15 / 18
15.石の山を見ました
しおりを挟む───つい、嬉しすぎて調子に乗ってしまった。
結局朝まで続けてしまって、その後の僕は力尽きて寝てたけどフィニスはセバスさんから大説教されたらしい。
執事さんから説教されるご主人様…こういうの、風通しのいい職場って言うんだっけ?
お昼になってようやく起きた僕は遅めの食事をとってゆっくりと身体を休めていた。
「これはメイド達からの結婚祝いだそうだ」
「……!…!!…リトルセバスさんです!」
「違うと思うぞ。」
「違うんですか?」
フィニスは足腰立たなくなった僕を抱っこして移動する他なくなったけど、そうじゃなくても抱っこ移動は通常運転な気がする。自立とは。
まぁ、今日は仕方ない。過去をどうこう言っても仕方ない。うん!仕方ないんだ!いつか自立するんだ。
僕はソファで寛ぐフィニスの太腿の上に座ってプレゼントされた人形を眺めた。
「でも、この緑の目はセバスさんです」
「セバスのはもっと深い緑だろう。これはルミエルの瞳の色だな」
「!!!」
メイドさん達がくれたのは、リトルくんと同じシリーズの人形だ。緑の目をしたネコさん!
「僕、こんなに綺麗な色をしてるんですか?」
「この世に存在するどの宝石も霞むくらい美しい新緑の瞳をしている」
「…言いすぎじゃないですか?」
ともかくネコさんの目は本当に綺麗だ。また名前とか考えてあげなきゃ。
「うーん…リトルルミエル…は言いにくいですね」
「あくまでもリトルなのか…」
「お誕生日は今日です!」
「よしよし」
リトルくんと並べてみると、僕とフィニスみたいだ。なんだか嬉しい。
「…そうだ。決めるといえば、聖書の中身を決めないといけないんだった。」
「聖書ですか?」
「あぁ。大聖堂を建て替えて、俺が管理をするようになるから…聖書も新しく作り直すついでに多少中身をいじる」
「…おー?」
初耳だ。あんなに大きな建物、ほいほい建て替えられるのか。
驚いてフィニスを見ていたら、僕の唇を吸って「少し、見に行くか?まだ解体中だが」と提案してきたので、僕は迷わず行くと頷いた。
「これは……焼け野原ですね!」
「焼いていないぞ。随分と古い建物だったからな、修繕より建て直した方が早いんだ」
「ほへー」
フィニスに抱っこされたままの馬車移動は快適だった。ちょっとキスが多かったけど常に気を使われて至れり尽くせりである。
いやぁ、まさか自分が過ごした所が大聖堂だった何か、になっているとは。隣接している孤児院も跡形なく崩れて石の山だ。
「フィニスは騎士様じゃなかったんですか?」
「あぁ、辞めた」
「ふぁ?」
「辞めてここの司祭になる事にした」
凄い方向の転職活動だ。いつの間にそんなに話が変わったんだろう。
「新しい聖堂の設計図も作り始めているんだが…今住んでいる屋敷を手放して、ここに居住スペースを作るのもいいと思っているんだ」
「ほぇー…使用人の皆さん達とはお別れですか?」
「全員が教会に入ると言っていたな。まぁ俺が直接雇った者しか居ないから給料さえ用意出来れば大丈夫だ。」
屋敷の皆、漏れなく聖職者になるの!?
ぽかんとしていると、フィニスは少し困った顔をして僕を見た。
「…ルミエルも、一緒に俺と暮らしてほしいが…ここは嫌か?」
「フィニスがいるところならどこでもいいです!」
「そうか。……そうか」
「んんっ」
抱っこされてると顔の距離が近くていっぱいキスされる。でも嬉しいから何も問題がない。フィニスも嬉しそうだし。
瓦礫の山の前でしばらくチュッチュしてたら、いつの間にか近づいて来た人から気まずそうに声を掛けられた。
「……あの、フィニス殿下…ですよね。設計の事で相談が」
「あぁ、聞こうか」
フィニスは切り替えが早い。すぐキリッとした顔に出来るのは特技と言っていいと思う。
大きな紙を広げて話し合う二人を横目に瓦礫の山をもう一度見る。
今まで居た神官や、孤児院の人達はどこにいるんだろう。僕が知らないうちに何もかも消えてしまったようだ。
僕が朝から晩まで掃除して回ってたところも、虐められたくなくて隠れていた場所も、全てが跡形もなく崩れてる。
フィニスと結婚式した広間も…
「……結婚式………むぅ。」
いきなり政略結婚で必要になったからって準備させられて、コルセットは苦しいし慣れないヒールの靴で足が痛いのを我慢しながら歩いてたっけ。
結婚式って、幸せそうに笑う二人の夫婦しか見たことなくて、父と母になって無償の愛をつくるのかなとか、誰にもいじめられない毎日を送ってるんだろうなって、遠くから眺めては羨ましいなって思ってた。
だから、僕が結婚式するって聞いて少しは嬉しかったんだ。誰一人として祝福なんてなかったけど。
贅沢を言っちゃいけないのはわかってるけど、ほんとは、政略結婚じゃなくて……
「…ルミエル」
「あ。お話おわりましたか?」
なんだか考えごとしちゃってた。
フィニスの眉毛が下がってるから指でツンツンしてみたら、「帰ろうか」ともっと困った顔になった。
どうしたんだろう。話し合い、上手くいかなかったのかな。
馬車に入って座っても、僕はフィニスの腕の中だ。
「さて、お話の時間だな。」
「…元気、ないですか?初夜疲れた?」
「そちらはかつてないほど元気で満たされた。」
おぅ。一晩中やって満たされるのかぁ。
「我が妻はここまで俺を受け入れたのに、何も教えてくれないなぁと思ってな」
「はぅ…フィニス、それムズムズしてしまいます」
「おっと危ない」
お腹をツンとされて昨夜のフィニスので膨らんでたお腹を思い出してしまう。でもフィニスはそういう事をする気分じゃないらしい。
「むぅ……僕は、なにも怖くありません」
「やっぱり覚えているじゃないか。嘘つきな妻にはキスは当分お預けになるが」
「えっ!やだ!」
キスが出来なくなると聞いて思わず縋り付いてしまった。
どうしよう、我儘な妻もフィニスは受け入れてくれるだろうか。でもあんまり言っていいことじゃない気がする。
なかなか言い出せずに口をぱくぱくしていると、「お魚みたいな妻も可愛いな」と額にキスしてきた。お口にキスじゃない…!お預けされてる!
「うぅ…昨日から僕は我儘です。贅沢しすぎです。堕落の根源になってしまいます。」
「誰からそんな事を言われたんだ…」
「教会でよく言われてました!」
「ほう」
ハッ!フィニスの眉間が!今日はリトルくんはお留守番してるからクマさんパンチが出来ない!と思ったらすぐに笑顔になった。なんだかとても胡散臭いと感じる妻はダメかな。
「その教えは間違っていたから元々居た神官達はみーんな罰を受けて居なくなってしまったなぁ」
「はぇ?」
神官みんな罰受けてるの?びっくりしてるとフィニスはもっと笑顔になった。
「ルミエル。色んな力が働いて教会で一番偉いのは俺になった。つまりだ」
「つまり?」
「俺が教えだ。」
すっごい自信満々に宣言された。無敵かこの人。
「さすがに、そんな、神様みたいな…」
「俺にとって神様はルミエルだが」
「それはさすがに。」
ないです。信仰をバカにしすぎです。
僕が真顔で首を振ると、コホンと軽く咳払いして誤魔化してきた。
「まぁ、冗談だ。教会は新しく作るが、どちらかと言うと救済がメインだしな。」
「救済?」
「孤児院もあるが、困っていれば子供だけでなく様々な年齢の民を受け入れる受け皿としての役割だな。元々我が国において教会は福祉事業だから」
治安維持も考えると無差別には受け入れないが、と続けるフィニスに頷きつつ、難しいけど理解しようと考えた。
僕の知ってる今までの教会とは全然違う場所になりそうだ。
「話が逸れたが…困っている人の相談に乗ったり話を聞くのも教会の仕事になる。俺が最初に受ける相談者は世界で最も愛しい人がいいと思っているが」
「…むぅ。それは、僕じゃなきゃダメです。怒ります。」
昨日ようやく全部僕のになったと思ったのに、まだフィニスを取られる余地があるとは。
フィニスが誰か別の人の相談に乗ったらフィニスは愛しいって思っちゃうの?
「あぁ…悩み相談で聞き出したかったが、嫉妬する妻が尊い…可愛いを超えてこの世の言葉ではもう足りなくなってきた。どこまで行くんだ俺の妻は…可愛いを積み重ねたら天に届くんじゃないか…」
「フィニス!僕、ちゃんとお話します!だからっ」
お話聞いてくださいって服をグイグイ引っ張ってたらまた唇を丸ごと食べられた。
散々舌を絡められて口の中を舐め回され、すっかり息が上がった頃にようやく口が離れて僕は全身に力が入らない。お預けとは。
「はふ…ふぃに、」
「駄目だ。もう抱きたくなってきた。なんて魔性の妻だ。」
「おちついてくらさい、たいへんでしゅ」
フィニスが頻繁に言ってる「抱きたい」って、抱っこじゃなかったのかもしれない、と
ようやく僕は真実にたどりついた。
移動中の馬車で散々悪戯された僕は久しぶりにフィニスの上着でぐるぐる巻きにされた簀巻き抱っこスタイルで屋敷に戻った。
フィニスはまたセバスさんに大説教された。
307
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
勇者の「便利な恋人」を辞めます。~世界を救うより、自分の幸せを守ることにしました~
キノア9g
BL
「君は便利だ」と笑った勇者を捨てたら、彼は全てを失い、私は伝説の魔導師へ。
あらすじ
勇者パーティーの万能魔術師・エリアスには、秘密があった。
それは、勇者ガウルの恋人でありながら、家事・雑用・魔力供給係として「便利な道具」のように扱われていること。
「お前は後ろで魔法撃ってるだけで楽だよな」
「俺のコンディション管理がお前の役目だろ?」
無神経な言葉と、徹夜で装備を直し自らの生命力を削って結界を維持する日々に疲れ果てたエリアスは、ある日ついに愛想を尽かして書き置きを残す。
『辞めます』
エリアスが去った翌日から、勇者パーティーは地獄に落ちた。
不味い飯、腐るアイテム、機能しない防御。
一方、エリアスは隣国の公爵に見初められ、国宝級の魔導師として華麗に転身し、正当な評価と敬意を与えられていた。
これは、自分の価値に気づいた受けが幸せになり、全てを失った攻めがプライドも聖剣も捨てて「狂犬」のような執着を見せるまでの、再構築の物語。
【勇者×魔導師/クズ勇者の転落劇】
※攻めへのざまぁ要素(曇らせ)がメインの作品です。
※糖度低め/精神的充足度高め
※最後の最後に、攻めは受けの忠実な「番犬」になります。
全8話。
料理がマズいと言われ続けて限界がきたので、もっとマズいものを作って差し上げたら旦那様に泣かれてしまいました
九条 雛
恋愛
和平の証として魔族の元へと嫁がされたエルネットは、作った料理が不味いと毎日なじられ続けていた。
それでも魔族の慣わしとして、家族の口へと入る料理は彼女が作らねばならないらしい。
侯爵家の令嬢で、料理をしたことがなかった自分が悪いのだと努力を続けるエルネットだったが、それでも夫は彼女の料理を不味いと言い捨て、愛人の元へ通いに行くと公言する。
ほとんど限界を迎えていた彼女の中で、ついに何かがプツリと切れた。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
悩ましき騎士団長のひとりごと
きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。
ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。
『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。
ムーンライト様にも掲載しております。
よろしくお願いします。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる