10 / 12
第三王女は亡命したらしい
しおりを挟む
五名の騎士たちは、翌日からは騎士に見えない格好になっていた。金持ちの貴族とその護衛、という見た目だ。かんぬき騎士が金持ちのボンボンで、その他が護衛。
馬車の中に平民少女を拉致監禁している金持ち一行は、町でそれなりの宿をとり、翌日には出発するということを数回繰り返し、ついに国境へとたどり着いた。
「おかえりなさいませ!」
出迎えの言葉が中まで響いてきた。
うちの国のお隣さんで、周辺国一番の強大国の騎士だったらしい。それも、本人たちの主張によると陛下直属。
やっぱりというか、なんというか、国境をこえるというのに馬車の中身の確認はされず、私を連れた一行はそのまま走り出した。
それからしばらく走り続け、馬車は再び停車した。
扉が開かれ、外にはまたかんぬき騎士。
「長旅お疲れ様でございます。目的地に到着いたしました」
「……そうですか」
「夕食のあと、ご質問にいろいろお答えしようと思いますが、どうでしょうか?」
「今ではダメなんですか?」
「私はともかく、王女殿下は少し休まれた方がよいでしょう。体の疲れをいやし、温かい食事で英気を養った方がよろしいかと思います」
「平気です」
だから今すぐ私の質問に答えろと目で訴えると、貴族の恰好をしたかんぬき騎士は少し困ったように笑った。いや、困っているのは私の方ですから。
「湯あみの準備が整うまでの間でしたら」
ひょいっと私を横抱きにすると、かんぬき騎士は周囲に指示を出しながら歩き始めた。
「すぐに湯の用意を。それから温かい飲み物と……甘い菓子もあったほうがいいだろう」
「おろしてください。歩けます」
「ご自身が思うよりも限界は近いところにありますよ。いきなり連れ去られた現状で、平常心を保っていることの方に私はおどろいています。さすが王族、と感心しております」
「この国に比べればとんだ弱小国ですけどね」
土地の広さ、戦力、科学力、なにを比べてもうちの国がこの国に勝てる可能性はない。いや、あるとすれば国民の謙虚さとか素直さとか、豊かな心とか……。
むすっとしたまま運ばれること数分。
わたしは広い部屋のソファーにゆっくりとおろされた。わたしたちの後ろをついてきてた女騎士がワンピースのちょっとした乱れをささっと整えて、扉の前に移動していった。どうやら彼女はこの部屋の扉を守る仕事をするようだ。長旅のあとなのにご苦労なこと。
「それでは改めまして。私はエーゼンシュタット国の王位継承権第五位、アシュラス・エーゼンシュタットと申します」
「はい?」
王位継承権、五位って……王族か王族の血がとても濃い大貴族……。
「父が現王の弟なだけで、私自体はただのいち貴族なんです。王子でなくすみません」
一応順位がそう決まっているものなので……と、本人は少し申し訳なさそうにしている。
「話を戻しましょう。それで、エーゼンシュタットほどの大国が、弱小国の元王女になんの御用でしょうか?」
「もと?」
「宿を出るときに、王女の身分は捨てました」
「……そんなに簡単に捨てられるものではありませんよ」
私より年上のかんぬき騎士あらためアシュラスは呆れたようにそう言うと、今回の誘拐事件の目的を簡単に説明してくれた。
「つまり、王女としてではなく、私個人の能力が欲しい、と?」
「そうなりますね。ただ、なんの身分もないディディより、サテラス国のメロディア様の方がなにかと都合が良いのですが」
エーゼンシュタット国は、国の内外から優秀な者を集めて、ガスや電気の開発から実用化、上下水道の設営まで幅広い分野で最先端の技術と科学力を誇っている。
そしてその技術はすぐ隣のうちの国にも恩恵として流れてくるわけだ。まあ、お隣さんからの親切心ではなく、高額な金銭取引が両国間にしっかり存在してるけど。
「サテラス国は我々の技術を素早く吸収し、応用という部分では一部ですが我が国を抜いていました。その優秀な発案者がメロディア様だと判明した時には、すでに遊牧の民との婚約が成立しておりまして……まさか、技術者でも管理者でもない王女が全て提案していたなどとは思わず、我が国の諜報員は相当苦労したようです」
そりゃ、電気もガスも、呼び名は違っても似たようなものだから……。
街灯にしてもらったり、ガスコンロ作ってもらったり、貴族の家に電線通してみたらとか、大きなガスボンベ置いたらとか、ライターや部屋のライトとか、とりあえずいろいろ提案だけはしたけど。
前世の電気やガスの使い方は知っててもその仕組み自体は知らないから、結局今もどういう感じで作られているのかなんて知らないままだし。
実現した機能もあれば、説明しきれず消えた発言も沢山ある。ネットとかテレビとかデジタル写真とか!
「とりあえず王女殿下の嫁入りを考え直してもらい、その間に使者を立ててうちの王太子との婚約を迫ろうかと思っていたところ、窓からシーツを投げるメロディア様を発見した次第でして……」
「え!? 誰か見てたんですか!!?」
アレを誰かに見られていたなんて。
一国の王女がシーツに捕まり壁をズリズリと移動するあの姿を……。
「驚きました。心臓が止まるかと思いましたよ」
しかも、目の前の人に見られてた。
「当初の予定では宿へ侵入し、護衛を無力化したあとで王女殿下へ我が国の陛下からの文を届ける予定でしたが、本人が望まぬ婚姻であるなら、そのまま亡命のお手伝いをしようと思いまして」
アシュラスは誘拐の計画と実行は自分の独断だと爽やかに言い切った。
馬車の中に平民少女を拉致監禁している金持ち一行は、町でそれなりの宿をとり、翌日には出発するということを数回繰り返し、ついに国境へとたどり着いた。
「おかえりなさいませ!」
出迎えの言葉が中まで響いてきた。
うちの国のお隣さんで、周辺国一番の強大国の騎士だったらしい。それも、本人たちの主張によると陛下直属。
やっぱりというか、なんというか、国境をこえるというのに馬車の中身の確認はされず、私を連れた一行はそのまま走り出した。
それからしばらく走り続け、馬車は再び停車した。
扉が開かれ、外にはまたかんぬき騎士。
「長旅お疲れ様でございます。目的地に到着いたしました」
「……そうですか」
「夕食のあと、ご質問にいろいろお答えしようと思いますが、どうでしょうか?」
「今ではダメなんですか?」
「私はともかく、王女殿下は少し休まれた方がよいでしょう。体の疲れをいやし、温かい食事で英気を養った方がよろしいかと思います」
「平気です」
だから今すぐ私の質問に答えろと目で訴えると、貴族の恰好をしたかんぬき騎士は少し困ったように笑った。いや、困っているのは私の方ですから。
「湯あみの準備が整うまでの間でしたら」
ひょいっと私を横抱きにすると、かんぬき騎士は周囲に指示を出しながら歩き始めた。
「すぐに湯の用意を。それから温かい飲み物と……甘い菓子もあったほうがいいだろう」
「おろしてください。歩けます」
「ご自身が思うよりも限界は近いところにありますよ。いきなり連れ去られた現状で、平常心を保っていることの方に私はおどろいています。さすが王族、と感心しております」
「この国に比べればとんだ弱小国ですけどね」
土地の広さ、戦力、科学力、なにを比べてもうちの国がこの国に勝てる可能性はない。いや、あるとすれば国民の謙虚さとか素直さとか、豊かな心とか……。
むすっとしたまま運ばれること数分。
わたしは広い部屋のソファーにゆっくりとおろされた。わたしたちの後ろをついてきてた女騎士がワンピースのちょっとした乱れをささっと整えて、扉の前に移動していった。どうやら彼女はこの部屋の扉を守る仕事をするようだ。長旅のあとなのにご苦労なこと。
「それでは改めまして。私はエーゼンシュタット国の王位継承権第五位、アシュラス・エーゼンシュタットと申します」
「はい?」
王位継承権、五位って……王族か王族の血がとても濃い大貴族……。
「父が現王の弟なだけで、私自体はただのいち貴族なんです。王子でなくすみません」
一応順位がそう決まっているものなので……と、本人は少し申し訳なさそうにしている。
「話を戻しましょう。それで、エーゼンシュタットほどの大国が、弱小国の元王女になんの御用でしょうか?」
「もと?」
「宿を出るときに、王女の身分は捨てました」
「……そんなに簡単に捨てられるものではありませんよ」
私より年上のかんぬき騎士あらためアシュラスは呆れたようにそう言うと、今回の誘拐事件の目的を簡単に説明してくれた。
「つまり、王女としてではなく、私個人の能力が欲しい、と?」
「そうなりますね。ただ、なんの身分もないディディより、サテラス国のメロディア様の方がなにかと都合が良いのですが」
エーゼンシュタット国は、国の内外から優秀な者を集めて、ガスや電気の開発から実用化、上下水道の設営まで幅広い分野で最先端の技術と科学力を誇っている。
そしてその技術はすぐ隣のうちの国にも恩恵として流れてくるわけだ。まあ、お隣さんからの親切心ではなく、高額な金銭取引が両国間にしっかり存在してるけど。
「サテラス国は我々の技術を素早く吸収し、応用という部分では一部ですが我が国を抜いていました。その優秀な発案者がメロディア様だと判明した時には、すでに遊牧の民との婚約が成立しておりまして……まさか、技術者でも管理者でもない王女が全て提案していたなどとは思わず、我が国の諜報員は相当苦労したようです」
そりゃ、電気もガスも、呼び名は違っても似たようなものだから……。
街灯にしてもらったり、ガスコンロ作ってもらったり、貴族の家に電線通してみたらとか、大きなガスボンベ置いたらとか、ライターや部屋のライトとか、とりあえずいろいろ提案だけはしたけど。
前世の電気やガスの使い方は知っててもその仕組み自体は知らないから、結局今もどういう感じで作られているのかなんて知らないままだし。
実現した機能もあれば、説明しきれず消えた発言も沢山ある。ネットとかテレビとかデジタル写真とか!
「とりあえず王女殿下の嫁入りを考え直してもらい、その間に使者を立ててうちの王太子との婚約を迫ろうかと思っていたところ、窓からシーツを投げるメロディア様を発見した次第でして……」
「え!? 誰か見てたんですか!!?」
アレを誰かに見られていたなんて。
一国の王女がシーツに捕まり壁をズリズリと移動するあの姿を……。
「驚きました。心臓が止まるかと思いましたよ」
しかも、目の前の人に見られてた。
「当初の予定では宿へ侵入し、護衛を無力化したあとで王女殿下へ我が国の陛下からの文を届ける予定でしたが、本人が望まぬ婚姻であるなら、そのまま亡命のお手伝いをしようと思いまして」
アシュラスは誘拐の計画と実行は自分の独断だと爽やかに言い切った。
10
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約
Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。
腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。
地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。
彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。
「死んで、私の影になれ」
彼女は知っていた。
この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。
そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。
これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる