4 / 18
4.新婚さんの一日
しおりを挟む日が昇った。瞼越しに感じる明るさで目を覚ました。下っ端神官の朝は早いんだ。
「……………はぇ」
「ん、起きたのか…?」
目を開けたらすごく至近距離で迫力ある美形が視界いっぱいにあって変な声出た。誰…いや、そうだ、旦那様だ。
僕、夕飯の終わりくらいから記憶があやふやなんだけど、ベッドが広くて怖いって話をした気がする。頭の中を整理しながらじっと旦那様の顔を見てたら聞き取りにくい小声で何か呟いて頭を撫でられた。
顔は綺麗だけどやっぱり騎士様だなぁ。手が硬くてゴツゴツしてるのが伝わってくる。
「まだ寝ていていいが…あぁ、神官だと朝の礼拝があるのか」
「へ。あ、いえ僕は下っ端なので朝起きたら急いで聖堂の掃除をしなくちゃいけなくて…礼拝はしたことないです」
「……ん?」
「その後は他の神官の部屋からシーツを回収して洗ったり、野菜の皮を剥いたり色々やらなくちゃいけないので礼拝はした事ないし、よく知らないです…あの、ごめんなさい」
本当に何から何まで常識から外れた聖職者で申し訳ない。
礼拝をお望みなら新しい神官を雇って教えを乞いたいレベルだ。
「いや…すまない。驚いただけで責めてはいないが、そうか、確かに昨日も食事の前の祈りもしていなかったな」
「あ。そっか、そこもお祈りあるんだ」
本当に教会から来たのに、これじゃ疑われないだろうか。信心深い神官を妻に…って条件だったらどうしよう。もう結婚式挙げちゃったし承認されてるから最悪僕を殺すしか妻を入れ替える手段なくない?
(出来れば痛くない死に方がいいけど…)
僕、全然神官らしい仕事した事ない。どうしよう。神様の名前とか神話くらいなら孤児院で習ったけど駄目かな、お祈りすらしてない神官…駄目だね!全然駄目じゃん!
今から信じる心ってつくれる?心入れ替えますって言ったら生存いける?
「表情がころころ変わると思えばそんなに真っ青になって…ルミエルが思っているような事態は無いから安心しなさい」
「え。僕、殺されないんですか?」
「物凄い飛躍していたんだな。」
若干呆れたような顔で僕をわしわし撫でた後に起き上がった旦那様は、よく見たら上半身裸だった。まるで無駄のない筋肉に包まれた身体に戦いの痕跡がいくつも刻まれていて、痛々しさよりも勇ましさが際立っている。
「さて。俺は毎朝鍛練に行くようにしている。ルミエルはもう神官ではないし仕事もないからまだ寝ていなさい」
「旦那様の鍛練、僕も見に行っていいですか?」
「構わないが…つまらないぞ。あとは服をどうにかしなければな…」
「ん?」
肌の感触といい服は着ていると思っていたので起き上がったら、袖が長すぎて踏んでしまった。その拍子に右肩まで露出してしまう。随分と首元が広いな…んん?
よく見たらとても大きなシャツを身に付けていた。確実に僕のじゃないというか、旦那様が上半身裸の理由を察してしまった。
あれっ?修道服…あ、そうか。癖で脱いでたのか僕は
なんで気付かないんだろう。修道服とは全然違う肌触りなのに。
「ルミエルの百面相はいつまでも見ていられるな…まぁ、今日はもう少ししたら服屋が採寸に来るから、それまではベッドで過ごしていなさい。とりあえずサイズの合う服を用意してくれるだろう。本は好きか?」
「聖書以外は読んだことないです」
「それなら何か読みやすい物を一冊届けさせよう。これは、もう要らないだろうから預かっておく。ゆっくりしていなさい」
旦那様はそう言って畳んで置いていた修道服を掴んで出て行ってしまった。こんなに上等なシャツ、掃除して汚れちゃったら大変だね。大人しくしていよう。
「…僕も旦那様みたいなかっこいい身体になりたいなぁ」
掃除をしないなら何をしたらいいんだろ。やっぱり広すぎるベッドで、寂しさや怖さを感じながら…どうやったら筋肉つくかなって腕に力を入れてみたりして過ごした。
「こんなに高そうな服、着てもいいのかな…」
「とても良くお似合いですよ、奥様。次は散髪屋が来ておりますのでこちらへ」
「はーい」
無事に採寸を終えて、服屋が予め持ち込んだ既製服でサイズの合うものがあったのでひとまずそれを着ることになった。
少しフリルとかついてるけどシンプルなシャツとズボンだ。動きやすいし修道服とは全然違う。これも高そう。
「さぁ私めが奥様の御髪を美しく調えましょう。どれくらいの長さに切りましょうか?」
「んー。根元からざっくり?」
「ねもっ…んんッ…失礼しました。根元から、でしょうか?」
「うん。自分で切る時はいつもその長さにしてたから」
「なるほどー…ご自分で…」
「お待ち下さい。旦那様に確認して参ります。」
希望を聞かれたから普通に答えたつもりだったけど、散髪屋さんはぎこちなく笑ってるしメイドのお姉さんが待ったをかけて出て行った。
…と思ったら旦那様連れて結構すぐに戻ってきたし旦那様も一緒になってあれこれ話しながら僕の髪の長さが決まった。
背中の真ん中より少し上くらい?邪魔になりそうって思ったけど後ろで一纏めにして結んでくれたので僕としては何も言う事がない。
椅子から立ち上がって軽く頭を揺らしてみる。おお、軽いじゃん!
「さて。腹も減っているだろう。少し遅いが朝食にしよう」
「旦那様っ、立ってみたら軽いですね!服も髪も変えたらこんなに違うんだ!動きやすいなぁ」
「気に入ってくれたなら良かった」
「ん?」
頭を揺らしたり腕を回してシャツの感触を堪能してたら当たり前のように旦那様に抱っこされた。んん?
「靴は作るのに時間がかかるからな。しばらくは我慢してくれるか?」
「昨日のお風呂の後に借りてた靴じゃ駄目ですか?」
「………あれはサイズがやや大きい。ぴったりではない靴は転びやすかったり靴擦れを起こして怪我するから危険なんだ。」
「そうですか…では、ご迷惑おかけします。」
「羽根のように軽いから何も負担は無い。気にしなくていい。あと腕は首の後ろに回せるか?」
言われるままに首にしがみついてみたら頬がくっつきそうなくらい近くなって旦那様が一瞬変な声を出したけど何事も無かったように歩き始めた。
食堂についたら執事さんが待機してて、「旦那様……」ってなんだかガッカリした声を出してたのがなんか気になったけど、
夕飯の時みたいに食べさせてもらったし昨日よりしょっぱくなくてどれもこれも美味しかったなぁ…
「旦那様ぁ」
「ん?どうかしたか」
「僕にずっと構ってて大丈夫なんですか?その、騎士のお仕事とか…」
食事が終わってからも、やっぱり抱っこで移動するし、画家を呼んだからって客室でソファに座りながら旦那様に本を読んでもらっていた。
ちなみに僕のお尻の位置は旦那様の太腿の上だ。この方が読み聞かせやすいんだって。
「結婚後の調整期間という事でしばらく休みになっているんだ。細かい事はあまり言えないが…まぁ今の時期は出勤しても訓練の時間が殆どだから結婚をこの時期にしたのもある。」
「へー、まぁ僕は外の事情をよく知らないし、旦那様が良いならいっかぁ」
「そうだな。前向きなのは良い事だ。さて、続きを読もうか」
「はーい」
聖書しか読んだことがない僕に用意された本は、白と黒だけで表現された繊細な絵が沢山描き込まれた本だった。それを旦那様が朗読しながらページをめくるのを僕はただ見てる。
ご飯を食べたり、運んでもらったり、色んなところで旦那様にお世話をしてもらって物凄く優しくて良い人ってことはよくわかった。
386
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
勇者の「便利な恋人」を辞めます。~世界を救うより、自分の幸せを守ることにしました~
キノア9g
BL
「君は便利だ」と笑った勇者を捨てたら、彼は全てを失い、私は伝説の魔導師へ。
あらすじ
勇者パーティーの万能魔術師・エリアスには、秘密があった。
それは、勇者ガウルの恋人でありながら、家事・雑用・魔力供給係として「便利な道具」のように扱われていること。
「お前は後ろで魔法撃ってるだけで楽だよな」
「俺のコンディション管理がお前の役目だろ?」
無神経な言葉と、徹夜で装備を直し自らの生命力を削って結界を維持する日々に疲れ果てたエリアスは、ある日ついに愛想を尽かして書き置きを残す。
『辞めます』
エリアスが去った翌日から、勇者パーティーは地獄に落ちた。
不味い飯、腐るアイテム、機能しない防御。
一方、エリアスは隣国の公爵に見初められ、国宝級の魔導師として華麗に転身し、正当な評価と敬意を与えられていた。
これは、自分の価値に気づいた受けが幸せになり、全てを失った攻めがプライドも聖剣も捨てて「狂犬」のような執着を見せるまでの、再構築の物語。
【勇者×魔導師/クズ勇者の転落劇】
※攻めへのざまぁ要素(曇らせ)がメインの作品です。
※糖度低め/精神的充足度高め
※最後の最後に、攻めは受けの忠実な「番犬」になります。
全8話。
料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました
九条 雛
恋愛
和平の証として魔族の元へと嫁がされたエルネットは、作った料理が不味いと毎日なじられ続けていた。
それでも魔族の慣わしとして、家族の口へと入る料理は彼女が作らねばならないらしい。
侯爵家の令嬢で、料理をしたことがなかった自分が悪いのだと努力を続けるエルネットだったが、それでも夫は彼女の料理を不味いと言い捨て、愛人の元へ通いに行くと公言する。
ほとんど限界を迎えていた彼女の中で、ついに何かがプツリと切れた。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
悩ましき騎士団長のひとりごと
きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。
ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。
『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。
ムーンライト様にも掲載しております。
よろしくお願いします。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる