不良が発覚した瞬間に問答無用で休みにさせられる。サーラが働きだしてから本人は1回も体調を崩さないのにだ
「え!ルークさん、体調悪かったんですか?」
「お大事に…」
ルークは口ぐちに従業員達からそう言われ背中を押され困惑した
「あー、やだやだ!早く貴方も帰りなさいな!明日は休みよ!病原菌を撒き散らさないでっ!」
「え?は?」
ルークは急にサーラが演技っぽく振る舞ってくるのに訳がわからない
「かんびょうきちーんと、してもらってきなさい?ね?」
そう耳元で言われ、ルークはさーっと顔を青くした
(絶対、休み明けから酷くこき使われるやつだ、これ、)
震えながらルークも帰宅していった
サーラの声が響いているのを背にして。
「さ、みんな!てきぱきやるわよ!!」
「「「「はい!」」」」
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