誘拐されました。犯人は護衛です。

たんぽぽ

文字の大きさ
2 / 10

動機不明の誘拐犯

しおりを挟む
 相手の目的もわからないこの段階で、誘拐犯の正体に気づいたと知られちゃダメなことくらいわかる。だから絶対「フレッド」と呼びかけたりしない。

 死ぬほど怯えた恐怖が去った後、犯人に対してふつふつと怒りがこみ上げてきました。
 この怒りが今の私の原動力。冷静に、冷静にならないと。

「大丈夫か?」

 深呼吸を繰り返す私に気付いたのか、近くに座っている犯人が私の顔を覗き込んでいる気がします。目隠しで見えませんけど。

「……少し離れてくださらない?」

 声は情けなく震えていたけれど、言いたいことは言えました。
 近いんですよさっきから! こちらは未婚の女性だというのに!

「わかった」

 立ち上がる気配がしたので、私が座っているベッドの上から移動したようです。どの位置に座り直したのかまではわかりません。
 まあ、ベッドマットが乗っている変則馬車とはいえ、馬車である以上、座る場所は限られていますけどね。

 誘拐犯がベッドの上からいなくなったので、掛け布団を手繰り寄せてできるだけ体を隠すようにして座ります。

 私、パジャマのままなのでしょうか? 
 でも着替えさせられていたら、それはそれでかなり嫌。


 馬車の車輪が出す音だけが聞こえる車内で、頭の中をいろいろ整理して犯行の動機を考えます。


 貴族の家では幼い子供だけではなく、時に成人している当主ですら誘拐の標的になってしまうことがあるので、雇い入れる使用人の身辺調査はしつこいぐらいに調べつくされて、出入りの業者ですらその対象になると聞きます。

 でもそれは、お金がたっぷりあって領地経営も順風満帆な大貴族に限った話で、我が家みたいな並み以下の生活をしている名ばかり貴族にそんな危険はないはず……でした。

 実行犯の可能性が極めて高い我が家の護衛は、すでに勤続3年目。
 我が男爵家が、貴族であるがゆえに避けられない出費を除き、できる限り切り詰め、時に富豪と呼ばれる平民よりも質素な生活をしていることを、彼は十分理解しているはずです。

 私より、大きな商店の娘を誘拐した方が身代金の請求額も高くできるでしょうし、万が一失敗した場合も、貴族をさらうより平民をさらった方が罪は軽くなります。

 お金ではないとしたら、土地でしょうか?

 でも、我が家が自由にできる範囲といえば、屋敷が建っている土地とその周囲の庭くらいで、誰かに譲るほどの土地は持っていません。おじいさまの代で、別荘があった土地も売ってしまったようですから。

 生活に不満を持った住民の犯行、という線もありますけど、父は領主様の屋敷に仕えている事務方といっても、領主様に何かを対価に交渉できる地位ではありません。
 まあ、情報の報告くらいはできるでしょうけど、それを聞き入れるかどうかは領主様の判断になります。

 目覚めてすぐに体力の続く限り声を出して騒いで、それでも馬車が止まらなかったことから考えて、馬車を操縦している御者も誘拐犯の一味でしょう。

 少なくとも2人、私を誘拐して得をする人物がいるようなのですが……。

 私を誘拐して発生する利点が全くと言っていいほど思いつきません。

 もしや私情が絡んだ怨恨による犯行? 
 給料が未払い続きだった、もしくは仕事量は多いくせに給料が安すぎる。あるいは私や両親がわがまますぎる、とか。

 溜めに溜めたうっぷんがついに爆発してこの犯行だった場合、私が無事に家に帰れる可能性は限りなく低いままなのだ、と思ったら再び誘拐犯と2人きりのこの状況が怖くなってきました。


 いったい、フレッドに何があったというの?  

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました

歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と 罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、 エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」 辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。 商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。 元夫が「戻ってこい」と泣きつくが—— 「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

処理中です...