誘拐されました。犯人は護衛です。

たんぽぽ

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蛇足的後日談

後日談

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 戦狂いの第3王子が婚約したという話は、各国をかけ巡ったらしい。


 で隣国のエーテガル領土に入り込んでいたローリエンタ国のアルフレド王子は、そこでエーテガル貴族の娘にをした。

 他国とはいえ貴族ならば妻にしようと考えた王子が父親である皇帝陛下に相談した結果、帝位継承権を返上することを条件に認められた。

【エーテガル国アイジス領の男爵令嬢サリーナを、ローリエンタ第3王子アルフレドの妻に望む】
 
 正式に使者を通して伝えられた内容に、エーテガルの王侯貴族はうろたえた。
 ローリエンタ王が用意した書面とは別に、口頭で第3王子からの伝言があったからだ。

『余計なことはせず黙って男爵令嬢を差し出せ。さもなくば宣戦布告とみなす』

 男爵令嬢を高位貴族の養子にして地位を確立する。そんな些細なことですら、余計な事と言われてしまえば何もできない。

 ローリエンタとエーテガルの戦力は、戦わずとも勝者がはっきりとわかるほどにかけ離れているため、エーテガル側はこの婚姻に対して一切の手出しができなくなってしまった。
 

 根本が大きく捻じ曲げられ、大事な部分が削除された作り話が世間に広まり、真実がほんのわずかに放り込まれた捏造が、事実として語られてしまうこの世の中。
 私の知る噂も、真実は違うところにあるのかもしれません。

 実際のところは、初恋の人に誘拐されて絆されて、婚約したら勉強漬けの毎日です。

 私の教育係はシリアが担当してくれることになりました。
 シリアの旦那様はアルフレド王子の側近で、シリア自身も王子が小さい頃から仕えていたらしく、私たちの事情も深く知っているので教育係に最適だったそうです。

 シリアが教師になり、私の世話係は男爵家でも通いでお世話をしてくれていたメイドが引き継ぎました。でも一緒にお菓子を食べる関係には戻れないみたい。

「今日は何をしていた?」
「いつも通りよ。まずは発音の練習。それから歴史と地理のお勉強。たっぷり休憩してから、ダンス練習」

 エーテガルとローリエンタは共通言語ですが、発音の強弱の位置が少し違います。それを調整するために地道に練習を重ねつつ、ローリエンタの勉強。

 軽やかに舞う練習をしつつ、ローリエンタ国の公爵夫人として相応しい立ち居振る舞いをシリアに密かに伝授してもらっていますし、味方に引き入れた方がいい人物、要注意人物などのリストも頭に叩き込んで、来るべき日に備えています。

「あまり無理するな。お姫さんはすぐ熱を出すから」
「私が病弱だったのは昔の話です」

 ベッドに寝転がって「お外に出たい」とか言いながら咳き込んでいたのは、2年前までのこと。苦い薬を文句も言わずに飲み干し、成長に伴って健康な体を手に入れました。

 家の中じゃ護衛兵士なんて必要ないから、どうしても元気になって外に出て遊びたかった……なんてことまでバレてたりしないわよね?

 家の中の使用人はひっそりフレッドの配下に入れ替わり、近所の宿屋はフレッドの配下が経営する宿になり、いつの間にか我が家を中心としたローリエンタ国の諜報組織が誕生していたなんて、知りたくはなかったし、今後エーテガル側に絶対知られてはなりません。

「お姫さんが表舞台に立つのはあと1年は先だろう。ゆっくり学べばいい」

 第3王子過激派の一部が、アルフレド王子が公爵位を賜ることに反対しているそうです。
 他国出身の王妃上等、いっそうちの養子になって! と私に対してもなぜか好意的な意見が多数。

 そういう人たちが静かになるまで私はアルフレド王子の離宮に隠れ住む必要があるようで、夜会も昼のお茶会も参加したことがありません。

「確認するけど、閉じ込めて満足してるわけじゃないわよね?」

 自分の国としてローリエンタの歴史を学ぶと、赤の狂王についても深く学ぶことになります。彼は、愛した女性を生涯閉じ込めて、子を1人も残すことなくこの世を去りました。
 
 次の王は狂王の弟。
 現皇帝も、アルフレド王子も、狂王の直系の子孫ではないのです。  

「何度も言うが違う。庭に出る許可は出してるだろ? 1年待ってくれ、俺は絶対お姫さんと結婚する!」
  
 結婚と帝位継承権の返上は同時にすると決まっているそうです。
 すでに私たちの新居は建設中で、1年後には庭も綺麗に整う予定だとか。

「ところでフレッド。いつまで私をお姫さんと呼ぶ気?」

 サリーナと名前で呼んでほしいと何度かお願いしたら「お嬢様は男爵様にとってはお姫様だから、名前で呼ぶのは申し訳ない」と言い出してお姫さんと呼び始めた。

 あの頃、私の中の淡い恋心に私よりも先に気付いたから予防線を張ったというのなら、もう名前で呼んでもいいんじゃないかしら?

「あー。いや。あと1年はお姫さんでいてくれ」
「なぜ?」
「内緒。俺の個人的な事情」
「気に入ってるの?」
「まあ、そうだな。呼び慣れてるし?」


 半年後、第3王子過激派のしつこさにブチ切れたアルフレド王子は、過激派の中心的立場で第3王子を支持していた公爵家を焼き払った。

 表向きは火の不始末による火災。

 国内の貴族にそれを信じる者は皆無で、元々赤髪の王子を恐れていた貴族は震えあがり、心酔していた貴族は狂王の再現に心を震わせて歓喜したとか……。

 結局、過激派は空中分解してアルフレドは私と結婚して公爵に。
 そして男爵令嬢だった私は、公爵夫人になりました。

「1人目は男の子がいいな」
「そう? 女の子だったらどうする?」
「変な男にさらわれないように閉じ込める」
「一生恨まれるわよ」

 やっぱり1人目は男の子の方がいろんな意味で安心かしら?
 
 
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