命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

文字の大きさ
4 / 208
第1章:奴隷契約編

003 引き出された力

しおりを挟む
 クラインによって連れてこられたのは、恐らくこの国の騎士団が訓練に使っているであろう訓練場だった。
 大体高校のグラウンドと同じくらいの大きさの広場に、私達は集められていた。
 当然訓練場は外なので、下は地面だった。
 しかし、履き替える靴も無かったし、仕方が無いので上履きのままで出た。
 クラインを囲う形で円になると、彼は笑みを浮かべて、口を開いた。

「先程話に出た通り、貴方達は戦闘経験の無い人達ばかり。それなのに、いきなり戦えと言われても、戦うことなど出来ない。……そういうことですね?」
「……えぇ、まぁ……」

 クラインに聞かれ、山吹さんは渋々と言った様子で頷く。
 それに、彼は微笑み、「ご安心を」と言った。

「皆様、自分の手に指輪が付いているのが分かりますか?」

 その言葉に、私達は全員、自分の手を見つめた。
 右手薬指に付いた指輪を見ていると、クラインは私達が自分の指輪を確認したことを察したのか、続けた。

「その指輪は、貴方達の体に備わっている力を引き出し、戦いを支援する力を持っています。この指輪があれば、特別な訓練が無くとも、戦うことが出来ます」
「……質問良いですか?」

 オズオズと手を上げながら、山吹さんがそう言った。
 彼女の言葉に、クラインは微笑みつつ首を傾げ、「何ですか?」と言う。
 それに、山吹さんは一度最上さんをチラリと見やってから、再度クラインに視線を戻して続けた。

「私達が召喚された部屋で、最上さんが台座から落ちましたよね? もし、私達に魔女とやらと戦う力があるのならば、台座から落ちてもある程度受け身を取ったり着地したりすることが出来ると思いますし……何より、元々の怪我もあるとはいえ、あの高さから落ちただけであれだけ痛がるだなんて、魔女とやらの攻撃に耐えられるとは到底思えません。本当に、私達に魔女を倒す力なんてあるんですか?」

 矢継ぎ早に言う山吹さんの言葉を、クラインは顎に手を当てて、吟味するように聞いていた。
 話を聞き終えると、彼は自身の顎を撫でながら「ふむ……」と呟き、すぐにフッと微笑んだ。

「良い質問ですね」

 あっけらかんとした態度で言うクラインに、山吹さんはピクッと眉を潜めた。
 しかし、すぐに彼は続けた。

「彼女の仰る通り、この指輪は、今はまだ皆様に備わった力を引き出せていません。指輪が皆様の力を引き出すには、まだ手順が必要なのです」
「……手順って何?」

 聞き返す東雲に、クラインはスッと自身の左手を顔の高さまで持ち上げ、手の甲をこちらに見せる形で構えた。
 その手は、男性の物とは思えないような、細くてしなやかな感じの……女の人のような、綺麗な手をしていた。
 つい見惚れていると「指輪が付いている方の手を、私と同じように構えて下さい」と言ってくるので、ひとまずクラインの真似をして、同じような体勢を取る。
 指輪が付いている手は利き手によって変わるのか、ほとんどは右手で構えている中に、何人か左手で構えている人がいた。
 それを見て、クラインは続けた。

「それでは、今から私の言う言葉を復唱して下さい。我に潜在し大いなる力よ、今ここに姿を現し、我が身に宿れ」

 ……なんか、すごい厨二病みたいなやつが来た……。
 一人で軽く引いてしまうが、他のクラスメイト達が各々で唱え始めたので、慌てて私も唱えることにした。

「わ、我に潜在し、大いなる力よ……今ここに姿を現し、我が身に宿れ」

 小さく呟いた瞬間、構えた指輪が強く瞬き始めた。
 直後、体の奥深くから、何かが込み上げてくるのを感じる。
 まるで体の芯が燃えるような感覚と、その熱が体中に広がって行くような感覚。
 一瞬体中が燃えるように熱くなったかと思えば、すぐに何事も無かったかのように、その温度が消える。

「……けほっ……」

 小さく咳をしながら、私は瞼を開いた。
 すると、私の手には、剣が握られていた。
 それだけでなく、無色透明だった宝石は緑色の光を放ち、何だか少し熱を持ったような感覚があった。

 まるで……アレだ。
 長時間使い過ぎて熱くなったスマホみたいな感じ。
 温度自体はそこまで高く無いし、慣れれば気になる程ではない。
 そんな風に吟味しつつ顔を上げた私は、周りを見てギョッとした。
 なぜなら、皆の髪色が、何やらカラフルな感じに染まっていたから。

「……これはまた……どういう状況ですか?」

 そう言いながら自分の格好を見下ろすのは、山吹さんだった。
 彼女の髪と目は鮮やかな金色に染まり、左手には盾が装着されている。

「チッ……何なのよこれ!」

 不機嫌そうに言いながら、東雲は持っていた棍棒のようなもので、足元の地面を強く突いた。
 すると、ゴンッと鈍い音がした。
 彼女の髪は真っ白に染まり、その目はかなり白みの強い灰色になっている。

 二人を中心にどよめくクラスメイト達を、クラインが静める。

「皆様落ち着いて下さい。皆様の姿や武具は、指輪が皆様の力を引き出した結果なのです」
「……どういうこと……ですか……?」

 訝しむように尋ねる山吹さんに、クラインは少し間を置いてから、山吹さんの指輪を静かに指さした。

「指輪に、力を込めてみて下さい」
「……?」

 クラインの言葉に訝しみつつも、山吹さんは指輪を見つめて、力を込めるような素振りをした。
 それを見て他のクラスメイト達も真似をし始めるので、私もそれに倣って、指輪に力を込めてみた。
 すると、視界に何やら大量の文字が並んだ。

「うわッ!?」

 突然のことに、つい驚きの声を上げてしまう。
 しかし、なんとか立て直し、私は改めて目の前の文字を見つめた。

 名前:猪瀬こころ Lv.1
 武器:剣
 HP 100/100
 MP 80/80
 SP 50/50
 攻撃力:50
 防御力:40
 俊敏性:50
 魔法適性:0
 適合属性:土、林
 スキル:---

「こ、これは一体……?」
「今見えているものは、皆様の能力値になります。HPは生命値、MPは魔力値、SPは体力値です」

 クラインはそれから、詳しく説明をしてくれた。
 それによると、HPってのはゲームでのヒットポイントのようなもので……まぁ、これがゼロになれば死ぬ。
 で、MPはその身体に備わっている魔力のようなもので、魔法を使う際に消費するらしい。
 SPってのは体力のことで、スタミナとか……あとは、スキルとやらを使う時に消費するらしい。
 今はレベル1なので覚えているスキルは無いが、いずれレベルが上がってスキルが増えてくると、SPを消費してスキルを使えるようになるらしい。
 ちなみに、スキルっていうのは、まぁ必殺技のようなものだ。

 で、あとのステータスは言葉のままの意味。
 魔法適性っていうのは、自分の体が魔法を使うのにどれくらい向いているかを示す、大まかな指標だ。
 あとは、適合属性っていうのも、割と言葉のままの意味。
 この世界には魔法の属性が七つあるらしく、普通の人間が使える属性は二つまでとされている。
 その二つの属性のことを、適合属性という。
 それ以外の属性の魔法等は使えなくはないが、MPやSPを適合属性よりも多く消費したり、体に負荷が掛かったりとあまり良いことはない。

「今の皆様のレベルでは、まだ魔女に打ち勝つことが出来ません。大体……レベル50を超えて、オーバーフローを済ませた後がベストでしょう」
「オーバーフロー……?」

 聞き慣れない単語に、山吹さんがそう聞き返した。
 すると、クラインは「はい」と頷く。

「皆様のステータスに、レベルというものが見えますよね?」
「……見えますけど……」
「この世界の人間は、レベルの上限が50です。けど、皆様はレベル50に達すると、オーバーフローというものを経て、さらにレベルを上げることが可能になります」
「……そのオーバーフローというものは、単純に、レベル50に達した際の指標のようなものですか?」
「まぁ、大まかに言えばそうですね。あとは……レベル50に達すると、皆様の願いに応じて、その願いを叶えることに特化したステータスに変化します」

 クラインの言葉に、私はなるほどと思いつつ、目の前に表示されるステータスを見つめた。
 まぁ、ゲームのようなものか。
 魔物を倒したりして経験値を集めてレベルを上げ、レベル50になればオーバーフローとか言うものを経て、それぞれの願いに応じて独自のステータスを持つようになる。
 ……私の願いって……何だろう……?

「……分かりました。では、そのレベルを上げる為にはどうすれば良いのですか?」
「それについては、しばらくの間は城下町の周りにいる魔物を倒して経験値を稼いで下さい。その指輪により戦い方は体が分かっているので、戦うこと自体は問題無いです」
「でもさぁ、流石にこの人数で一斉に動くのは色々面倒じゃね?」

 クラインの言葉に、東雲はそう言いながら、棍棒を肩に担ぐ。
 それに、山吹さんも「そうだね」と小さく呟いた。

「流石に十二人で動くのは大変だし、危険な気もする。城下町の周りがどんな感じなのかは分からないけど、森とかだとしたら、身動きが取れなくなる可能性もあるし」
「確かにそうですね……」

 二人の意見を聞いたクラインは、顎に手を当ててしばらく考え込んだ。
 それから、ポンッと手を打ち、明るい声で言った。

「では、四人グループを作るのはどうでしょう?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...