命を助けてもらう代わりにダンジョンのラスボスの奴隷になりました

あいまり

文字の大きさ
74 / 208
第4章:土の心臓編

072 ヴォルノの町にて-クラスメイトside

しおりを挟む
---

 ギリスール王国から南下して行き、一行はグランル国のヴォルノという町に辿り着いた。
 グランル国には巨大なグランル火山というものがあり、それは国の象徴として大事にされてきている。
 火山の麓にあるヴォルノという町では、グランル火山をモチーフにした激辛料理を中心に、観光地として町を盛り上げている。

「……あっつ……」

 スタルト車を下りた真凛は、そう呟きながら胸の辺りを軽く扇ぐ。
 それに、次に下りて来た花鈴も「あつーい!」と文句を言いながら、真凛の腕に抱きついた。
 先に下りていた柚子はそれに苦笑しつつ、その暑さの中でも平然とフード付きのローブを身に纏っているクラインに視線を向けた。

「クラインさんは暑くないんですか? そんな厚着して」
「慣れてるので平気ですよ。それより、早く目的地に向かいましょう。時間が惜しいですから」

 クラインは平然とした様子で笑いながら言うと、スタスタと歩き出してしまう。
 柚子はそれに驚きつつも、少し早足で歩いてそれに追いついた。
 それから、パッと後ろを振り向いて、他の三人が追いついてきているのを確認する。

 このヴォルノに調査に来た理由は、この町で魔女の目撃情報が多数あり、その中で幾つか気になるものがあったので現地にて確認するとのことだった。
 どうやらとある店にて魔女らしき人物の映った写真があるという情報があり、しかしプライバシーの問題で持ち出すことが出来なかった為に、クラインの目で直接確認することになった。
 その店の店主にも魔女らしき人物の目撃情報があるらしいので、ついでに詳しく話を聞くことにした。
 柚子達まで付いて来る必要は無かったのだが、魔女の可能性があるならば見ておきたいとのことだったので、一緒に来ることにしたのだ。

 町の中を少し歩いて辿り着いたのは、町の大通りにあるレストランのような店だった。
 店内は冷房が効いているようで、中々涼しかった。
 肌に滲んだ汗が冷えていくような感覚の中で、柚子はキョロキョロと軽く辺りを見渡した。
 昼食時でも無いにも関わらず、食事に来ている客は疎らにおり、それなりに人気のある店であることが伺えた。
 しばらく辺りを見渡していた柚子は、店の奥の壁に何枚か写真のようなものが貼ってあるのを見て、不思議そうな表情を浮かべて壁に近付いた。

「……山吹さん?」

 それに、友子がキョトンとした表情を浮かべて、柚子の名を呼んだ。
 クラインもその声に反応し、柚子の方に軽く視線を向ける。
 しかし、その時店の店主が出て来たために、すぐに顔を前方に戻した。

「お待たせしました。この店の店主をしている、ティオ・イフェスです」
「……初めまして、イフェスさん。ギリスール王国の宮廷魔術師をしている、クラインと申します。本日はお忙しい中、お時間を頂き誠にありがとうございます」
「いえ、それは構いませんよ。……良ければ、その少女とやらを探している理由を教えて頂きたいという気持ちはありますが」
「それは……すみません。ギリスール王国での重要機密事項ですので、お話しすることは出来かねます」

 クラインの言葉に、ティオは「それなら仕方が無いですね」と笑いつつ、辺りを見渡した。
 それから少し小声で続けた。

「それにしても、本当に裏でなくて良かったのですか? こんな、お客様がいる場所で……」
「裏に回る時間が惜しいので……それに、例の写真はこちらに飾ってあるのですよね? この度はそれを確認させて頂くことがメインですから」
「なるほどそういうことですか。了解しました。案内しますね」

 クラインの言葉に、ティオはそう言って笑うと、壁際の写真が飾ってある場所に一行を促した。
 すでにそこでは、壁に飾ってある写真をジッと見つめている柚子の姿があった。
 彼女は近付いて来たクライン達にパッと顔を上げ、慌てた様子でその場から離れた。
 それから、頭を下げた。

「申し訳ございません。つい気になってしまって……」
「あはは、構いませんよ」

 深々と頭を下げて謝る柚子に、ティオはそう言って笑った。
 それからクラインに視線を向けて微笑む。

「礼儀の良い娘さんですね。教育の賜物ですか?」

 その言葉に、クラインと柚子の表情が同時に固まった。
 二人の内、最初に口を開いたのはクラインだった。
 彼はすぐにクシャッと表情を崩し、「ははは」と乾いた笑い声を上げた。

「いえ、娘ではないですよ。……こんなに大きな年齢の娘がいる年齢ではないです」
「えっ、大きな……?」
「彼女達は皆十七歳ですから」

 クラインの言葉に、ティオは少し間を置いてからハッとした表情を浮かべて「申し訳ございませんッ!」と言いながら頭を下げた。
 それに、柚子は「いえいえ……!」と慌てた様子で宥めた。

「よくあることなので……! 気にしなくても大丈夫ですよ!」
「で、ですが……」
「ところで、この写真は一体……?」

 話題を逸らすように言うクラインに、ティオはこれ幸いと視線をそちらに向け、口を開いた。

「あぁ、こちらは当店の自慢メニュー、グランル火山をモチーフにした激辛コリースを完食した方々の写真を記念に撮って飾っているのですよ。それで、つい先日、皆様が探しておられる黒髪に青い目をした少女が来店しまして……そのお連れの方が激辛コリースを完食したので、二人の写真を撮ったのですよ」
「……連れ……?」
「えぇ。……あぁ、この写真です」

 ティオはそう言うと一枚の写真を取り、クライン達に見せた。
 そこには、黒髪に青い目をした少女の他に、白い髪に赤い目をした少女が写っていた。
 手に取ってマジマジと観察するクラインに、ティオは続けた。

「忘れもしないですよ。今まで完食出来た人ですらヒィヒィ言いながら完食していたのに、彼女は弱音一つ吐かずに平然と平らげてしまったのですから。嫌でも記憶に残りますよ」

 ティオの言葉を聞きながら、クラインはジッと写真を見つめていた。
 それに対し、柚子達は皆口には出さないものの、少なからず衝撃を受けていた。
 なぜなら、魔女に連れの者……仲間がいるなど、初めて聞いたのだから。
 自分達が最終的に倒すのは魔女だけだと思っていたので、敵が増えるかもしれないという事実に、危機感を持っていた。

 他のメンバーが驚いている中で、友子は一人、焦燥感に駆られていた。
 ──魔女に仲間がいる……? 魔女に協力している人がいるの?
 ──ただでさえ強いはずの魔女に仲間なんているとしたら……魔女を捕まえるのに苦戦してしまう。
 ──そうしたら……こころちゃんを生き返らせることが遅れてしまう……?

「み、見せて下さい……!」

 友子は込み上げて来る焦燥感に任せてそう言うと、ひったくるようにクラインから写真を奪った。
 少しでも魔女の仲間について知っておこうと、彼女はその写真を両手で摘まみ、見開いた目で睨むように見つめた。
 魔女らしき黒髪の少女の隣に立っている、白髪の少女。
 背が高く、どこかぎこちない笑みを浮かべて写真に写る、人形のように整った顔立ちをした一人の少女。
 髪色と目の色は違うが、その少女の姿が、脳裏に色濃く残っている一人の少女の面影に重なった。

「……最上さん……?」

 写真を見つめたまま固まる友子に、柚子は不思議そうに名前を呼ぶ。
 それに、友子は答えない。
 瞳孔の開いた目で、目の前にある写真をジッと見つめ続ける。
 グシャリと強く握り締められた写真には皴が入り、黒髪の少女の顔が歪む。
 鼓動の音が激しくなり、その脈動に合わせて手が震える。
 冷や汗が頬を伝うのを感じながら、友子は静かに口を開いた。

「……こころ……ちゃん……?」

---
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...