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第3章:水の心臓編
062 リアス①
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「だぁから邪魔だっつってんだろうがぁぁぁッ!」
苛立った様子で叫びながら、フレアはヌンチャクにマグマを纏わせ、巨大な棍棒のようにして周りに集ったスライムを薙ぎ払う。
一瞬にして消滅していくスライムを視界に収めつつ、リートはしゃがむ形でフレアの攻撃を避けた。
それから立ち上がり、フレアに向き直って口を開いた。
「おい、危ないではないか。当たったらどうする」
「うっせぇな! 文句言うならお前が何とかしやがれ!」
「うるさいのう……まだ魔力が回復しきっておらぬのじゃから仕方無いではないか」
「お前なぁ……」
こめかみに青筋を浮かべながらも、フレアはすぐにため息をつき、熱を持ったヌンチャクを肩に掛け、通路の奥を睨んだ。
まだ通路の奥では大量のスライムが蠢いており、まだまだ先は長そうだと思い知る。
ここはダンジョンの中層。
上層よりもスライムの強さは全体的に上がっており、苦戦を強いられていた。
リートは上層での魔法での魔力がまだ完全には回復しておらず、ほとんどフレアが戦う状態になってしまっていた。
今はまだ力任せな戦い方で何とかなっているが、これがいつまで持つかも分からない。
とにかく今は先に進むしかない為に、フレアは再度ヌンチャクにマグマを纏わせ、スライムの軍団に向き直った。
「しかし……妙じゃのう」
「んぁ? 何がだ?」
突然のリートの呟きに、フレアはヌンチャクを振り上げながらそう聞き返した。
それに、リートは「いや」と呟きながら、静かに目を伏せた。
「あまり大したことではないのじゃが……なんというか、本気で心臓を守る気があるのかと思ってのう」
「……どういうことだ?」
リートの言葉に、フレアはそう聞きながらも、ヌンチャクを振るってスライムを殲滅していく。
それに、リートはたまにフレアが倒し損ねたスライムに初級火魔法をぶつけながら「いや」と続けた。
「妾の考えすぎかもしれんが、お主のダンジョンは、魔物も強かったしマグマの妨害もあったりして……心臓がある場所まで、絶対に行かせないという気迫のようなものを感じたのじゃ」
「あー……まぁ、難易度は上げてたかもな。お前等がもーちょい強いと思ってたから」
リートの呟きに、フレアはそう答えながら、ヌンチャクでスライムを殲滅していく。
そもそもこういったダンジョンはリートの心臓に籠っていた魔力から生み出されており、自分の受け持つ心臓のダンジョンなら、簡単な制御のみなら出来るようになっている。
ただ、出来ることはあくまで、本当に初歩的なことのみだ。
壁や地面の凹凸を変形させたり、トラップを仕込んだり、魔物に流れている魔力を変化させて強さを変えたりできる程度だ。
リートはそもそもダンジョンから出ることが目的だった為に知りもしなかったが、フレアなんかは当然のことのように使っていた。
フレアのいたダンジョンは冒険者向けに開放されていたこともあり、挑戦する身の程知らずが後を絶たず、それに合わせて難易度を上げていたためにあのような高難度のダンジョンが完成した。
しかし、このダンジョンは……──
「ここは、何と言うか……──妾達を通さんとする意思が、あまり感じられないのじゃ。ロクにトラップも無いし、何より魔物が弱すぎる。……数は多いがな」
「同感だな。心臓を絶対守るっつーよりは、通してやらなくもないけど、最低限コイツ等くらいは倒してから来いって言ってるような感じだ」
フレアはそう言いながらヌンチャクを振るい、最後の一匹のスライムを殺した。
彼女の言葉に、リートは辺りを見渡しながら、「そうじゃな」と答えた。
「なんというか……気味が悪いわ。まるで、ここの心臓の守り人が、どこかで妾達を試しているみたいじゃ」
「こんな趣味の悪いお出迎えを用意してるような奴だ。性格は良くねぇだろ」
吐き捨てるように言いながら、フレアはヌンチャクに付着したスライムの破片を振り払った。
それに、リートは目を細めて「そうじゃな」と呟くように答えた。
「お主を見ている限り、心臓の守り人には性格に難を抱えている奴等が多そうじゃ。……今から先が思いやられるわ」
「でも俺等はお前の心臓から生まれてるわけだからな~、持ち主の誰かさんが一番性格はヤベェんじゃねぇかな~?」
「何を言っておる。妾が一番の常識人であろう?」
「テメェ一度その口を溶接してやろうか?」
「グロい話をするな」
そんな風に雑談をしながらも、二人は足を進め、すぐに下層への階段を見つけて下りる。
下層に下りると、すでに大量のスライムが待ち構えていた。
目の前にてワラワラと群れを作るスライム軍団に、フレアはヒクッと頬を引きつらせた。
「マジで勘弁してくれよ、ホントに……」
「……妾も大分魔力が回復してきたし、多少大掛かりな魔法は使えるが……」
リートがそこまで言った時、スライム達に異変が起きた。
奴等は二人を見るとワラワラと集まりだし、まるで合体するかのように身を寄せては、同化させていく。
徐々に巨大になっていくスライムを前に、二人はギョッとしたような表情を浮かべて蹈鞴を踏む。
やがて、全てのスライム達は合体し……巨大な、人型の魔物と化した。
「……マジかよ……」
巨大なスライム兵を前に、フレアは小さく呟いた。
それに、リートは小さく息をつき、その手に炎を纏わせた。
「一気に行くぞ、フレア」
「ッ……! おぉ!」
リートの言葉に、フレアは大きく頷き、すぐさま武器を構えた。
---少し時は遡り---
<猪瀬こころ視点>
「ッ……」
重たい瞼を、私はゆっくりと開いた。
なんだか、変な夢を見ていた。
海辺で友子ちゃんに再会したかと思えば、彼女が海の中に向かうものだから、慌ててそれを追いかける夢。
あの後どうなったのかはよく覚えていないが、なんだか長い夢を見ていたような気分だった。
眠り過ぎたせいか、頭が痛い。
ズキズキと疼くような痛みを感じながらも、私は軽く頭を振って強引に意識を覚醒させ、顔を上げた。
「……っは?」
そして、間抜けな声を上げてしまった。
私は宿屋の一室で眠っていたはずなのだが、目の前に広がっている光景は、どう見ても木造の宿屋にあった一室では無かった。
真っ青な岩に囲まれた部屋に、壁には大きな出っ張りがあり、その上には少し濃い青色の岩が乗っていた。
頭痛のせいで、まだ頭が働かないが……あれは確か、リートの心臓だったような……。
「……ここは……?」
「あら、ようやく目を覚ましたみたいね」
小さく呟いた時、どこからか声がした。
それは、艶のあるどこか大人びた感じの、少なくとも今までに聴いたことのない声だった。
私はそれに困惑しつつ、声のした方に視線を向けようとした。
しかし、それより先に頬に手を添えられ、強引に顔を向かせられる。
「ッ……!?」
「おはよう。よく眠っていたみたいね」
そう言って微笑むのは、やはり見たこと無い女だった。
ウェーブの掛かった綺麗な青色の長髪を頭の後ろでハーフアップにしており、同色の目は深海のように澄んでる。
私の頬に添えられている手は冷たく、それでも手つきは優しかった。
肩を出した、全体的に露出の多い服装も相まり、どこか妖艶な雰囲気を漂わせている。
ここ最近、リートやフレアみたいな子供っぽい性格の少女達ばかりを相手にしていたからか、目の前にいる妖艶な少女を前にどうすればいいのか分からなくなって、固まってしまう。
上手く言葉が出てこずに困惑していると、彼女は私の顎に指を添えて、クイッと軽く上げた。
「私の名前はリアス。……ねぇ、貴方の名前を教えてくれる?」
そう言って、リアスはクスッと柔らかい笑みを浮かべた。
苛立った様子で叫びながら、フレアはヌンチャクにマグマを纏わせ、巨大な棍棒のようにして周りに集ったスライムを薙ぎ払う。
一瞬にして消滅していくスライムを視界に収めつつ、リートはしゃがむ形でフレアの攻撃を避けた。
それから立ち上がり、フレアに向き直って口を開いた。
「おい、危ないではないか。当たったらどうする」
「うっせぇな! 文句言うならお前が何とかしやがれ!」
「うるさいのう……まだ魔力が回復しきっておらぬのじゃから仕方無いではないか」
「お前なぁ……」
こめかみに青筋を浮かべながらも、フレアはすぐにため息をつき、熱を持ったヌンチャクを肩に掛け、通路の奥を睨んだ。
まだ通路の奥では大量のスライムが蠢いており、まだまだ先は長そうだと思い知る。
ここはダンジョンの中層。
上層よりもスライムの強さは全体的に上がっており、苦戦を強いられていた。
リートは上層での魔法での魔力がまだ完全には回復しておらず、ほとんどフレアが戦う状態になってしまっていた。
今はまだ力任せな戦い方で何とかなっているが、これがいつまで持つかも分からない。
とにかく今は先に進むしかない為に、フレアは再度ヌンチャクにマグマを纏わせ、スライムの軍団に向き直った。
「しかし……妙じゃのう」
「んぁ? 何がだ?」
突然のリートの呟きに、フレアはヌンチャクを振り上げながらそう聞き返した。
それに、リートは「いや」と呟きながら、静かに目を伏せた。
「あまり大したことではないのじゃが……なんというか、本気で心臓を守る気があるのかと思ってのう」
「……どういうことだ?」
リートの言葉に、フレアはそう聞きながらも、ヌンチャクを振るってスライムを殲滅していく。
それに、リートはたまにフレアが倒し損ねたスライムに初級火魔法をぶつけながら「いや」と続けた。
「妾の考えすぎかもしれんが、お主のダンジョンは、魔物も強かったしマグマの妨害もあったりして……心臓がある場所まで、絶対に行かせないという気迫のようなものを感じたのじゃ」
「あー……まぁ、難易度は上げてたかもな。お前等がもーちょい強いと思ってたから」
リートの呟きに、フレアはそう答えながら、ヌンチャクでスライムを殲滅していく。
そもそもこういったダンジョンはリートの心臓に籠っていた魔力から生み出されており、自分の受け持つ心臓のダンジョンなら、簡単な制御のみなら出来るようになっている。
ただ、出来ることはあくまで、本当に初歩的なことのみだ。
壁や地面の凹凸を変形させたり、トラップを仕込んだり、魔物に流れている魔力を変化させて強さを変えたりできる程度だ。
リートはそもそもダンジョンから出ることが目的だった為に知りもしなかったが、フレアなんかは当然のことのように使っていた。
フレアのいたダンジョンは冒険者向けに開放されていたこともあり、挑戦する身の程知らずが後を絶たず、それに合わせて難易度を上げていたためにあのような高難度のダンジョンが完成した。
しかし、このダンジョンは……──
「ここは、何と言うか……──妾達を通さんとする意思が、あまり感じられないのじゃ。ロクにトラップも無いし、何より魔物が弱すぎる。……数は多いがな」
「同感だな。心臓を絶対守るっつーよりは、通してやらなくもないけど、最低限コイツ等くらいは倒してから来いって言ってるような感じだ」
フレアはそう言いながらヌンチャクを振るい、最後の一匹のスライムを殺した。
彼女の言葉に、リートは辺りを見渡しながら、「そうじゃな」と答えた。
「なんというか……気味が悪いわ。まるで、ここの心臓の守り人が、どこかで妾達を試しているみたいじゃ」
「こんな趣味の悪いお出迎えを用意してるような奴だ。性格は良くねぇだろ」
吐き捨てるように言いながら、フレアはヌンチャクに付着したスライムの破片を振り払った。
それに、リートは目を細めて「そうじゃな」と呟くように答えた。
「お主を見ている限り、心臓の守り人には性格に難を抱えている奴等が多そうじゃ。……今から先が思いやられるわ」
「でも俺等はお前の心臓から生まれてるわけだからな~、持ち主の誰かさんが一番性格はヤベェんじゃねぇかな~?」
「何を言っておる。妾が一番の常識人であろう?」
「テメェ一度その口を溶接してやろうか?」
「グロい話をするな」
そんな風に雑談をしながらも、二人は足を進め、すぐに下層への階段を見つけて下りる。
下層に下りると、すでに大量のスライムが待ち構えていた。
目の前にてワラワラと群れを作るスライム軍団に、フレアはヒクッと頬を引きつらせた。
「マジで勘弁してくれよ、ホントに……」
「……妾も大分魔力が回復してきたし、多少大掛かりな魔法は使えるが……」
リートがそこまで言った時、スライム達に異変が起きた。
奴等は二人を見るとワラワラと集まりだし、まるで合体するかのように身を寄せては、同化させていく。
徐々に巨大になっていくスライムを前に、二人はギョッとしたような表情を浮かべて蹈鞴を踏む。
やがて、全てのスライム達は合体し……巨大な、人型の魔物と化した。
「……マジかよ……」
巨大なスライム兵を前に、フレアは小さく呟いた。
それに、リートは小さく息をつき、その手に炎を纏わせた。
「一気に行くぞ、フレア」
「ッ……! おぉ!」
リートの言葉に、フレアは大きく頷き、すぐさま武器を構えた。
---少し時は遡り---
<猪瀬こころ視点>
「ッ……」
重たい瞼を、私はゆっくりと開いた。
なんだか、変な夢を見ていた。
海辺で友子ちゃんに再会したかと思えば、彼女が海の中に向かうものだから、慌ててそれを追いかける夢。
あの後どうなったのかはよく覚えていないが、なんだか長い夢を見ていたような気分だった。
眠り過ぎたせいか、頭が痛い。
ズキズキと疼くような痛みを感じながらも、私は軽く頭を振って強引に意識を覚醒させ、顔を上げた。
「……っは?」
そして、間抜けな声を上げてしまった。
私は宿屋の一室で眠っていたはずなのだが、目の前に広がっている光景は、どう見ても木造の宿屋にあった一室では無かった。
真っ青な岩に囲まれた部屋に、壁には大きな出っ張りがあり、その上には少し濃い青色の岩が乗っていた。
頭痛のせいで、まだ頭が働かないが……あれは確か、リートの心臓だったような……。
「……ここは……?」
「あら、ようやく目を覚ましたみたいね」
小さく呟いた時、どこからか声がした。
それは、艶のあるどこか大人びた感じの、少なくとも今までに聴いたことのない声だった。
私はそれに困惑しつつ、声のした方に視線を向けようとした。
しかし、それより先に頬に手を添えられ、強引に顔を向かせられる。
「ッ……!?」
「おはよう。よく眠っていたみたいね」
そう言って微笑むのは、やはり見たこと無い女だった。
ウェーブの掛かった綺麗な青色の長髪を頭の後ろでハーフアップにしており、同色の目は深海のように澄んでる。
私の頬に添えられている手は冷たく、それでも手つきは優しかった。
肩を出した、全体的に露出の多い服装も相まり、どこか妖艶な雰囲気を漂わせている。
ここ最近、リートやフレアみたいな子供っぽい性格の少女達ばかりを相手にしていたからか、目の前にいる妖艶な少女を前にどうすればいいのか分からなくなって、固まってしまう。
上手く言葉が出てこずに困惑していると、彼女は私の顎に指を添えて、クイッと軽く上げた。
「私の名前はリアス。……ねぇ、貴方の名前を教えてくれる?」
そう言って、リアスはクスッと柔らかい笑みを浮かべた。
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