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14、初めてのお茶会
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「会いたかったわ、イリスさん」
そして、とベルティーユはイリスの隣を見て笑みを深めた。
「アナベル嬢も。ようこそお越し下さいました。今日はどうぞ楽しんでいって下さいね」
「お、王女殿下。本日はわたくしのような者をお呼びいただいて、本当にありがとうございます」
畏まった態度でお礼を述べるアナベルに、ベルティーユは朗らかに答える。
「あら、いいのよ。イリスさんによかったらお友達も誘って来て下さいと手紙に書いておいたのだから。それに貴女のお父様にはいつもお母様たちがお世話になっているもの。男爵の娘である貴女とも、ずっと仲良くなりたいと思っていたの。だからどうかそんなに緊張しないで、今日はどうか楽しんでいってちょうだいね」
「は、はい……」
ちっとも楽しめない顔つきでアナベルは頷いた。ベルティーユが他のご令嬢に挨拶している間に、隣に座るイリスの洋服の裾をぎゅっと引っ張ってくる。
「ちょっと。本当にわたくしのような人間がいていいの?」
「アナベルさん緊張しているの?」
当たり前でしょ! と小声で言い、眦を吊り上げられる。ちょっと懐かしい、と思った。
「あなた、なんでそんな余裕なのよ!」
「そんなことないわ。わたしもものすごく緊張しているの」
ほら、とイリスはティーカップを握る手が小刻みに震えているところを見せた。アナベルはそれをじっと見つめ、またイリスへと視線を戻す。
「どうしてわたくしを誘ってくれたの?」
イリスは首を傾げる。
「どうしてって、先ほど王女殿下がおっしゃってくれたように、他のご友人も誘ってくれて構わないと書いてあったからだよ」
それに、とイリスはばつの悪い顔をして白状する。
「わたし一人だけだと不安だった気持ちもあるの。同じ学校の友人がいれば、心強いでしょう?」
だから打算的な所もあったかな、と正直に言えば、怖い顔をして聞いていたアナベルは呆れた顔をした。
「貴女って小心者のようで、意外と図々しいところがあるのね」
「えっと、褒めている?」
「さぁ、どうかしら」
でも、と小さく付け足す。
「呼んでくれて、感謝しているわ」
目を合わせないまま、アナベルは言った。
「わたくしのお父様でも、さすがに王女殿下のお茶会へわたくしを参加させるのは難しかったでしょうから」
うん、とイリスは微笑んだ。
迷ったけれど、やはり誘ってよかったなと思った。
「あら、二人して内緒話? だめよ、独り占めしちゃ。秘密はみんなで共有するものよ」
ベルティーユがね、と他の令嬢たちに微笑みかけると、彼女たちもええ、とお淑やかに返事をする。当たり前であるが、みな良家の娘ばかりである。アナベルが緊張するのも無理ない。
「お二人は修道院の寄宿学校に通っていらっしゃったのよね?」
「はい。イリスさんとは、同級生でしたわ」
「そうなの。私たちも王立学校からずっと一緒でしたのよ」
貴族の男性も通う学校。イリスには一体どんな感じなのか想像もつかない。アナベルも同じらしく、「やっぱり素敵な殿方との出会いがありますの」と好奇心を隠しきれない様子で令嬢たちにたずねている。
「そうねぇ……たしかに素敵な殿方もいらっしゃるけれど……」
「全員が全員、そういうわけではないわ」
「そうなんですか」
ええ、と彼女たちは互いに顔を見合わせて困ったように笑う。
「本当に貴族の息子なのかと思うくらい品のない方もいらっしゃいますしね」
「殿方同士集まって何を真剣に話しているかと思えば、結婚して愛人は持つべきかどうか、なんて議論でしたのよ。わたくし、軽蔑を通り越して呆れてしまいましたわ」
「愛人を持てるほどの器量かどうか、一度自分の姿を鏡でじっくり見て確かめて欲しいものですわよね」
他にも……と男性に対する不満を彼女たちは次々と口にする。
イリスとアナベルは真剣に耳を傾けていたが、やがて戸惑いを浮かべ、最後には呆然とした。
彼女たちが話す内容は、かつて友人たちと話していた男性へのイメージを根本から覆すものだったのだ。そして田舎の修道院とは違って垢ぬけた都会の少女たちが明け透けなく男性について話す姿は、イリスに強烈な印象を与えた。
(こんな綺麗な子たちでも、悪口は言うのね……)
アナベルの方をこっそり見ると、何とも名状しがたい表情で話を聞いていた。彼女もイリスと同様複雑な心境なのだろう。
「まぁまぁ、みなさん。殿方への愚痴はそこまでにして。素晴らしい所も語らなくてはいけないわ」
ベルティーユがぱんぱんと軽く手を叩き、話題の転換を促す。
「そうね。先日開かれた舞踏会で、誰が素敵な殿方であったか、みなさんの意見が聞きたいわ」
ベルティーユがそう言うと、今度はみな顔を見合わせて照れた表情を浮かべる。それは年相応の可愛らしい表情でもあった。
「わたくしはやっぱり王太子殿下がとても素敵に見えましたわ」
「ええ、私も。白い正装姿が本当によくお似合いで……」
「わかりますわ。他の方が黒の燕尾服を着ている中で王太子殿下の服装は目立って、何度もこっそり見てしまいましたもの」
「殿下だからこそ着こなせた服装ですわよね」
「まぁ、みなさん! わたくしの兄だからって気を遣わなくていいのよ?」
そんなことありません! と一斉に令嬢たちは声を上げた。
「サミュエル様ほど魅力あふれる殿方はおりませんわ」
「そうです。どのご令嬢にもお優しくて、微笑まれるだけで私、もう……」
「天へ召されてしまいそうですわ」
「そう? わたくしは妹だからあまりよくわからないけれど」
とは言いつつ、ベルティーユは兄が褒められて満更でもない様子であった。
「アナベルさんは? 誰か素敵だと思う殿方はいらした?」
「え、そ、そうですわね……」
話を振られたアナベルは慌てたように考える。彼女は社交界デビューしたばかりだからまだ貴族の名前を知らないのではないか。そう思ったイリスは説明しようとして、ばちりとアナベルと視線が合う。
「王太子殿下も素敵でしたが、わたくしはラファエル様も素敵だと思いましたわ」
そして、とベルティーユはイリスの隣を見て笑みを深めた。
「アナベル嬢も。ようこそお越し下さいました。今日はどうぞ楽しんでいって下さいね」
「お、王女殿下。本日はわたくしのような者をお呼びいただいて、本当にありがとうございます」
畏まった態度でお礼を述べるアナベルに、ベルティーユは朗らかに答える。
「あら、いいのよ。イリスさんによかったらお友達も誘って来て下さいと手紙に書いておいたのだから。それに貴女のお父様にはいつもお母様たちがお世話になっているもの。男爵の娘である貴女とも、ずっと仲良くなりたいと思っていたの。だからどうかそんなに緊張しないで、今日はどうか楽しんでいってちょうだいね」
「は、はい……」
ちっとも楽しめない顔つきでアナベルは頷いた。ベルティーユが他のご令嬢に挨拶している間に、隣に座るイリスの洋服の裾をぎゅっと引っ張ってくる。
「ちょっと。本当にわたくしのような人間がいていいの?」
「アナベルさん緊張しているの?」
当たり前でしょ! と小声で言い、眦を吊り上げられる。ちょっと懐かしい、と思った。
「あなた、なんでそんな余裕なのよ!」
「そんなことないわ。わたしもものすごく緊張しているの」
ほら、とイリスはティーカップを握る手が小刻みに震えているところを見せた。アナベルはそれをじっと見つめ、またイリスへと視線を戻す。
「どうしてわたくしを誘ってくれたの?」
イリスは首を傾げる。
「どうしてって、先ほど王女殿下がおっしゃってくれたように、他のご友人も誘ってくれて構わないと書いてあったからだよ」
それに、とイリスはばつの悪い顔をして白状する。
「わたし一人だけだと不安だった気持ちもあるの。同じ学校の友人がいれば、心強いでしょう?」
だから打算的な所もあったかな、と正直に言えば、怖い顔をして聞いていたアナベルは呆れた顔をした。
「貴女って小心者のようで、意外と図々しいところがあるのね」
「えっと、褒めている?」
「さぁ、どうかしら」
でも、と小さく付け足す。
「呼んでくれて、感謝しているわ」
目を合わせないまま、アナベルは言った。
「わたくしのお父様でも、さすがに王女殿下のお茶会へわたくしを参加させるのは難しかったでしょうから」
うん、とイリスは微笑んだ。
迷ったけれど、やはり誘ってよかったなと思った。
「あら、二人して内緒話? だめよ、独り占めしちゃ。秘密はみんなで共有するものよ」
ベルティーユがね、と他の令嬢たちに微笑みかけると、彼女たちもええ、とお淑やかに返事をする。当たり前であるが、みな良家の娘ばかりである。アナベルが緊張するのも無理ない。
「お二人は修道院の寄宿学校に通っていらっしゃったのよね?」
「はい。イリスさんとは、同級生でしたわ」
「そうなの。私たちも王立学校からずっと一緒でしたのよ」
貴族の男性も通う学校。イリスには一体どんな感じなのか想像もつかない。アナベルも同じらしく、「やっぱり素敵な殿方との出会いがありますの」と好奇心を隠しきれない様子で令嬢たちにたずねている。
「そうねぇ……たしかに素敵な殿方もいらっしゃるけれど……」
「全員が全員、そういうわけではないわ」
「そうなんですか」
ええ、と彼女たちは互いに顔を見合わせて困ったように笑う。
「本当に貴族の息子なのかと思うくらい品のない方もいらっしゃいますしね」
「殿方同士集まって何を真剣に話しているかと思えば、結婚して愛人は持つべきかどうか、なんて議論でしたのよ。わたくし、軽蔑を通り越して呆れてしまいましたわ」
「愛人を持てるほどの器量かどうか、一度自分の姿を鏡でじっくり見て確かめて欲しいものですわよね」
他にも……と男性に対する不満を彼女たちは次々と口にする。
イリスとアナベルは真剣に耳を傾けていたが、やがて戸惑いを浮かべ、最後には呆然とした。
彼女たちが話す内容は、かつて友人たちと話していた男性へのイメージを根本から覆すものだったのだ。そして田舎の修道院とは違って垢ぬけた都会の少女たちが明け透けなく男性について話す姿は、イリスに強烈な印象を与えた。
(こんな綺麗な子たちでも、悪口は言うのね……)
アナベルの方をこっそり見ると、何とも名状しがたい表情で話を聞いていた。彼女もイリスと同様複雑な心境なのだろう。
「まぁまぁ、みなさん。殿方への愚痴はそこまでにして。素晴らしい所も語らなくてはいけないわ」
ベルティーユがぱんぱんと軽く手を叩き、話題の転換を促す。
「そうね。先日開かれた舞踏会で、誰が素敵な殿方であったか、みなさんの意見が聞きたいわ」
ベルティーユがそう言うと、今度はみな顔を見合わせて照れた表情を浮かべる。それは年相応の可愛らしい表情でもあった。
「わたくしはやっぱり王太子殿下がとても素敵に見えましたわ」
「ええ、私も。白い正装姿が本当によくお似合いで……」
「わかりますわ。他の方が黒の燕尾服を着ている中で王太子殿下の服装は目立って、何度もこっそり見てしまいましたもの」
「殿下だからこそ着こなせた服装ですわよね」
「まぁ、みなさん! わたくしの兄だからって気を遣わなくていいのよ?」
そんなことありません! と一斉に令嬢たちは声を上げた。
「サミュエル様ほど魅力あふれる殿方はおりませんわ」
「そうです。どのご令嬢にもお優しくて、微笑まれるだけで私、もう……」
「天へ召されてしまいそうですわ」
「そう? わたくしは妹だからあまりよくわからないけれど」
とは言いつつ、ベルティーユは兄が褒められて満更でもない様子であった。
「アナベルさんは? 誰か素敵だと思う殿方はいらした?」
「え、そ、そうですわね……」
話を振られたアナベルは慌てたように考える。彼女は社交界デビューしたばかりだからまだ貴族の名前を知らないのではないか。そう思ったイリスは説明しようとして、ばちりとアナベルと視線が合う。
「王太子殿下も素敵でしたが、わたくしはラファエル様も素敵だと思いましたわ」
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