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18.物語を締めるなら
しおりを挟む僕の旦那様はかっこいい。
背が高くて筋肉ムキムキで、黒い髪は下ろしたらミステリアス、かき上げたら凛々しい眉毛が露出して一気に色気が増してしまう。
周りから視線を集めやすくて妻の僕は大変だ。
「…むぅ。フィニスの司祭服、ちょっとエッチです。誰も止めなかったんですか」
「セバス、どうしたらいい。身体のラインが出ないように徹底してデザインしたのに我が妻が神々しさを超えて色気が爆発している。この世の神秘に今触れているのではないか」
「………お二人共、私に意見を問うのはおやめ下さい」
セバスさんも含め使用人の皆が聖職者の服を身につけて真新しい大聖堂を忙しく歩き回っている。
今日はみんなでお引っ越しの日だ。
「奥様、お人形さん達はどこに運びますか?」
「ルミエル専用の部屋があるからそこに。夫婦の部屋の隣だ。セバス、使用人達が迷わないよう案内してやってくれ」
「かしこまりました。」
僕の代わりにフィニスが指示を出して、セバスさんも居なくなった。みんな忙しそうだと僕はフィニスに両手を伸ばした。
すぐに抱っこしてくれたフィニスの胸に頬っぺたを当てて感触を楽しむ。お金を払って雇っているのに僕がお手伝いするのはよくないって散々言われてるからね。大人しくしているんだ。
「僕の部屋があるんですか?」
「人形置き場みたいなものだけどな。すっかり多くなってしまったから日替わりで連れて歩く子を選んだらいい。」
「わぁっ!お人形さんのお家!」
どうしよう、嬉しすぎる。後で見に行くのが楽しみだ。今は使用人さん達がバタバタ動き回ってるから邪魔しちゃいけないので我慢せねば。
「どうだルミエル、触って痛いところはないか?抱っこ出来るように装飾は刺繍だけに留めたんだが…」
「銀色の刺繍がキラキラして綺麗です!おっぱいもふかふかで気持ちい」
「おっぱいは意図しなかったが、気に入ったなら良い」
ちょっとエッチなのは頂けないけど、僕を抱っこする為に沢山考えてデザインしたなら文句は言えない。
以前着ていた修道服とは全然違って触り心地の良い布で作られた僕の祭服も裾に光沢のある青い糸で刺繍が施されていて動く度にキラキラ光って綺麗だ。
僕が足をパタパタさせて楽しんでいたら、石の床をコツコツと鳴らす足音が遠くから聞こえてきた。
「やぁフィニス、式場の下見に来たよ。」
「わざわざ来たのかセドリック」
「王族全員を招くからね。警備とか色々と考えると直接見て判断した方が楽なんだ。こんにちはルミエルくん」
「こんにちは、狐のお兄さん!」
「名前で呼ぼうね」
大聖堂の間取り図を片手に登場したセドリックさんに、フィニスも警備の事ならと話をしたそうだったので僕は降ろしてもらって一人で散歩することにした。
「あまり遠くに行ってはいけないぞ」
「はーい」
「…ひとつ聞きたいんだけど、ルミエルくんの年齢は?」
「20歳です!」
「……20。」
「うちは自己申告制を採用している。」
「…ちゃんと調べてあげなさい。」
またフィニスとセドリックさんが言い争う空気になったので僕はさっさと離脱した。
大聖堂に隣接して孤児院、保護施設、庭園と色んな所で使用人さん達が働いている。
やはり邪魔をしないならここだろうと、建て直し前から唯一残された大きな木の下に僕は来ていた。
「ふふん。木登りは得意だもんね。僕に暴力振るう人は居なくなったけど…純粋に木登り好きだし。」
この木はでこぼこしていて登りやすいんだ。
僕は幾度となく避難所として使った大木の上まで久しぶりに登った。
大聖堂の敷地からは出たことがなかったけれど、景色だけはいつも見てた。
「──フィニスのお屋敷、ここからも見えてたんだ。」
お城はわかるよ。でもその他の建物は景色の一部としか認識してなかったんだ。もっと早く知り合ってたら、きっと毎日木に登って見てたかも。
「そんなことは絶対にありえないけど…」
僕はたった数ヶ月しか暮らさなかった屋敷。そこは親を知らない僕に、寂しさすら知らなかった僕に優しさを教えて、寂しさを教えてくれた場所。
フィニスの事を全て知らなきゃ、一緒に居られなきゃ
怖いって思ってた。でもその感情は怖いじゃなくて。
「僕はずーっと、寂しかったんだ。」
誰かに必要とされること、誰かに好きと言われること、誰かを愛せること。知れば知るほど満たされて、知れば知るほど欲の器は大きくなって。
そしていつしか、これが寂しいって事なんだと気がついた。
「また聖職者になったけど、今度は神様も優しくしてくれるかなぁ」
「奥様…ッ!?」
「ん?」
下から声がしたと思えば、メイドさんだった。シスター服も自分達でデザインしたんだよね。とてもよく似合って…
「コードネコちゃん!コードネコちゃん!!…奥様!もう少し耐えて下さい!」
「へ?」
「コードネコちゃんだと!!」
「クッション早く!!」
「奥様!すぐにお助けします!!」
「え…ちょっと、」
「コードネコちゃんだ!!」
───待って。コードネコちゃんって何。
使用人の皆が大慌てで、僕が登っている木に集まってきた。その中には血相を変えたフィニスもいる。これ…デジャヴだ。
「……………もーーー!!!違うの!!降りれるの!!」
「奥様!大丈夫です!この時の為に大きなクッションも用意しています!」
「ルミエル!クッションが怖かったら俺が受け止めるぞ!」
「違うんだってば!僕は大丈夫なの!」
なんで皆信じてくれないの!!というかコードネコちゃんなんて名前ついてたの!?
「ルミエル!大丈夫だ、降りられなくても恥ずかしがる事はないぞ!」
「本当に降りられるのに…!」
フィニスも使用人の皆も、寂しい気持ちを思い出す暇も与えてくれない!
むぅ。僕だって出来ることはいっぱいあるんだ。なんでもかんでも助けてもらわないと生きていけない子供じゃないんだ。
「コード…リスちゃん…!」
使用人の誰かから声が聞こえてきた。誰だ。
「ルミエルー拗ねるのも非常に可愛いが俺以外をあまり魅了しないでくれー」
「してない!もー!」
降りればいいんでしょ!降りれば!!ていうかフィニスさっきから変なこと言ってない?
僕は皆に応援されながら木を降りて、もう大丈夫かなって頃合いでフィニスに向かって飛び込んだ。しっかりと抱き留めてくれる厚い胸板はやはり良い。
「むぅ。見ましたかフィニス!僕は自分で降りられるんです!」
ほら、証明してやりましたよ!と気持ちを込めてフィニスの顔を見ると、何故かフィニスは感極まった顔をして泣いていた。こんな時に旦那様の泣き顔なんて見たくなかった。初めての泣き顔である。
「よく頑張った…怖かったろう。偉いなルミエル」
「奥様!素晴らしい足さばきでした!」
「恐怖に打ち勝つ姿、神々しささえありました…!」
大勢からの拍手に大喝采。どうしてこうなるのか。
まるで奇跡が起きたかのような歓声に包まれ、僕は徐々に顔に熱が集まるのを感じた。
「…………あの」
「ルミエル?」
「僕…恥ずかしいって気持ち…知りました」
もう二度と木登りはしない。僕は自分に誓いを立てた。
「顔が真っ赤に染まる妻……これは、いけない…」
「…旦那様、理性を飼い慣らして下さい。」
「うぅぅ…もう、お顔上げられないです…恥ずかしいです」
「……今すぐ寝室に行こう」
「旦那様。理性を簡単に捨てないで下さい。」
セバスさんに叱られても動じないフィニスに、顔が熱くて必死に隠す事しか出来ない僕。もう、なにこれ。
「──そうして二人は末永く幸せに過ごしましたとさ、ってね。」
騒ぎから離れたところでセドリックが呟いた言葉は、誰にも届かず大聖堂の静けさに溶けていった。
悪ふざけの延長のような、近くに居るだけで耳に響くような、そんな騒がしさの中に激情をぶつけ合い、真の愛を誓う二人の結婚式は盛大に行われることとなる。
「病める時も、健やかなる時も、互いを信じ、愛する事を誓いますか」
一見ただ決められた形をなぞるだけの儀式。
言葉にするのは簡単だ。行動して見せるのは簡単だ。
問われた言葉に真摯に向き合い、命尽きるその瞬間まで愛すことを、毎日、毎日、何度でも。誓う事が出来る人間を清らかと言わずして何と言う。
「───誓います。」
唇を通して、何度でも。信じていると。愛していると。
新緑の瞳が潤み、その表情は花が咲くように綻んだ。
ただ愛し合う。そんな当たり前の事に全力な二人の物語をまた、どこかで。
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改めて調べてきました!はとこ、じゃなくて血縁なしの親戚ですね…!修正します!ありがとうございます!
気付ける人が気付いたらいいなぁと小ネタのヒントでセドリックだけちゃんと外見と名前が出ています。フィニスが何を知っていて、何を知らないかを前提に考えないといけなくなって少し苦労しましたが…!
終始悪ふざけしかしてないようで、無自覚に知らないどこかの誰かを救ってる話を書きたかったのです。
いつも助言と感想、本当に嬉しいです!ありがとうございました!