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17.可愛い妻には地の果てでも粘着する(フィニス視点)
しおりを挟む「…眠ったのか」
「話が退屈だったみたいだ。この通りぐっすりと。」
後宮で家族と会って戻ってきたら俺の妻がソファに横たわって天使の寝顔を親戚の男に晒している。
確かに連日寝るのが遅くなったというか、抱き潰……まぁ身に覚えはあるから眠くなって当然と言えば当然か。
「ルミエル、待たせた。帰ろうか。」
「んぅ…」
一度眠ったらなかなか起きないルミエルは眉間に皺を寄せているが、俺の声は微かに届いたらしく両腕を前に突き出してきた。無意識下で甘えようとしている。寝ても起きても可愛らしい妻だ。
「……キミがそんなに人を好きになるとは予想外だったよ。」
「なんだセドリック。俺はもう帰るぞ」
妻を抱き上げて帰宅準備完了と思ったらセドリックがまだ話したそうな表情をしてトントンと指を膝に当てていた。
「今のフィニスは色に狂っているとしか思えないって事さ。個人の趣味嗜好があるからとやかく言わないけど」
親戚として少し心配だと続けるセドリックに、俺は鼻で笑い飛ばした。
「……ハッ。そんな事に疑問を持っていたのか。お前達にとっては狂っていた方が都合がいいんじゃなかったか?」
糸目は目を見開くと分かりやすいな。
──そうか。ルミエルが真っ黒だと言ったのはセドリックの瞳の色だったか。また人形を探さねば。
「…キミは、まさかわざと」
「勘違いをするな。俺の最愛に演技はしない。全てが真実、俺は正しく妻に狂っている。」
本来ならば、その最愛は演技で補うはずだったが──それが実行されていたら、俺は違う意味で崩壊していただろう。予測が甘かった。
本当に愛さねば、こんな事は出来ない。こんな日々は送れない。
「これは警告だ。余計な心配も世話もいらん。俺の在り方に疑問を持ち、兄弟で殺し合うか、父を殺すかしない未来を消滅させた俺の妻に感謝しろ。」
「……」
「教会をどうにかしたかったのだろう。好きにしろ。踊ってやる。俺は妻との安寧の日々を守れるならそれでいい。」
「……ほんっとに、恐ろしい男だよフィニスは。それだと本当にルミエルくんは天の使いじゃないか」
「だから言っただろう。新しくルミエル教を作ると」
「それは却下。」
チッ。駄目か。
俺を愛に狂わせ、世界平和をもたらす救世主たる神々しさの妻を抱きかかえて直したら、その心臓がやけに早く鼓動を奏でている事に気付いた。
「…セドリック。もう引き留めには応じない。今すぐ帰らなければ」
「キミは自由だね本当に…好きにしなよ」
溜め息は聞こえたが、もう振り返らなかった。
どこから話を聞いていたかもわからないルミエルは寝たフリを続けている。
正直、話を聞いても聞いていなくてもいい。
怖くなって逃げたとしても、ルミエルが帰る場所である教会は跡形も残っていない。
建て直されても俺の支配下にあるのだから、ルミエルは俺の腕の中以外に選択肢はない。
どちらにせよ妻を愛し、溺れて溺れさせるだけだ。
馬車に乗り込むと、俺は出発を待たずにルミエルの唇を貪った。
「!?っん、んんー!ふぃに、…んぅ」
「起きたか?」
「っはぁ、…僕が起きてたの知ってるでしょ!!」
「なにも話してくれなかったから寝ているかと」
「むぅ。」
頬を膨らませたルミエルが身をよじったので自分で座るのかと降ろしたら、俺に跨って座り胸に顔を埋めてきた。
この体勢は興奮するから控えてほしいところだが、俺の妻がする事に文句は言えまい。
「フィニスが怖い声出すから!話しかけちゃダメだと思ったんです!」
「ルミエルより優先される事象などないが…」
「あります。それはあります。あってください。」
これだから俺の妻は。本気で言っているのに完全否定されて悲しくなるじゃないか。真顔の妻も可愛い。
「むぅ…フィニス、僕が怖いと思ってること、わかりますか?」
「…相談の話か」
ルミエルの全てを知りたいと思う反面、実はあまり知りたくない部分ではある。
これで俺の事が怖いと明確にされたら心臓に杭が打たれた様なもんではないか。
…だが、俺は全てを享受すると誓っているからな。これは司祭としての相談第一号だ。
「僕、さっきのフィニス怖かったです。殺し合い…みたいなのは、教会で聞いたことなかったし、孤児の僕には家族を殺す事の重さが計れなくて怖くなりました 」
「……ルミエルが聞きたくないなら、もう二度と話さない」
例え逃げられようと、怖がられようと、嫌がられようと。何があっても手放さない。地の果てに逃げようと粘着して追い詰めて閉じ込めてでも共に生きてもらう。
ルミエルは俺の人生を変えた。価値観を変えた。無限の渇きを与え、無限の潤いを与え続ける太陽であり恵の雨であり、つまり世界だ。
だが、出来るなら怖い思いはしないで笑顔がほしい。
「そうじゃなくて…あの、フィニスが司祭になるなら、僕も教会で聖職者に戻るんですよね?」
「…そうなるが…嫌か?」
「嫌じゃなくて……僕、本当に罪深くて、悪い聖職者になる予感しかなくて」
何が言いたいのか、今のところ分からない。ルミエルの様子を見るに、俺を責めている様子は一切なく、むしろ自分を責めている。
──そして俺達の会話に関係なく、馬車は走り始めた。
ルミエルの揺れる上半身を抱き締めて固定する。やはり鼓動は早い。
「っ…あの、僕!フィニスを知れば知るほど僕のものじゃないの、嫌です!」
「?……ルミエルのものだが」
「いいえ!」
バッと密着した身体の間に小さな手を挟まれて離された。顔を上げた最愛の新緑の瞳が必死に俺を捉えている。
「ただでさえ政略結婚なのに、誓いのキスをして、言葉も、身体も僕のものになったのに。まだまだ僕の知らないフィニスがたくさんあるの、嫌です!」
「…怖かったのに?」
「怖いことでも!……僕の知らないフィニスがいるのが、僕達の間に入る隙が、怖いです」
毎日毎日、幾度となくキスで愛の誓いを上書きしているというのに俺の妻は満足していなかったらしい。
「───結婚式、するか。」
「ほぇ」
「政略結婚じゃない。愛し合う者同士としての結婚式をしよう。この国で最も盛大に、全国民に祝わせる規模で式を挙げよう。」
「僕たち、もうやりましたよ?」
「やっていない。」
ぱちぱちと瞬く気の抜けたぽかん顔の妻、下半身にクるな。何回戦目かの限界を超えたルミエルの顔に………おっと危ない。
「結婚式の証人も、誰も居ないし大聖堂もない。今までのは婚約期間だったに違いない。」
「無茶苦茶すぎます。」
結婚式に参列した人間が誰かは俺が決めたから把握している。実際、不正を働いた神官達の肩書きは剥がしたから証人はどこにもいないし、他も封殺出来る。
書面?俺の父は王弟で伯父が国王だ。職権乱用したら…
「フィニス、悪いこと考えてますね。」
「……」
「にこって笑った時は絶対にやましい事を企んでる時じゃないですか!ひゃぅっ」
おっと、つい身を乗り出したルミエルの小さくて丸い尻を鷲掴みにしてしまった。馬車が揺れて危なくて。
あぁいけない。揉みしだいてしまう。魅力的すぎる。とんでもない尻だ。
「っフィニス!誤魔化されません!!」
「でも、政略結婚じゃなくなるのは?」
「…ぅ……嬉しい、です」
むぅ。と唇を尖らせたルミエルに、やはり俺の妻は最高に可愛いなと無意識に頬が緩んでいた。
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