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11、今度は王女様
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王子様の次はお姫様。
どちらも物語には当たり前のように登場する役柄であるが、現実の世界では実在するかわからない、ふわふわした存在であった。
その二人が、今イリスの目の前にいる。紛れもない本物である。
(こんな簡単にお会いできてしまうなんて……)
ベアトリスたちに言ったら、どんなに驚かれることだろうか。
「イリス嬢。ご存知かもしれないが、こちらは私の妹のベルティーユと言う」
呆けているイリスにサミュエルが王女を紹介してくれる。サミュエルと同じ琥珀色の目がイリスを映して――
「まぁ、貴女が氷の騎士様の婚約者? お会いしたかったわ!」
ぱぁっと顔を輝かせ、王女はイリスの手をぎゅっと握りしめ、ぶんぶん上下に振った。初対面であるのに熱烈な歓迎ぶりに戸惑う。
(それより氷の騎士様って……)
「王女殿下。私の婚約者が困っていますので、お戯れはそこまでにして頂きたい」
ラファエルがそう言ってやんわり手を放させると、ベルティーユは猫のような大きな瞳を一際強く輝かせた。まるでとっておきの獲物を見つけたような王女の変化に、イリスは自分が狙われたわけでもないのにぎくりとする。
「まぁ、ラファエル。それは嫉妬という感情なの? おまえは好きな子に対してそういうふうに牽制するのね? 素敵だわ!」
一瞬、間が生まれる。
イリスはラファエルの頬が引き攣ったように見えた。
「……王女殿下。イリスは私の婚約者でございます。彼女が困っているなら、とりなしてやるのが普通でございましょう」
「いいえ。今までのおまえなら、放っておくのが普通よ。それに今おまえがわたくしを見る目、まるでひっくり返ったカエルを見るような目なんですもの」
どんな目なのだろう、それは。
「……王女殿下。貴女のおっしゃっていることはよくわかりませんが、私は誰に対してもこんな態度でございます」
「そうよね。おまえの心は誰にも溶かされることはないのよね!」
「……」
(ラ、ラファエルの顔が……!)
ただでさえ無表情だったのに、さらに感情を失くしていくようで、目からも光が消えていく。対するベルティーユはよりいっそう目に輝きを灯し、興奮した様子で頬を染めていく。
まるでラファエルの生気を王女が吸い取っていくようであり、イリスはハラハラして見ていた。
この二人、一体どういう関係なのだろうか。
「……王女殿下。こんなところにいらしても、退屈でしょう。誰かと踊ってきてはいかがでしょう」
さっさとどこかへ行け、というラファエルの遠回しな文句にも王女はなぜか恍惚とした表情を浮かべた。
「はぁ……その物言い、素敵だわ。何者も寄せ付けないという瞳。にこりともしない表情。おまえごときの人間など俺の前から消え失せてしまえという態度。まさに氷の騎士の名に相応しい姿だわ……」
ベルティーユの熱量に対し、ラファエルの纏う空気はどんどん下がっていく気がする。いや、間違いなく下がっている。ぶるりと身体を震わせたイリスはむき出しの二の腕を擦った。
「ね、ラファエル。今日のわたくしの姿、どう?」
「とても素敵ですよ」
誰にでも言うであろう褒め言葉をラファエルは淡々と口にする。しかしベルティーユはそんな彼の言葉でも、うんうん、といった感じで頷いている。まさにその言い方を期待していたというように。
「あとでわたくしと一曲、踊って欲しいのだけれど、よろしいかしら?」
「今夜王女殿下と踊る殿方は、国王陛下と王妃殿下の方から予めリストアップされています。どうかそちらを優先して下さい」
「婚約者以外の女とは踊りたくない、ってことね。素敵!」
「……」
(ど、どうしよう。ラファエルが……)
よくわからないけれど、困っている。助けなきゃ、と思ったイリスは「あの」と声を出していた。とても小さな声だったけれど。
しかしベルティーユはイリスのその小さな声をきちんと拾い、くるりとこちらに目を向けた。彼女のきらきら……爛々と輝く目に見つめられ、イリスはラファエルを助けようと思ったことを瞬時に後悔した。
ラファエルが困っている相手を、自分如きがどうにかできるはずがなかった。
「まぁ、イリスさん。わたくし、貴女からもぜひお話をお伺いしたいと思っていたのよ」
「わ、わたしのですか……?」
「そうよ。ラファエルの小さい頃とか、貴女との馴れ初めとか、ぜひ教えてちょうだい!」
ぐいぐい迫られ、イリスは思わず一歩後ろへ下がる。
(こ、こわい……)
なぜこうも興味関心を持たれるのかイリスには全くわからず、恐怖が湧いてくる。
「王女殿下。イリスが怖がっています」
ラファエルがすかさず間に入って守ってくれる。イリスはほっとすると同時に結局ラファエルに守ってもらった自分が情けなく思えた。
「まぁ、ラファエル。婚約者を悪しき者から身を挺して庇うなんて……あのおまえが!」
この場合悪しき者はベルティーユになるのだが、彼女は理解して言っているのだろうか。
「誰にも心を開かない氷の騎士が愛する女性だけには優しく接して、微笑んでくれる。冷たい氷も愛という熱で溶けていくのね……はぁ……なんて素敵なのかしら」
「……」
イリスもラファエルもベルティーユに対してどう接するのが正しいのかわからず、黙り込んでしまう。
「まぁまぁ、我が妹よ。仲良くなりたいというおまえの気持ちは大変よくわかるが、二人とも困っているからもうそのへんにしておきなさい」
今まで一言も発さず、微笑を湛えて様子を見守っていたサミュエルが妹を諫めた。
助かったと安堵したものの、この場で王女を止められるのは兄である彼くらいしかいないのだから、もう少し早く止めて欲しかったとイリスは心の中で思う。
(それにこの人、なんだかわたしたちの様子を見て面白がっていたような……)
疑わし気な眼差しで見ていることに気づいたのか、サミュエルはイリスの方を見る。ぎくりと固まる彼女に、王子は朗らかな口調で非礼を詫びた。
「すまないな、イリス嬢。妹はどうも、私の騎士のことをひどく気に入っているようで、見かける度に子どものようにはしゃいでしまうんだ」
「はぁ……」
イリスはベルティーユを見る。彼女は兄に嗜められてようやく落ち着いたのか、というより我に返った様子で、眉を八の字にさせてすまなそうな顔をしていた。
「ごめんなさい、イリスさん。わたくし、ついはしゃいでしまったわ」
「いいえ、そんな……あの、氷の騎士とは王女殿下が名付けられたのですか」
もうこうなってしまってはこの場で聞いてしまいたい。ラファエルにもいいよね、というように目でたずねれば、彼は仕方ないというように頷いた。
「まぁ、イリスさん。氷の騎士について興味がおありで?」
「ええ、まぁ……自分の婚約者のことですから」
「素敵だわ」
この王女様。先ほどから「素敵」と言い過ぎである。口癖なのだろうか。
「えっと……それで、ベルティーユ様がラファエルのことを氷の騎士と呼び始めたのでしょうか」
「どうだったかしら……最初はご令嬢たちの間でそう呼ばれていて、わたくしもいつの間にかそう呼ぶようになっていたから……」
「広めたのは間違いなくおまえだろうがな」
令嬢たちの間でラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていた……。
「どうして彼女たちはそう呼んでいるんでしょうか?」
「それは……」
王女と王子はラファエルの顔を見た。彼は小さく息を吐き、イリスに説明する。
「俺の態度があまりにもそっけなさすぎて、そう名付けたようだ」
「まぁ……」
先ほどのベルティーユとのやり取りを思い出す。確かにあんな感じで年頃の少女たちに接していたら冷たいと思われるのも仕方がないかもしれない。
(王女殿下はなぜか喜んでいるみたいだけど……)
「でも氷の騎士、ってラファエルにぴったりだと思いません? 綺麗なお顔をしているのに、誰にも心を開かないような凍てついた表情をして」
「勤務中にへらへらしていたらおかしいでしょう」
「それはそうなんだけど……でも、おまえの場合は妙に迫力があって、自然と目を惹きつけられてしまうのよね」
なんですかそれは……とラファエルは閉口する。彼には悪いが、イリスは王女の言葉にちょっと共感できた。美人の無表情は顔が整っているだけにこちらに容赦ない圧を与えるのだ。
「ま、おまえの顔がそれだけ綺麗で整っているということだ。他の騎士が同じ無表情でも、世の女性たちは目もくれないだろうからな」
哀しい事実をさらりと王子は述べる。
「そうよ。氷の騎士、素敵な呼び名じゃない」
「私は王太子殿下の護衛に徹する立場です。そんな変な呼び名は必要ありません。むしろかえって邪魔になります」
「そうか? 私はおまえが目立ってくれるおかげで、何かと助かっているが」
「それは……いえ、貴方を守るのが私の役目ですからそれはいいんですが……」
釈然としない、と呟くラファエルにベルティーユもサミュエルも笑った。その様子を見ていたイリスは何だか取り残された気分になる。
(ラファエル。お二人と仲がいいのね……)
六年前まで自分が一番近くにいて、誰よりも仲がいいと思っていたのに。
(なんだか、寂しい……)
「イリス。疲れたか?」
一人黙り込んでいたイリスに気づき、ラファエルが心配した声でたずねてくる。
「そういえばイリスさんは今日がデビューの日でしたのよね。初めてはひどく緊張なさったでしょう?」
「社交界はまだまだこれからが本番だ。疲れたのならば、今日はもう帰って、ゆっくりと休んだ方がいい」
イリスを心配して、王子も王女も気遣う言葉をかけてくる。
(お二人とも、優しい……)
変な人だな、と思ってしまったことを少し悪く思った。ラファエルと仲がいいことに嫉妬してしまったことも。
「王太子殿下。王女殿下。今日はお会いできて、とても光栄でしたわ。……これからも、どうぞよろしくお願いします」
畏まった口調で述べるイリスに二人は顔を見合わせて、やがてイリスを見てにっこり笑った。
「もちろんだとも。今後も遠慮せず、ぜひ王宮に遊びに来てくれ」
「そうですわ。今度はぜひわたくしのお友達も紹介させてちょうだい」
兄妹の申し出にイリスははにかみながら「はい」と頷いたのだった。
どちらも物語には当たり前のように登場する役柄であるが、現実の世界では実在するかわからない、ふわふわした存在であった。
その二人が、今イリスの目の前にいる。紛れもない本物である。
(こんな簡単にお会いできてしまうなんて……)
ベアトリスたちに言ったら、どんなに驚かれることだろうか。
「イリス嬢。ご存知かもしれないが、こちらは私の妹のベルティーユと言う」
呆けているイリスにサミュエルが王女を紹介してくれる。サミュエルと同じ琥珀色の目がイリスを映して――
「まぁ、貴女が氷の騎士様の婚約者? お会いしたかったわ!」
ぱぁっと顔を輝かせ、王女はイリスの手をぎゅっと握りしめ、ぶんぶん上下に振った。初対面であるのに熱烈な歓迎ぶりに戸惑う。
(それより氷の騎士様って……)
「王女殿下。私の婚約者が困っていますので、お戯れはそこまでにして頂きたい」
ラファエルがそう言ってやんわり手を放させると、ベルティーユは猫のような大きな瞳を一際強く輝かせた。まるでとっておきの獲物を見つけたような王女の変化に、イリスは自分が狙われたわけでもないのにぎくりとする。
「まぁ、ラファエル。それは嫉妬という感情なの? おまえは好きな子に対してそういうふうに牽制するのね? 素敵だわ!」
一瞬、間が生まれる。
イリスはラファエルの頬が引き攣ったように見えた。
「……王女殿下。イリスは私の婚約者でございます。彼女が困っているなら、とりなしてやるのが普通でございましょう」
「いいえ。今までのおまえなら、放っておくのが普通よ。それに今おまえがわたくしを見る目、まるでひっくり返ったカエルを見るような目なんですもの」
どんな目なのだろう、それは。
「……王女殿下。貴女のおっしゃっていることはよくわかりませんが、私は誰に対してもこんな態度でございます」
「そうよね。おまえの心は誰にも溶かされることはないのよね!」
「……」
(ラ、ラファエルの顔が……!)
ただでさえ無表情だったのに、さらに感情を失くしていくようで、目からも光が消えていく。対するベルティーユはよりいっそう目に輝きを灯し、興奮した様子で頬を染めていく。
まるでラファエルの生気を王女が吸い取っていくようであり、イリスはハラハラして見ていた。
この二人、一体どういう関係なのだろうか。
「……王女殿下。こんなところにいらしても、退屈でしょう。誰かと踊ってきてはいかがでしょう」
さっさとどこかへ行け、というラファエルの遠回しな文句にも王女はなぜか恍惚とした表情を浮かべた。
「はぁ……その物言い、素敵だわ。何者も寄せ付けないという瞳。にこりともしない表情。おまえごときの人間など俺の前から消え失せてしまえという態度。まさに氷の騎士の名に相応しい姿だわ……」
ベルティーユの熱量に対し、ラファエルの纏う空気はどんどん下がっていく気がする。いや、間違いなく下がっている。ぶるりと身体を震わせたイリスはむき出しの二の腕を擦った。
「ね、ラファエル。今日のわたくしの姿、どう?」
「とても素敵ですよ」
誰にでも言うであろう褒め言葉をラファエルは淡々と口にする。しかしベルティーユはそんな彼の言葉でも、うんうん、といった感じで頷いている。まさにその言い方を期待していたというように。
「あとでわたくしと一曲、踊って欲しいのだけれど、よろしいかしら?」
「今夜王女殿下と踊る殿方は、国王陛下と王妃殿下の方から予めリストアップされています。どうかそちらを優先して下さい」
「婚約者以外の女とは踊りたくない、ってことね。素敵!」
「……」
(ど、どうしよう。ラファエルが……)
よくわからないけれど、困っている。助けなきゃ、と思ったイリスは「あの」と声を出していた。とても小さな声だったけれど。
しかしベルティーユはイリスのその小さな声をきちんと拾い、くるりとこちらに目を向けた。彼女のきらきら……爛々と輝く目に見つめられ、イリスはラファエルを助けようと思ったことを瞬時に後悔した。
ラファエルが困っている相手を、自分如きがどうにかできるはずがなかった。
「まぁ、イリスさん。わたくし、貴女からもぜひお話をお伺いしたいと思っていたのよ」
「わ、わたしのですか……?」
「そうよ。ラファエルの小さい頃とか、貴女との馴れ初めとか、ぜひ教えてちょうだい!」
ぐいぐい迫られ、イリスは思わず一歩後ろへ下がる。
(こ、こわい……)
なぜこうも興味関心を持たれるのかイリスには全くわからず、恐怖が湧いてくる。
「王女殿下。イリスが怖がっています」
ラファエルがすかさず間に入って守ってくれる。イリスはほっとすると同時に結局ラファエルに守ってもらった自分が情けなく思えた。
「まぁ、ラファエル。婚約者を悪しき者から身を挺して庇うなんて……あのおまえが!」
この場合悪しき者はベルティーユになるのだが、彼女は理解して言っているのだろうか。
「誰にも心を開かない氷の騎士が愛する女性だけには優しく接して、微笑んでくれる。冷たい氷も愛という熱で溶けていくのね……はぁ……なんて素敵なのかしら」
「……」
イリスもラファエルもベルティーユに対してどう接するのが正しいのかわからず、黙り込んでしまう。
「まぁまぁ、我が妹よ。仲良くなりたいというおまえの気持ちは大変よくわかるが、二人とも困っているからもうそのへんにしておきなさい」
今まで一言も発さず、微笑を湛えて様子を見守っていたサミュエルが妹を諫めた。
助かったと安堵したものの、この場で王女を止められるのは兄である彼くらいしかいないのだから、もう少し早く止めて欲しかったとイリスは心の中で思う。
(それにこの人、なんだかわたしたちの様子を見て面白がっていたような……)
疑わし気な眼差しで見ていることに気づいたのか、サミュエルはイリスの方を見る。ぎくりと固まる彼女に、王子は朗らかな口調で非礼を詫びた。
「すまないな、イリス嬢。妹はどうも、私の騎士のことをひどく気に入っているようで、見かける度に子どものようにはしゃいでしまうんだ」
「はぁ……」
イリスはベルティーユを見る。彼女は兄に嗜められてようやく落ち着いたのか、というより我に返った様子で、眉を八の字にさせてすまなそうな顔をしていた。
「ごめんなさい、イリスさん。わたくし、ついはしゃいでしまったわ」
「いいえ、そんな……あの、氷の騎士とは王女殿下が名付けられたのですか」
もうこうなってしまってはこの場で聞いてしまいたい。ラファエルにもいいよね、というように目でたずねれば、彼は仕方ないというように頷いた。
「まぁ、イリスさん。氷の騎士について興味がおありで?」
「ええ、まぁ……自分の婚約者のことですから」
「素敵だわ」
この王女様。先ほどから「素敵」と言い過ぎである。口癖なのだろうか。
「えっと……それで、ベルティーユ様がラファエルのことを氷の騎士と呼び始めたのでしょうか」
「どうだったかしら……最初はご令嬢たちの間でそう呼ばれていて、わたくしもいつの間にかそう呼ぶようになっていたから……」
「広めたのは間違いなくおまえだろうがな」
令嬢たちの間でラファエルが「氷の騎士」と呼ばれていた……。
「どうして彼女たちはそう呼んでいるんでしょうか?」
「それは……」
王女と王子はラファエルの顔を見た。彼は小さく息を吐き、イリスに説明する。
「俺の態度があまりにもそっけなさすぎて、そう名付けたようだ」
「まぁ……」
先ほどのベルティーユとのやり取りを思い出す。確かにあんな感じで年頃の少女たちに接していたら冷たいと思われるのも仕方がないかもしれない。
(王女殿下はなぜか喜んでいるみたいだけど……)
「でも氷の騎士、ってラファエルにぴったりだと思いません? 綺麗なお顔をしているのに、誰にも心を開かないような凍てついた表情をして」
「勤務中にへらへらしていたらおかしいでしょう」
「それはそうなんだけど……でも、おまえの場合は妙に迫力があって、自然と目を惹きつけられてしまうのよね」
なんですかそれは……とラファエルは閉口する。彼には悪いが、イリスは王女の言葉にちょっと共感できた。美人の無表情は顔が整っているだけにこちらに容赦ない圧を与えるのだ。
「ま、おまえの顔がそれだけ綺麗で整っているということだ。他の騎士が同じ無表情でも、世の女性たちは目もくれないだろうからな」
哀しい事実をさらりと王子は述べる。
「そうよ。氷の騎士、素敵な呼び名じゃない」
「私は王太子殿下の護衛に徹する立場です。そんな変な呼び名は必要ありません。むしろかえって邪魔になります」
「そうか? 私はおまえが目立ってくれるおかげで、何かと助かっているが」
「それは……いえ、貴方を守るのが私の役目ですからそれはいいんですが……」
釈然としない、と呟くラファエルにベルティーユもサミュエルも笑った。その様子を見ていたイリスは何だか取り残された気分になる。
(ラファエル。お二人と仲がいいのね……)
六年前まで自分が一番近くにいて、誰よりも仲がいいと思っていたのに。
(なんだか、寂しい……)
「イリス。疲れたか?」
一人黙り込んでいたイリスに気づき、ラファエルが心配した声でたずねてくる。
「そういえばイリスさんは今日がデビューの日でしたのよね。初めてはひどく緊張なさったでしょう?」
「社交界はまだまだこれからが本番だ。疲れたのならば、今日はもう帰って、ゆっくりと休んだ方がいい」
イリスを心配して、王子も王女も気遣う言葉をかけてくる。
(お二人とも、優しい……)
変な人だな、と思ってしまったことを少し悪く思った。ラファエルと仲がいいことに嫉妬してしまったことも。
「王太子殿下。王女殿下。今日はお会いできて、とても光栄でしたわ。……これからも、どうぞよろしくお願いします」
畏まった口調で述べるイリスに二人は顔を見合わせて、やがてイリスを見てにっこり笑った。
「もちろんだとも。今後も遠慮せず、ぜひ王宮に遊びに来てくれ」
「そうですわ。今度はぜひわたくしのお友達も紹介させてちょうだい」
兄妹の申し出にイリスははにかみながら「はい」と頷いたのだった。
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