龍捕る猫は爪隠す

さか【傘路さか】

文字の大きさ
9 / 9

にゃおにゃんにゃん年にゃん月にゃん日

しおりを挟む
※「龍捕る猫は爪隠す」の番外編です。
本編のネタバレを含みます。





-----


 雑誌に夢中になっている成海の隣でテレビを点けると、冒頭から可愛らしい猫の映像が流れ始める。どうやら今日は語呂がにゃん月にゃん日だそうで、それにかこつけて猫の動画特集をしているようだ。

 僕が隣に視線を向けると、雑誌は横に撥ね除けられ、じぃっと彼の瞳はテレビ画面を向いていた。色とりどりの猫たちの可愛らしい様を食い入るように見つめている。

 僕がじっと成海を目で追っているのにも気づく様子はない。そっと隣から離れると、リビングから自室に向かった。

「『浮気は断じて許すまじ』」

 そそくさと服を脱ぎ捨てると、猫の姿に転じる。僅かに開けて出たドアから身を滑り込ませてリビングへ戻り、音を立てないようにすす、と部屋を移動する。

 テレビの音に紛れて背後まで近付いた僕は、ぴょん、と成海のいるソファの背に飛び乗った。

「うわ」

 背後が沈み込んだことに驚いた声が上がる。僕はするりと肩から彼の膝に飛び下り、膝の上で仰向けになった。

 前脚でふかふかの腹の毛をかき混ぜ、ここ、と指す。

『かまって』

 みゃ、と端的に告げた言葉に、うっと声が漏れ口元が覆われる。

 最近では人の姿にも同じ反応を返すようになった彼は、感情が振り切れるともうダメらしい。口をもごもごさせて、何らかの欲望を押し殺している様をよく見掛ける。

 そんな成海が一杯いっぱいになっている様が、僕の独占欲を満たすのだ。

『……他の猫のほうがいいの?』

 子猫のような一段と高い声で、触れてこない彼の手を招く。

 一瞬の間を置いて、慌てて伸びてきた手を捕まえると、ざりざりの舌で舐めた。

「そうじゃなくて、オーバーキルというか……」

 あぁ……、と声を漏らして目元を押さえている成海は、ようやく僕を撫で始める。掌の窪んだところに頬を当て、ごろんごろんと身体を曲げた。

 テレビからの音声が漏れて成海がそちらに目を向けようものなら、彼の腹に頭を押し付けてかまえと強請り、視線も手も自分に引きつけて離さないようにする。

『やだ。さみしい』

 最終的にはリモコンを操作してテレビを消してしまい、べた、と彼の膝に乗り上がった。ずっと雑誌ばかり読んで、それからテレビを見始めてしまって、今日は特に甘えたい欲が満たされなかった。

 成海は暴挙を繰り広げる僕の頭を撫で、ふんわりと唇を緩めた。

「俺が構わなかったからか?」

『そう。雑誌ばっかり、あとテレビばっかり』

 ああ、と成海は傍らに寄せた雑誌を見やる。彼は雑誌を持ち上げると、折り目を付けていた場所を開いた。

 そのページにはペット同伴向けのホテルが取り上げられており、大きな風呂が付いているような部屋もある。

「玲音が猫モデルとしての撮影した時、付き添いで俺にもバイト代が出ただろ? 予定外の収入だったし、それを元手に旅行に行けないかと思って」

 どうやら、僕が疲れても猫に気軽に戻れるようなホテルを探していたらしい。夢中で読み込んでいた所為で僕に構えなかった、とのことで、ごめんな、と大きな両手で顔をもみくちゃにされる。

 その掌を肉球で押さえながら、その顔立ちを見上げる。

『……勝手に嫉妬しちゃった。ごめんね』

「いや。嫉妬するくらい好きでいてくれるんならいいよ」

 僕を抱え上げると、ぎゅう、と抱き竦められる。ん、と頬にキスが落ちるが、猫の姿では毛が間に挟まって感触が伝わりづらかった。

 成海の顔を前脚で捕まえて、すりすりと鼻先を擦り付ける。

『うん。嫉妬しちゃうくらい大好き』

「じゃあもう許した」

 折角だから、とブラッシングをしてもらい、僕はうにゃうにゃとやりながら満足げに息を漏らした。

 毛並みが整った僕が成海の隣で寛ぎ始めると、彼は不思議そうに僕を見る。

「人に戻らないのか?」

『疲れるんだもん』

「一緒に風呂に入るって言ったら?」

『戻る』

 お風呂入ってくれるの、と甘えに掛かると、承諾の言葉が返る。

 本格的に他の猫から奪い返したことに満足の息を漏らすと、彼はそんな僕を目を細めて眺めた。

『僕のいるとこで他の猫ばっかり見ないでね』

「……善処します」

『うんって言って!』


 成海はにゃごにゃご駄々を捏ねる僕を抱き上げると、僕の着替えを拾いつつ浴室へ向かうのだった。



しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

処理中です...