命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

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第1章:奴隷契約編

007 生まれて初めての

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「わ、私と……と、と、友達に、なって、くれませんか!?」
「……えっ?」

 反射的に聞き返すと、最上さんは「えっと……」と口ごもり、少し顔を背ける。
 けど、すぐに私に視線を戻し、続けた。

「私……猪瀬さんに、たくさん助けて、もらって……い、猪瀬さんが、迷惑じゃ、なければ……な、仲良くしたいって……思ってて……!」
「……」
「あっ、め、迷惑だったら、大丈夫……し、東雲さん達に、目付けられたら、怖いし……だ、だから……こうして、コッソリ会って、話してくれたりするだけで、良いん、だけど……」
「……私で良いのなら……」

 モゴモゴと言い訳を口にする最上さんに、私はまだ驚きが抜けないまま、そう答えた。
 すると、彼女はパッと顔を上げて、「本当?」と聞き返してくる。
 それに頷いて見せると、彼女は表情を緩ませて、「嬉しい……」と溜息混じりに呟いた。
 ここまで喜ばれると、やっぱり、なんかむず痒い気分になるな。
 私は頬を掻いて視線を逸らしつつ、口を開いた。

「でも……良いの? 初めての友達が私なんかで」
「ぜッ、全然大丈夫だよ! むしろ……猪瀬さんが、良い……」
「……何それ……嬉しい」

 私はそう言いながら、最上さんに視線を戻す。
 すると、彼女は「えへへ」と恥ずかしそうにはにかみながら、自分の前髪を弄る。
 その時、前髪の隙間から一瞬、彼女の素顔が見えた……気がした。
 私はそれを見て、つい目を丸くした。

「……? 猪瀬さん……?」
「……最上さんって、結構可愛い顔してるんだね」
「……ふぇっ!?」

 なんとなくそう言ってみると、最上さんは前髪から手を離し、情けない声を上げる。
 一瞬しか見えなかったが、結構可愛い顔してたと思う。
 いつも前髪で隠しているから、どれだけ、その……個性的な顔をしているのかと思っていたが、普通に整っていたし、別に隠す必要なんて無いと思う。
 私はもっとよく見ようと最上さんの前髪に手を伸ばすが、彼女に手を掴まれた。

「えっ、なんで……」
「や、あの……私、自分の顔見られるの、苦手で……」
「えーなんで? 可愛いのに」
「ほ、ホントに無理だから……」
「無理じゃない、無理じゃない」

 私はそう言いながら手を伸ばすが、最上さんは私の両手を掴んで、決して顔を見せさせてくれない。
 むむ……中々強情だ。
 力を込めて最上さんの顔に手を伸ばそうとするが、彼女の力が上なのか、むしろ押し返されてしまう。
 意外と腕力が強い!? いや、私よりレベルが上なのか……?
 しばらく頑張ってはみるものの、やはり最上さんの力の方が強いらしく、勝てる気がしなかった。
 降参の意を込めて腕から力を抜いて見せると、最上さんは私の手を離した。
 私は小さく息をつき、口を開いた。

「……まぁ、そんなに見せたくないなら良いけど……」
「……ご、ごめんね? ホントに……人に顔見られるの、苦手で……」

 そう言いながら、最上さんは顔を隠すように、手櫛で前髪を梳く。
 ……まぁ、ここまで言ってる人に強要するのもいけないか。
 私は「分かったよ」と言いながら、視線を前に向けた。

「でも、折角綺麗な顔してるんだから、いっそのこと前髪切ったりして顔出してみるのもアリだと思うけどなぁ。そうしたら、東雲さん達からの印象も変わるかもしれないのに」
「それはッ……でも……うーん……」

 私の言葉に、最上さんは悩ましい声を上げる。
 ……まぁ、東雲達からのイジメがマシになるかもしれないとなれば、流石に悩むか。
 なんで顔を出すのが嫌なのかは分からないけど、私としては、顔を出して見ても良い気がするけどなぁ。
 前髪切るのが怖いなら、ヘアピンでとめてみるとか……私が知らないだけで、他にも色々方法はあると思うんだけど……。
 そんな風に考えていた時、近くの扉が開いた。

「あっ、最上さん! ……と、猪瀬さん……? 二人して、こんなところで何してるの?」

 顔を出しながらそう言ってくるのは、山吹さんだった。
 彼女の言葉に、最上さんは慌てた様子で立ち上がり、「な、なな、なんでもない……!」と答えた。
 あー……やっぱり、私以外の人に対しては人見知り発動しちゃうか。
 私は最上さんに続いて立ち上がり、山吹さんに顔を向けた。

「なんでもないよ。ちょっと世間話してただけ」
「そっか……もう消灯時間だから、二人共早く部屋に帰らないと」

 そう言いながら山吹さんはこちらまで歩いて来て、最上さんの隣まで来てそう言う。
 ……あぁ、そうか。二人は同じ部屋だから……。

「それもそうだね。じゃあ、早く戻らないと」

 私の言葉に、最上さんは何か言いたげにこちらを見てきたが、すぐに顔を背けた。
 すると、山吹さんが最上さんの手を引いて、歩き出す。
 私は二人に続く形で、中庭を後にした。

 城に入ってしばらく歩いて行くと、私達が寝泊りする部屋の前まで来る。
 山吹さんはそこでようやく最上さんの腕から手を離し、自分の部屋の扉に手を掛ける。

「じゃあ、猪瀬さん。おやすみなさい」
「うん、おやすみなさい。山吹さんも……最上さんも」

 私はそう言いながら、最上さんに視線を向けた。
 すると、彼女はビクッと肩を震わせて驚いていたが、少ししてコクッと一度頷いた。
 それに私は笑い返し、自分の部屋に向かって歩き出す。
 数歩ほど歩いていた時……突然、後ろから誰かに服を引っ張られた。

「うおッ!?」
「ま、また明日……こころちゃん」

 背後から聴こえたその声に、私はハッと息を呑んだ。
 ゆっくりと振り返ると、そこには……耳まで顔を真っ赤に染めて、私の服を掴む最上さんがいた。

「……うん。また明日、ね。……友子ちゃん」

 そう答えて見せると、最上さん……友子ちゃんは、ビクッと肩を震わせて、私の顔を見た。
 前髪の隙間から、潤んだ青い目がこちらを見つめているのが見える。
 しばらく間を置いてから、彼女は溶けるように表情を緩め、「うん」と頷いた。
 彼女は私の服を離して、自分の部屋に帰っていく。
 その後ろ姿を見送った私は、近くの壁に寄りかかり、自分の口に手を当てた。

 ……びっっっっっっっくりした……ッ!
 まさか名前で呼ばれるなんて思わなかったので、驚いてしまった。
 緊張が勘付かれなかっただろうか……ちゃんと受け答え出来ていただろうか……。
 後からそんな心配が込み上げてきて、やけに不安になってくる。

 心臓がバクバクと高鳴って、やけに顔が熱い。
 というか、名前で呼ばれること自体が今まで無さ過ぎて、驚きが半端ない。
 今まで私を名前で呼んだのなんて、家族くらいだったから……。

「……ヤバい……」

 小さく呟きながら、私は自分の顔を両手で覆った。
 ヤバい、どうしよう……めっちゃ嬉しい……。
 今頃、私の顔は、さっきの友子ちゃんみたいに真っ赤になっていることだろう。
 胸の奥から色々な感情が込み上げてきて、なんかもう、感極まってこのまま泣いてしまいそうだった。

「……っはは……」

 口から、無意識に笑いが零れた。
 自然と、口元が緩む。
 緊張や驚き等、色々な感情が込み上げてくるが、それ以上に……嬉しかったから。
 どんな感情よりも、喜びの感情が勝っているのが、なんとなく分かった。

 ……また明日、か……。
 名前で呼んでもらったこともだけど、明日も会ってくれる約束をしてくれたことも、すごく嬉しかった。

 今まで友達なんてロクにいなかった私に、初めて友達が出来た。
 私が生きて帰って来ることを、望んでくれる人が出来た。
 初めて……生きる意味が生まれた。
 明日を生き延びる理由が、出来た。





 ……しかし、その翌日……約束通りに中庭で私達が会うことは無かった。
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