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第6章:光の心臓編
間話 夢みたい
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<最上友子視点>
「んッ……っ……」
窓から差し込んできた光と、外から聴こえる小鳥のさえずりの音に、私は小さく声を漏らしながら瞼を擦った。
もう朝か……なんてぼんやりと考えつつ重たい瞼を開くと、息が掛かる程の至近距離に誰かの顔があることに気付いた。
「だッ……!? ……って……」
予想だにしなかった出来事に思わず大声を発しそうになった私は、すぐに目の前にある安らかな寝顔がこころちゃんのものであることに気付き、小さく息をついた。
あぁ、そうだ……確か昨日、土の心臓のダンジョンで、こころちゃんと再会したんだった。
それで、一緒の部屋に泊まることになって……──。
「っ……」
昨日の出来事を思い出し、私は顔が火照るような感覚に思わず口元を手で隠す。
こころちゃんと再会出来たことが嬉しくて、彼女の目の前で散々泣いちゃったり、我儘言って一緒にお風呂に入ったり同じベッドで寝たり……改めて思い返すと、色々と恥ずかしいことしちゃったな。
けど、こころちゃんは優しいから、文句一つ言わずに私に付き合ってくれて……今もこうして、同じベッドで一緒に寝てくれている。
「……夢みたい」
あどけない表情で眠るこころちゃんの寝顔を見つめながら、私は小さくそう呟いた。
ホント……夢みたい。
死んだと思っていた彼女が生きていて、今こうして一緒にいられることもそうだし……日本にいた頃は住んでいる世界が違うと思っていた彼女が、私と友達になって仲良くしてくれること自体、実は未だに信じられないでいる。
もしかしたら、本当はこれは全部私が見ている夢で、目が覚めたらまた東雲さん達に苛められる日々に戻るのかもしれない。
あの頃とは比べ物にもならない……私には勿体ないとすら思ってしまうくらい、幸せな日々。
むしろ、実はこれは全部夢だと言われた方が、納得出来てしまう程だ。
……でも、崖に落ちそうになったこころちゃんを助ける為に剣を掴んだ手は、痛かったな。
夢じゃない。そう自覚した瞬間、筆舌に尽くし難い幸福感が込み上げ、私は口元を綻ばせた。
「んぅ……」
その時、こころちゃんが小さく呻きながら軽く身じろぎをし、枕に顔を埋め直した。
よく見ると、彼女が着ていたガウンがはだけて、その下の何も身に付けていない裸体が布の隙間から見え隠れしてしまっている。
幼い子供のような可愛らしい寝顔と、ガウンの隙間から見える白い肌や細く綺麗な身体のギャップに、私は思わず硬直して見入ってしまう。
しかしすぐにハッと我に返り、ひとまず風邪を引いてはいけないと考え直して布団を掛け直した。
すると、ガウンがはだけて肌寒かったのか、彼女は私が掛けた布団をキュッと軽く握ってくるまるように自分の体に引き寄せた。
「フフッ……可愛いなぁ……」
私はつい頬を緩ませながら小さくそう呟きつつ、軽く手を伸ばして彼女の白い髪を優しく撫でた。
日本にいた頃から、綺麗な髪だとは思っていたけど……まさか、こんな風に触れる日が来るなんて思わなかったな。
まぁ、それを言ったら、こうして一緒に泊まって色々なこと出来るなんて思いもしなかったし……彼女が死んだと聞いた時は、これらは全て叶わぬ夢だと思っていた。
それがまさか、こんな形で叶うなんて……本当に、夢みたい。
「んっ……」
胸が熱くなるのを感じていた時、こころちゃんが小さく声を発しながらピクリと肩を震わせた。
起こしてしまったかと、彼女の頭を撫でていた手を止めた時だった。
「んんぅ……りーと……」
吐息混じりに紡がれたその言葉に、私は静かに目を見開いた。
りーと……リートって、確か……心臓の魔女の、名前、だよね……?
こころちゃん、もしかして……心臓の魔女の夢を、見てるの……?
……ダメだよ。そんなの。
だって、心臓の魔女はこころちゃんを奴隷にして、こき使っていたんでしょう?
そんな酷い人、こころちゃんが夢に見る価値も無いよ。
それとも……夢に見るくらい、辛い日々を過ごしていたの?
「……大丈夫だよ。こころちゃん」
私はこころちゃんを起こさない程度の声で小さくそう囁きつつ、止めていた手を動かして彼女の頭を撫でる。
朝日を反射してキラキラと光る白い髪が指の間で擦れるのを見つめながら、私は続けた。
「これからは、私がこころちゃんを守るから。もう絶対に……辛い目になんて、遭わせないから」
私は呟くようにそう語り掛けると、彼女の顔に掛かった髪を指で掬い、耳に掛けさせる。
だから、もう二度と……その名前を呼ばないでね。
心の中で、そう続けながら。
「んッ……っ……」
窓から差し込んできた光と、外から聴こえる小鳥のさえずりの音に、私は小さく声を漏らしながら瞼を擦った。
もう朝か……なんてぼんやりと考えつつ重たい瞼を開くと、息が掛かる程の至近距離に誰かの顔があることに気付いた。
「だッ……!? ……って……」
予想だにしなかった出来事に思わず大声を発しそうになった私は、すぐに目の前にある安らかな寝顔がこころちゃんのものであることに気付き、小さく息をついた。
あぁ、そうだ……確か昨日、土の心臓のダンジョンで、こころちゃんと再会したんだった。
それで、一緒の部屋に泊まることになって……──。
「っ……」
昨日の出来事を思い出し、私は顔が火照るような感覚に思わず口元を手で隠す。
こころちゃんと再会出来たことが嬉しくて、彼女の目の前で散々泣いちゃったり、我儘言って一緒にお風呂に入ったり同じベッドで寝たり……改めて思い返すと、色々と恥ずかしいことしちゃったな。
けど、こころちゃんは優しいから、文句一つ言わずに私に付き合ってくれて……今もこうして、同じベッドで一緒に寝てくれている。
「……夢みたい」
あどけない表情で眠るこころちゃんの寝顔を見つめながら、私は小さくそう呟いた。
ホント……夢みたい。
死んだと思っていた彼女が生きていて、今こうして一緒にいられることもそうだし……日本にいた頃は住んでいる世界が違うと思っていた彼女が、私と友達になって仲良くしてくれること自体、実は未だに信じられないでいる。
もしかしたら、本当はこれは全部私が見ている夢で、目が覚めたらまた東雲さん達に苛められる日々に戻るのかもしれない。
あの頃とは比べ物にもならない……私には勿体ないとすら思ってしまうくらい、幸せな日々。
むしろ、実はこれは全部夢だと言われた方が、納得出来てしまう程だ。
……でも、崖に落ちそうになったこころちゃんを助ける為に剣を掴んだ手は、痛かったな。
夢じゃない。そう自覚した瞬間、筆舌に尽くし難い幸福感が込み上げ、私は口元を綻ばせた。
「んぅ……」
その時、こころちゃんが小さく呻きながら軽く身じろぎをし、枕に顔を埋め直した。
よく見ると、彼女が着ていたガウンがはだけて、その下の何も身に付けていない裸体が布の隙間から見え隠れしてしまっている。
幼い子供のような可愛らしい寝顔と、ガウンの隙間から見える白い肌や細く綺麗な身体のギャップに、私は思わず硬直して見入ってしまう。
しかしすぐにハッと我に返り、ひとまず風邪を引いてはいけないと考え直して布団を掛け直した。
すると、ガウンがはだけて肌寒かったのか、彼女は私が掛けた布団をキュッと軽く握ってくるまるように自分の体に引き寄せた。
「フフッ……可愛いなぁ……」
私はつい頬を緩ませながら小さくそう呟きつつ、軽く手を伸ばして彼女の白い髪を優しく撫でた。
日本にいた頃から、綺麗な髪だとは思っていたけど……まさか、こんな風に触れる日が来るなんて思わなかったな。
まぁ、それを言ったら、こうして一緒に泊まって色々なこと出来るなんて思いもしなかったし……彼女が死んだと聞いた時は、これらは全て叶わぬ夢だと思っていた。
それがまさか、こんな形で叶うなんて……本当に、夢みたい。
「んっ……」
胸が熱くなるのを感じていた時、こころちゃんが小さく声を発しながらピクリと肩を震わせた。
起こしてしまったかと、彼女の頭を撫でていた手を止めた時だった。
「んんぅ……りーと……」
吐息混じりに紡がれたその言葉に、私は静かに目を見開いた。
りーと……リートって、確か……心臓の魔女の、名前、だよね……?
こころちゃん、もしかして……心臓の魔女の夢を、見てるの……?
……ダメだよ。そんなの。
だって、心臓の魔女はこころちゃんを奴隷にして、こき使っていたんでしょう?
そんな酷い人、こころちゃんが夢に見る価値も無いよ。
それとも……夢に見るくらい、辛い日々を過ごしていたの?
「……大丈夫だよ。こころちゃん」
私はこころちゃんを起こさない程度の声で小さくそう囁きつつ、止めていた手を動かして彼女の頭を撫でる。
朝日を反射してキラキラと光る白い髪が指の間で擦れるのを見つめながら、私は続けた。
「これからは、私がこころちゃんを守るから。もう絶対に……辛い目になんて、遭わせないから」
私は呟くようにそう語り掛けると、彼女の顔に掛かった髪を指で掬い、耳に掛けさせる。
だから、もう二度と……その名前を呼ばないでね。
心の中で、そう続けながら。
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