清らかな結婚生活

江多之折(エタノール)

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7.やっぱりモテるじゃん。

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今日はフィニスが急な仕事で城に呼び出されてしまって、僕は初めてのお留守番をする事になった。
まぁ聖職者である間は?基本一人で生きてきたようなもんだし?余裕だなガハハくらいに構えていた。


───初対面でモテそうって思ったけど、いや本当にモテるやないかい!な事件が起きるとは思いもしなかったよね。









「旦那様はあまり細かく口を出されないので、このメイド服も私達で決めたのですよ」
「へー!色とか共通点はあるけど、スカートの長さとか皆違うよね!」

困りますとは言われたものの、暇を持て余していた僕は洗濯をしているメイドさん達に混ぜてもらってお話をしていた。

「どこを担当するかで少しずつデザインが変わるんです。私達は今週は洗濯担当ですので…ほら、風を受けると裾がふわっと浮いて可愛いからロングスカートなんですよ」
「ほんとだ、可愛い!」
「他のお掃除の担当はパンツスタイルですね。機動力重視です」
「修道服もそれくらいバリエーション欲しかったなぁ。」

真っ白なシーツが風にそよいでパタパタと揺れる。大きなシーツは二人がかりでパンパンッて皺を伸ばすので僕も一緒にやらせてもらった。

「奥様に働かせるなんて、セバスに見つかったら雷が落ちますね」
「その時は僕がセバスに雷落とすよー」
「まぁっ」

クスクスと笑うメイドさん達に僕も笑った。留守番も楽しいもんだなぁ

「奥様、まだ行ってなければ庭園も庭師達が丹精込めて作っているのでお散歩されると楽しいですよ」
「あら、貴方の夫が庭師だからって売り込んで…」
「メイドさんと庭師さんが結婚してるの?」
「職場恋愛も関与されませんから、夫婦は何組もおりますよ」

話を聞けば聞くほど、フィニスは優しい旦那様なんだなぁと思う。使用人の皆、活き活きしてるもんね。

「お庭の散歩してみる!ありがとー」
「こちらこそ、お手伝いありがとうございました 」

結婚して半月も経ってないけど、すっかりこの屋敷に馴染んできたなぁとしみじみ思う。
綺麗に整えられた庭木を見たり、お花の香りを嗅いでみたり。僕が話しかけると仕事の邪魔になるのはわかってるからね!大人しく散策してるんだ。




「───フィニス様と結婚した孤児って貴方かしら? 」




この木は登れそうかな?って大きな木を眺めてたら、後ろから声がかけられた。

「へ?僕ですけど…」

振り返ると、胸元が大きく開いた豪華なドレスを着た女の人が立っている。この屋敷で見たことない人だ。
「ふぅん…」とバサッと音を立てて扇子を広げて口元を隠して僕を頭の先からつま先までじっくり眺めている。

「あの、どちらさまですか?」
「先に話しかけようだなんて失礼な孤児ね。身分の差というものも分からない恥知らずと結婚だなんて…フィニス様ったら可哀想だわ」
「…」

なんと。先に話しかけるのは不躾だった。ノーマナーだ。
謝るのもダメなんだろうかと黙って相手を見ていたら「呆れた。謝罪も出来ないのね」と更に畳み掛けられた。
ええい、話していいのか悪いのかどっちだ!

「……大変申し訳ございません。フィニスは今日は仕事で…」
「孤児如きが知った顔でフィニス様を語らないで下さる?本当に不快なんだから!」
「…すみません」

大聖堂にも居たなぁ、ただ虫の居所が悪い人。そのあと蹴られたりするから嫌なんだよなぁ。
この女の人はドレスだし蹴るとかしなさそうだけど……うわぁ、めっちゃくちゃ細いお腹だ。これはコルセットで絞めてる。よく喋れるなぁ

「なによ、ジロジロ見ていやらしい。」
「あ、いえ、ごめんなさい…コルセット苦しそうだなって」
「私が太いって言ってるの!?」
「言ってないです!!」
「言っているじゃない!女ですらないからフィニス様に相手をされないって僻んでるんでしょう?本当に可哀想なフィニス様!」

本当に苦しそうだと思って言ったのに激怒されてしまった。
どうしよう、このまま弁解してもこういう流れになると相手は聞いてくれない事の方が多い。
もういっそ、一発もらっとく?スパーンとやって気分晴らしてもらう?と黙っていると、女の人はニヤッと口角を片方だけ上げてフンと鼻を鳴らした。
片方だけ口角上げれるのか…僕も後で挑戦しよう。

「なぁんだ、孤児なだけあるわね。身体もガリッガリじゃない。女ですらなく、柔らかさの欠片もない…私が追い出すまでもなかったかしら?」
「…」

今のは謝罪は必要ないよな…喋っていいタイミングどこだ…
どうやら僕は追い出されるらしい。大聖堂に戻されるのかな、どうせなら野生で生きたい。
楽を覚えちゃうとあの生活には二度と戻れない怠惰な元聖職者だ。

「目も細すぎて開いているのか分からないわね。教養もない、顔も悪ければ身体も痩せこけて…捨てられるのも時間の問題ね。」
「…」
「図星を突かれて反論も出来ないかしら?まぁいいわ。今日は…」
「アリア伯爵令嬢!お一人で出歩かれては困ります!」

離れたところから見回りの兵の人が走ってきて、「あら。時間切れね」とフンと鼻をもう一度だけ鳴らして女の人は後ろを向いて、上半身だけ僕を振り返った。

「───今日はお茶会の招待状を届けに来たの。フィニス様との大切な時間を孤児に邪魔されてはたまらないわ。…どうすべきか、足りない頭でも理解出来るかしら。」
「…」

だから、いつ喋っていいのかわからないんだって。

女の人が兵に連れられて、屋敷に入って行くのを見守って、僕はようやく自由に発言出来るようになった。



「……あんな大きなおっぱいより、フィニスのおっぱいの方が大きいし温かいし、最高だもん」

僕におっぱいなんて求められたことないから身体がガリガリでも別にいいし。結婚はフィニスの方の事情って聞いてるし。

「糸目だって、可愛いって言ってくれるし」

教養は……確かにないけど。今もフィニスに食事は手伝ってもらってるし。

「………むぅ。」




────どうすべきか、足りない頭でも理解出来るかしら。


「頭、あるし。足りなくないし。」


フィニスに相応しい人間じゃないって、ちゃんと自覚してる。だって王族と結婚したなんて知らなかったもん。

「………ぐすっ」

政略結婚だけど、誓いのキスはしたもん。

「ぼくが、妻だもん…」

よく分からないけど、お腹がシクシク痛くなった。
…あの女の人がいる間は、邪魔しちゃいけないんだよね。

大丈夫。糸目だから泣いてもわからないよ。

──大きな木に、もう一度振り返った。

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