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第2章:火の心臓編
034 思ってたよりも
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それからグランル火山への道は、思っていたよりもあっさりしていた。
盗賊団に襲われた後は特に何事も無く進み、一日目で国境を越えて国境沿いの町で宿をとり、二日目でグランル火山の麓にある町に到着することが出来た。
グランル火山麓にある町、ヴォルノは、火山の麓だからか割と暑いところだった。
リートが選んだ服はそれなりに涼しい感じだと思っていたが、それでも体中に汗が滲んだ。
「とりあえず、適当な場所で飯でも食おう。腹が減った」
隣を歩くリートは、そう言いながら服の胸元をバフバフと煽る。
彼女の言う通り、今日もずっと歩いて来たからか、大分腹が減っていた。
ひとまず近くにあったレストランのような場所に入ると、冷房が効いているのか涼しかった。
……異世界にエアコンなんて無いだろうけど、多分似たような機能の魔道具だろう。
「おぉ! 涼しいのぉ!」
歓喜の声を上げながら、リートは目を輝かせる。
今まで適温の気温の町にしか行ったことなかったから、冷暖房の存在なんて気にしたことなかったなぁ。
ぼんやりと考えつつ適当な席に座った時、店主らしき赤い髪をオールバックにした男性がこちらにやって来る。
彼はメニューと思しき冊子を二冊と、やけに赤い紙を一枚差し出してきた。
「へいらっしゃい! 注文が決まったら呼んで下さい!」
明るい声で言って、店主は去っていく。
その後ろ姿を見送っている間に、リートはメニューを開いて読み始める。
……メニューを逆にして相手にも見えるように、とかの配慮が無いのは流石だよ。
呆れつつメニューを見た私は、とあることに気付いた。
「これ、全部写真付きなんだ」
「そうなんじゃよ。これなら、料理名だけじゃどんな料理か分からぬ妾達でも問題無いのぉ」
私の言葉に、リートは嬉しそうに答えた。
大分腹が減っていたのだろう。ようやく飯にありつけるという状況に、上機嫌みたいだ。
子供のように無邪気な目でメニューを見つめるリートに笑いつつ、私はメニューと一緒に渡された赤い紙を見た。
しばらく読んでいた私は、首を傾げた。
「……『激辛コリース』?」
「……? コリースを食うのか?」
「コリースって何?」
私の言葉に、リートはメニューのページを捲って、私に見せてくる。
どうやら、コリースとはカレーのような食べ物らしい。
皿に具沢山の茶色っぽいスープが入っており、横にパンのようなものが写っている。
激辛コリースということは……まぁつまり、激辛カレーのようなものと言うことか。
すると、リートはいつの間にか私の見ていた激辛コリースの紙を自分の手元に持って来ており、ジッと見つめていた。
「……リート?」
「イノセ、お主はこれを食え」
「はぁッ!?」
まさかの言葉に、私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
すると、リートは紙をこちらに見せて、とある一文を指さす。
それを読んだ私は、呆然とした。
「『完食すれば全額無料』……?」
「そうじゃ。つまり、お主がこの激辛コリースとやらを食い終われば、全部タダになる!」
そう言って満面の笑みを浮かべピースをするリートに、私はポカンと口を開けて固まってしまう。
いや、確かにそうだろうけど……急になんつー突拍子もないことを言い出すんだコイツは。
しかし、すぐにとあることに気付き、私はすぐに反論した。
「でも、食事がタダになることを考えるなら、リートが食べても良いんじゃないの?」
「妾は辛い物は食えん」
「はぁぁ?」
「体質的な問題で、昔からこういう刺激物はダメなのじゃ。……お主は、辛い物は?」
「……割と平気、だけど……」
「それじゃあ平気じゃな! 注文するぞ」
「あ、ちょっと……!」
さっさと店員を呼ぼうとするリートを、私は慌てて止めた。
すると彼女は「何じゃ」と言いながらこちらに視線を向けてくる。
それに、私は慌てて続けた。
「急にそんなこと言われても……さっきの盗賊団から盗んだ金で金銭的には余裕があるんだし、普通の食事でも……」
「とはいえ、折角得が出来る機会があるなら、それをやらん手は無いじゃろう。あと、お主が激辛コリースに苦戦している姿を見たいしのぉ」
「それが本音かッ!」
「大体、奴隷に拒否権は無いぞ~」
リートはそう言って笑うと、すぐに店員を呼んでしまう。
奴隷という立場を持ちだされると、私にはもう打つ手がなくなってしまう。
今は食事時では無いのか、客も疎らで、すぐに先程の店主さんがやって来た。
彼は伝票とペンを取り出し、腰を屈めて笑みを浮かべた。
「ご注文は?」
「んっと……アイラス一つと、激辛コリースを一つ」
「おっと……お嬢ちゃん達に激辛コリースは少々荷が重いんじゃないかい?」
リートの注文に、店主のオジサンは苦笑いのような表情を浮かべながらそう言ってくる。
おっ、これは良い流れだぞ。このまま流れで別の料理に……。
「大丈夫じゃ。イノセは強いからのぉ」
しかし、リートがあっさりとそう言った。
ちがぁう! 強さとか関係無い!
店主さんもそれに納得してしまったらしく、「そうかそうか」と笑いながら言って、次いで「少々お待ちください」と言って店の奥に行ってしまった。
遠退いて行く背中に、私はがっくりと項垂れた。
「ふはは、精々頑張れ」
「……他人事だからって……」
暢気に笑いながら言うリートに、私はそう呟いた。
そんなこんなで少し話していると、注文した品が運ばれてくるのだが……。
「……うーわ」
目の前に置かれた料理を見て、私は小さく呟いた。
いや、これは料理なのか?
丸い皿のような形の鉄板の上で、真っ赤な液体がグツグツと湧き立っている。
ボコボコと五円玉くらいの大きな泡が湧き立ち、それによって中のゴロゴロした大きな具が揺れている。
思っていた以上の壮絶な料理を前に、私はスプーンを握り締めたまま呆然とした。
「こ……これは……」
「このグランル国の名物、グランル火山をモチーフにした激辛コリースさ。一時期はグランルコリースっつって普通に売ってたんだが、あまりにも辛すぎて苦情が入ったもんで、改名したのさ」
快活に笑いながら言う店員に、私はポカンと口を開けて固まった。
リートも想像より酷かったのか、私の目の前にある激辛コリースを前に軽く引いていた。
ちなみに、彼女が頼んだアイラスという料理はオムライスのような料理で、黄緑色の卵に米を包んだものだった。
「じゃ、今からこの激辛コリースを完食すりゃ、二人の食事代はタダだ。良いな?」
「は、はい……」
もうここまで来たら後戻りはできないと察し、私は腹を括った。
仕方なく、スプーンで真っ赤なスープを掬って口に運んだ。
「……どうじゃ……?」
激辛コリースを口に含んだ私を見て、リートは恐る恐ると言った様子でそう聞いて来た。
それに、私はしばし口に含んだコリースを吟味してから飲み込み、口を開いた。
「いや……思ってたよりも辛くない」
「へ?」
「何?」
私の言葉に、リートと店主は同時に聞き返す。
いや、だって思っていたよりも、辛くないのだ。
少しピリッとするなぁとは思うが、食べられない程の量ではない。
試しに二口三口と食べてみるが、やはりそこまで辛くない。
平然と食べる私に、リートは自分のアイラスを食べるのも忘れ、呆然と私を見つめていた。
「……調理をミスった……? いや、いつも通り作ったはずだが……」
店主さんもこれは予想外らしく、一人ブツブツと何かを呟いている。
それに、リートはパッと目を輝かせて口を開いた。
「イノセ。妾にも一口寄越せ」
「えっ、うん」
突然の言葉に少し驚くが、すぐに頷き、私はスプーンでコリースを掬う。
赤くボコボコと沸騰する液体をフーフーと息で冷まし、リートの口元に持っていく。
すると、彼女は髪を耳に掛け、私の差し出したスプーンを咥えた。
数瞬後、目を見開いてスプーンから口を離し、左手で口を押さえながらパンパンと軽く机を叩いた。
かと思えば、呻き声を発しながら俯くので、私は驚いた。
「ちょっ、大丈夫?」
すぐに水の入ったコップを差し出してやると、リートはコップを受け取り、中に入った水をゴクゴクと飲んだ。
しかし、それでは足りないようで自分のコップでも水を飲み、そこでようやく落ち着いたのか、大きく息をついた。
「……嘘ではないか……」
目に涙を滲ませ、恨めしそうにこちらを睨みながら、彼女は言う。
どうやら、彼女には相当辛かったらしい。
でも、そんなに言う程辛くは無いと思うのだが……。
「えっと……ごめん……?」
とりあえず謝っておくと、リートは不満そうな表情を浮かべ、アイラスにスプーンを突き立てた。
不機嫌そうにアイラスを頬張る彼女に苦笑しつつ、私は自分の激辛コリースを口に運ぶ。
しかし、やはり私にはあまり辛く感じず、結局そのまま完食してしまった。
空っぽになった鉄板を見て、店主さんは信じられないと言った表情を浮かべた。
「……まさかこんなにあっさりと食い終わるとは……えっ、本当に辛くない?」
「えっと……少しピリッとは来るとは思いますが、大丈夫でした」
私はそう答えながら、水で喉を潤す。
辛い物に強い方ではあると自負しているが、それでもここまでとは思わなかった。
この世界の辛さの基準が低いのかもしれないけど……良く分からないなぁ。
「……では、妾達の食事代はタダで良いな?」
リートの言葉に、店主さんは諦めたように笑い、「分かっているよ」と答えた。
それから、「少し待って」と言って、店の奥に消えていく。
何かと思っていると、彼は何か箱のような物を持って戻ってきた。
「この激辛コリースを完食した人は、記念に写真を撮って飾っているんです。……ホラ、この人達みたいに」
そう言って、店員さんは壁の一部を手で示した。
見てみると、確かにそこには写真のようなものが何枚か貼ってあった。
なるほど、あの箱のようなものはカメラみたいなやつか。
そう納得していると、店員さんがリートの肩を押し、私の隣に寄せてきた。
「ほら、寄って寄って。撮りますよ」
「わ、妾もか!?」
「……まぁ、一口食べていたし、一緒に写る権利はあるんじゃない?」
私の言葉に、リートは口を噤み、すぐに私に身を寄せた。
それから店主さんに写真を撮ってもらって、私達は店を後にした。
盗賊団に襲われた後は特に何事も無く進み、一日目で国境を越えて国境沿いの町で宿をとり、二日目でグランル火山の麓にある町に到着することが出来た。
グランル火山麓にある町、ヴォルノは、火山の麓だからか割と暑いところだった。
リートが選んだ服はそれなりに涼しい感じだと思っていたが、それでも体中に汗が滲んだ。
「とりあえず、適当な場所で飯でも食おう。腹が減った」
隣を歩くリートは、そう言いながら服の胸元をバフバフと煽る。
彼女の言う通り、今日もずっと歩いて来たからか、大分腹が減っていた。
ひとまず近くにあったレストランのような場所に入ると、冷房が効いているのか涼しかった。
……異世界にエアコンなんて無いだろうけど、多分似たような機能の魔道具だろう。
「おぉ! 涼しいのぉ!」
歓喜の声を上げながら、リートは目を輝かせる。
今まで適温の気温の町にしか行ったことなかったから、冷暖房の存在なんて気にしたことなかったなぁ。
ぼんやりと考えつつ適当な席に座った時、店主らしき赤い髪をオールバックにした男性がこちらにやって来る。
彼はメニューと思しき冊子を二冊と、やけに赤い紙を一枚差し出してきた。
「へいらっしゃい! 注文が決まったら呼んで下さい!」
明るい声で言って、店主は去っていく。
その後ろ姿を見送っている間に、リートはメニューを開いて読み始める。
……メニューを逆にして相手にも見えるように、とかの配慮が無いのは流石だよ。
呆れつつメニューを見た私は、とあることに気付いた。
「これ、全部写真付きなんだ」
「そうなんじゃよ。これなら、料理名だけじゃどんな料理か分からぬ妾達でも問題無いのぉ」
私の言葉に、リートは嬉しそうに答えた。
大分腹が減っていたのだろう。ようやく飯にありつけるという状況に、上機嫌みたいだ。
子供のように無邪気な目でメニューを見つめるリートに笑いつつ、私はメニューと一緒に渡された赤い紙を見た。
しばらく読んでいた私は、首を傾げた。
「……『激辛コリース』?」
「……? コリースを食うのか?」
「コリースって何?」
私の言葉に、リートはメニューのページを捲って、私に見せてくる。
どうやら、コリースとはカレーのような食べ物らしい。
皿に具沢山の茶色っぽいスープが入っており、横にパンのようなものが写っている。
激辛コリースということは……まぁつまり、激辛カレーのようなものと言うことか。
すると、リートはいつの間にか私の見ていた激辛コリースの紙を自分の手元に持って来ており、ジッと見つめていた。
「……リート?」
「イノセ、お主はこれを食え」
「はぁッ!?」
まさかの言葉に、私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
すると、リートは紙をこちらに見せて、とある一文を指さす。
それを読んだ私は、呆然とした。
「『完食すれば全額無料』……?」
「そうじゃ。つまり、お主がこの激辛コリースとやらを食い終われば、全部タダになる!」
そう言って満面の笑みを浮かべピースをするリートに、私はポカンと口を開けて固まってしまう。
いや、確かにそうだろうけど……急になんつー突拍子もないことを言い出すんだコイツは。
しかし、すぐにとあることに気付き、私はすぐに反論した。
「でも、食事がタダになることを考えるなら、リートが食べても良いんじゃないの?」
「妾は辛い物は食えん」
「はぁぁ?」
「体質的な問題で、昔からこういう刺激物はダメなのじゃ。……お主は、辛い物は?」
「……割と平気、だけど……」
「それじゃあ平気じゃな! 注文するぞ」
「あ、ちょっと……!」
さっさと店員を呼ぼうとするリートを、私は慌てて止めた。
すると彼女は「何じゃ」と言いながらこちらに視線を向けてくる。
それに、私は慌てて続けた。
「急にそんなこと言われても……さっきの盗賊団から盗んだ金で金銭的には余裕があるんだし、普通の食事でも……」
「とはいえ、折角得が出来る機会があるなら、それをやらん手は無いじゃろう。あと、お主が激辛コリースに苦戦している姿を見たいしのぉ」
「それが本音かッ!」
「大体、奴隷に拒否権は無いぞ~」
リートはそう言って笑うと、すぐに店員を呼んでしまう。
奴隷という立場を持ちだされると、私にはもう打つ手がなくなってしまう。
今は食事時では無いのか、客も疎らで、すぐに先程の店主さんがやって来た。
彼は伝票とペンを取り出し、腰を屈めて笑みを浮かべた。
「ご注文は?」
「んっと……アイラス一つと、激辛コリースを一つ」
「おっと……お嬢ちゃん達に激辛コリースは少々荷が重いんじゃないかい?」
リートの注文に、店主のオジサンは苦笑いのような表情を浮かべながらそう言ってくる。
おっ、これは良い流れだぞ。このまま流れで別の料理に……。
「大丈夫じゃ。イノセは強いからのぉ」
しかし、リートがあっさりとそう言った。
ちがぁう! 強さとか関係無い!
店主さんもそれに納得してしまったらしく、「そうかそうか」と笑いながら言って、次いで「少々お待ちください」と言って店の奥に行ってしまった。
遠退いて行く背中に、私はがっくりと項垂れた。
「ふはは、精々頑張れ」
「……他人事だからって……」
暢気に笑いながら言うリートに、私はそう呟いた。
そんなこんなで少し話していると、注文した品が運ばれてくるのだが……。
「……うーわ」
目の前に置かれた料理を見て、私は小さく呟いた。
いや、これは料理なのか?
丸い皿のような形の鉄板の上で、真っ赤な液体がグツグツと湧き立っている。
ボコボコと五円玉くらいの大きな泡が湧き立ち、それによって中のゴロゴロした大きな具が揺れている。
思っていた以上の壮絶な料理を前に、私はスプーンを握り締めたまま呆然とした。
「こ……これは……」
「このグランル国の名物、グランル火山をモチーフにした激辛コリースさ。一時期はグランルコリースっつって普通に売ってたんだが、あまりにも辛すぎて苦情が入ったもんで、改名したのさ」
快活に笑いながら言う店員に、私はポカンと口を開けて固まった。
リートも想像より酷かったのか、私の目の前にある激辛コリースを前に軽く引いていた。
ちなみに、彼女が頼んだアイラスという料理はオムライスのような料理で、黄緑色の卵に米を包んだものだった。
「じゃ、今からこの激辛コリースを完食すりゃ、二人の食事代はタダだ。良いな?」
「は、はい……」
もうここまで来たら後戻りはできないと察し、私は腹を括った。
仕方なく、スプーンで真っ赤なスープを掬って口に運んだ。
「……どうじゃ……?」
激辛コリースを口に含んだ私を見て、リートは恐る恐ると言った様子でそう聞いて来た。
それに、私はしばし口に含んだコリースを吟味してから飲み込み、口を開いた。
「いや……思ってたよりも辛くない」
「へ?」
「何?」
私の言葉に、リートと店主は同時に聞き返す。
いや、だって思っていたよりも、辛くないのだ。
少しピリッとするなぁとは思うが、食べられない程の量ではない。
試しに二口三口と食べてみるが、やはりそこまで辛くない。
平然と食べる私に、リートは自分のアイラスを食べるのも忘れ、呆然と私を見つめていた。
「……調理をミスった……? いや、いつも通り作ったはずだが……」
店主さんもこれは予想外らしく、一人ブツブツと何かを呟いている。
それに、リートはパッと目を輝かせて口を開いた。
「イノセ。妾にも一口寄越せ」
「えっ、うん」
突然の言葉に少し驚くが、すぐに頷き、私はスプーンでコリースを掬う。
赤くボコボコと沸騰する液体をフーフーと息で冷まし、リートの口元に持っていく。
すると、彼女は髪を耳に掛け、私の差し出したスプーンを咥えた。
数瞬後、目を見開いてスプーンから口を離し、左手で口を押さえながらパンパンと軽く机を叩いた。
かと思えば、呻き声を発しながら俯くので、私は驚いた。
「ちょっ、大丈夫?」
すぐに水の入ったコップを差し出してやると、リートはコップを受け取り、中に入った水をゴクゴクと飲んだ。
しかし、それでは足りないようで自分のコップでも水を飲み、そこでようやく落ち着いたのか、大きく息をついた。
「……嘘ではないか……」
目に涙を滲ませ、恨めしそうにこちらを睨みながら、彼女は言う。
どうやら、彼女には相当辛かったらしい。
でも、そんなに言う程辛くは無いと思うのだが……。
「えっと……ごめん……?」
とりあえず謝っておくと、リートは不満そうな表情を浮かべ、アイラスにスプーンを突き立てた。
不機嫌そうにアイラスを頬張る彼女に苦笑しつつ、私は自分の激辛コリースを口に運ぶ。
しかし、やはり私にはあまり辛く感じず、結局そのまま完食してしまった。
空っぽになった鉄板を見て、店主さんは信じられないと言った表情を浮かべた。
「……まさかこんなにあっさりと食い終わるとは……えっ、本当に辛くない?」
「えっと……少しピリッとは来るとは思いますが、大丈夫でした」
私はそう答えながら、水で喉を潤す。
辛い物に強い方ではあると自負しているが、それでもここまでとは思わなかった。
この世界の辛さの基準が低いのかもしれないけど……良く分からないなぁ。
「……では、妾達の食事代はタダで良いな?」
リートの言葉に、店主さんは諦めたように笑い、「分かっているよ」と答えた。
それから、「少し待って」と言って、店の奥に消えていく。
何かと思っていると、彼は何か箱のような物を持って戻ってきた。
「この激辛コリースを完食した人は、記念に写真を撮って飾っているんです。……ホラ、この人達みたいに」
そう言って、店員さんは壁の一部を手で示した。
見てみると、確かにそこには写真のようなものが何枚か貼ってあった。
なるほど、あの箱のようなものはカメラみたいなやつか。
そう納得していると、店員さんがリートの肩を押し、私の隣に寄せてきた。
「ほら、寄って寄って。撮りますよ」
「わ、妾もか!?」
「……まぁ、一口食べていたし、一緒に写る権利はあるんじゃない?」
私の言葉に、リートは口を噤み、すぐに私に身を寄せた。
それから店主さんに写真を撮ってもらって、私達は店を後にした。
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