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本編
9.高鳴る鼓動は薬のせい
しおりを挟む(本当に、この薬は嫌いだ)
運ぶなら睡眠薬だの麻痺薬だの、選択肢はあるだろうに。
味を覚える程に服用させられてきたこの薬は、本当に嫌いだ。
「こんなに顔は赤いのに、表情は変わらないのですね…益々楽しみです」
興奮剤を飲まされて、醜態を晒したくなければ大人しくついてくるようにと剣を向けて脅されてしまえば、私は従う他ない。
何がなんでも死ぬわけにはいかない身だ。尊厳を破壊されようと、私は生きて王になる。
テントの外は、まだ混乱が収まっていなかった。
「殿下のご安全のため、先に帰還します」と男が周りに報告しながらさも周囲を警戒してると言わんばかりに私の肩を抱いて歩く。
ヴィルヘルムが戻ってくる前に馬車にさえ乗り込めば、後はこの男の思い通りに事は進むだろう。
足が震えて徐々に歩きにくくなっている。鼓動がドクドクと早まり、息苦しい。
「…表情なくとも、顔を赤らめて汗を流すだけで想像を絶する色香ですね」
「ッ…」
私を支える男の手が尻を撫でて、その刺激に身体が跳ねた。あまりに屈辱的で、足が止まりそうになるが男はそれを許さない。
「ほら、早く馬車に入らないと恥ずかしい思いをするのは殿下ですよ?」
気がつけば馬車の目の前まで来ていた。
ヴィルヘルムは間に合わなかったかと勝手に期待して、勝手に失望する。私はどこまでも愚かだ。判断を間違えたのは自分のくせに。
「流石にこの状態だと自分で乗り込むのは厳しいですね…私が抱いてあげますから、暴れないで下さいね」
嬉しそうに私を横抱きにして、次の瞬間にはガクリと崩れ落ちた。
抱き上げられたと思ったら地面に投げ出された私は訳も分からず、ただ薬に蝕まれた身体に耐えるしかない。
ドサッと地面に打ち付けられるような音が続いて、視界の端に男に協力していた護衛も倒れたのが見えた。
「…ヴィル」
これは、なんとなくだ。願望に近い。
戦場から戻ってきたヴィルヘルムが助けてくれたあの日から
私の異変に一番に気がついてくれるのは、いつもヴィルヘルムだから。
動けない私に近付く足音が、弟であってほしい。
「お前は、自分がどれだけ狙われやすいか自覚しろ」
「自覚、した。…間違えてしまった」
「チッ…離れて悪かった」
地面に転がった身体が再び宙に浮いた。あの日はとにかく醜態を晒したくなかったのに、今はただ安心感を得ている。
全く同じ流れを作ってしまった愚かな私は、すっかりこの腕の硬さを覚えてしまった。
「は……悪いのは、私だ」
「………こんな状況で、初めて笑顔見せてんじゃねーよ」
───もう大丈夫だ。そんな確信を抱いて、私は意識を手放す事にした。
全身がガタガタと揺れる。
相変わらず速い鼓動と、熱い身体。
「…馬車か」
「どうした、苦しいか」
目を開くと、ヴィルヘルムが珍しく眉を下げてこちらを見ている。馬車の中で横抱きにされているようだ。互いの顔の距離は近いが、毎晩見ているからむしろしっくりくる。
ふぅ、と息をつくと熱く湿った息が吐き出された。
「苦しい、熱い」
「城に戻ってるからもう少し我慢しろ。…今回も同じ薬だな?」
「おなじ…件の、私に執着していた、」
「………殺しておけば良かったか」
上手く喋れないが伝わったようだ。
ヴィルヘルムの獰猛に輝く瞳に、何故だかゾクリとして下半身がむず痒くなった。
「なに、笑ってんだよ」
「……笑って」
「さっきから笑ってんだろ。」
自分の顔に触れようと手を上げると、その手はブルブルと震えている事に気が付いた。この手では自分の顔も確認出来ない。
呆れた顔でヴィルヘルムは溜め息をひとつついた。
「ったく…寝とけって」
「…私も、意識がない方が、楽、だが…」
過度な興奮状態で、馬車の揺れすら刺激になるから今は眠れそうにもない。
内に籠った熱がとにかく不快で仕方ない。
「ヴィル」
「なんだ?今回ばかりは事後処理は俺がするからな」
「それは、頼む」
「…他に何かありそうな顔してんな」
誰からも理解されない表情を、何故か読み取るヴィルヘルムにはいつも感心する。
「この間のように、処置をしてもらえるか」
「……」
以前、興奮剤に苦しんだ時にヴィルヘルムが処置をしたら信じられないくらい身体が軽くなっていた。
詳細は教えて貰えなかったから、これを機に知って備えたい。……二度と飲みたくない薬だと毎回思っているが。
ヴィルヘルムは気まずそうに顔を歪めて考えているようだ。やはり何か特別な薬か何かを飲ませていたのだろうか
「……………はー…」
「難しい、か」
「いや、俺が悪かった。…本当に苦しいんだな」
こくりと頷き、耐える覚悟をして目を閉じると身体がグンと空気に引っ張られるような感覚がして驚いている間に馬車の座席に一人で座らされていた。
車輪が何かに当たる度に馬車全体がガタンと揺れて、抱き上げられていた時とは段違いの衝撃が身体に伝わり余計辛くなる。
「ヴィルッ、これは、きつい」
「大丈夫だから。ほら、俺の頭掴んでろ」
床に膝をつき、私の足の間に身体を挟ませたヴィルヘルムがカチャカチャとベルトを外し、私の昂りきった陰茎を取り出した。
外気に当たった感覚だけで歯痒いような、なんともいえない刺激に頭が焼き切れそうになる。
荒くなる息を抑えることも出来ず、いつも撫でている頭を掴むことしか出来ない私の顔を見ることなく、ヴィルヘルムは大きく口を開けて私の陰茎を咥えてしまった。
「ッ──!!」
全身に鳥肌が立つ。ドクドクと排出される熱と、ぬるりとしたヴィルヘルムの口の中に混乱していると、ゴクリと喉を鳴らす音がやけに耳に響いた。
「なに、を、ヴィル」
「いいから、倒れないようにしがみついとけよ」
大きな舌が私の陰茎の裏を這う。すぐにまた昂り硬くなった陰茎を口に含んでジュポジュポと水音を響かせた。
「う、あ、ヴィル、すわって、いられ…」
ヴィルヘルムの頭を抱き締めるように、必死にしがみついて刺激に耐える。二回目の熱を吐き出したところで馬車が止まった。
「ヴィル、たすけて」
「…大丈夫だ。誰にも見せねぇ」
助けて欲しい、なんて初めて言ったかもしれない。
私の必死の頼みにヴィルヘルムは素早く服を整えて、自分の上着を私の頭に被せた。
(確かに、ほんの少しだけマシになった)
一歩も動けそうにない私を再び横抱きにしたヴィルヘルムは馬車を降り、歩き出す。
「第二王子殿下、これは…」
「ランスの暗殺を狙われた。犯人は次の馬車に乗せてるから生きてる奴は手当しろ。…ランスは俺が診るからしばらく誰も寄せ付けるな」
「………畏まりました」
大股で歩くヴィルヘルムから伝わる振動で時々ピクリと反応してしまう身体に力を入れる。
小さな声で「もう少しだけだ。耐えろよ」と言ってくるヴィルヘルムに先程の行動について聞きたかったが、不思議と不快感は全くない。
自分でも重症だなと思いながら黙って刺激に耐えていた。
「よく耐えたな。もう大丈夫だ」
「熱い…」
ベッドに寝かされたところで、首元を緩めようとしたが手の震えでボタンが外せない。
すかさずヴィルヘルムが手を貸し、服を脱がしてくれた。
「ヴィル、短剣が」
「あぁ…当たって痛いな。土もついてるし、全部脱ぐか」
着替えどころか風呂も常に使用人の手が入るので人前で裸になる事は羞恥も何もないが、下着を脱がされた時にブルンと再び熱を持った陰茎が飛び出して流石に恥ずかしくなった。
「まだ苦しいか」
「…」
こくりと頷くと文句も言わずにヴィルヘルムが再び私の陰茎を口に含んだ。
「ふ、ぅ」
しがみつく為ではなく、撫でる為に右手をヴィルヘルムの頭に伸ばしたら手を取られて指を絡められた。
戦いを経験した男の大きな手は私より大きく、やはり愛しいという感情が最初に出る。
「ヴィル、情けない兄で、すまない」
「…情けなくねぇよ」
丁寧に、私を傷付けないように舌を這わせるヴィルヘルムに快楽を感じている。そんな醜悪な感情は、知りたくなかった。
───決して、実るはずのない感情に、気付きたくなんてなかった。
「…泣くなよ、ランス」
「っ薬のせい、だ」
つらい、苦しい、…ヴィルヘルムが、愛しい。
「そうだ。全部、薬のせいだ。ランス」
私だって、ヴィルヘルムの感情を読み取ることは出来る。
何年共に居たと、何年ヴィルヘルムを見てきたと思っているんだ。
私達は、同じ感情を内に秘めている。
繋がれた二人の手だけが、この時間を肯定していた。
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