氷の騎士様は実は太陽の騎士様です。

りつ

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27、仲直りの帰り

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「イリス」
「うん?」

 帰りの馬車でラファエルが緊張した声でたずねてくる。誤解はもう解けたはずなのに、まだ不安そうだ。

「どうしたの、ラファエル」
「いや、その……」

 いつも言いたいことははっきり述べるラファエルが珍しく口ごもっている。

「もう気にしていないよ」

 イリスがそう言うと、ラファエルは本当かというように目で問いかけてきた。彼女は本当だと頷いた。

「わたしの方こそ、疑ってごめんね」

 ベルティーユたちから話を聞いた時にラファエルがそんなことするはずないと思っていたけれど、もしかしたら……と疑ってしまった。

「わたし、ラファエルを信じるより、王女殿下たちの噂の方を信じてしまったの。婚約者であるわたしだけはラファエルのこと信じてあげなくちゃだめだったのに……ごめんなさい、ラファエル」

 落ち込むイリスに「そうだな」とどこか沈んだ声で彼は答えた。

「イリスには、俺のこと信じて欲しかったな……」
「うっ、でも、少しは疑う気持ちもあったの。ラファエルがそんな酷いことするはずないって……」
「けど、結局信じたからあの時俺を責めたんだろう?」

 傷ついた、と悲しそうな声で告げられ、イリスはますます罪悪感を刺激された。居ても立っても居られず、ラファエルの隣に席を移し、膝の上に置かれた手に自分のをそっと重ねる。

「本当にごめんなさい。今度からは絶対ラファエルのこと信じるわ」
「……本当か?」

 俯いていたラファエルがちらりとイリスを見る。彼女はこくこく頷いた。

「今は言葉だけだから信用できないかもしれないけれど、でも、もうラファエルのこと疑ったりしないわ。だから……お願い。わたしのこと、嫌いになったりしないで」

 ラファエルに嫌われたら……考えるだけでイリスは泣きたくなってきた。

「……ばか。こんなことで嫌いになったりするはずないだろ」

 ラファエルが呆れた顔をして、イリスをそっと抱きしめた。落ち着かせるように背中をぽんぽん叩かれ、彼女の涙腺はますます緩みそうだ。

「ほんとう?」
「本当だ。すまん。おまえがあんまり必死だから、少し揶揄いたくなった」
「じゃあ怒ってないの?」
「ああ、別に」

 なんだ、とイリスは胸をなで下ろした。

「でも、ひどい。揶揄うなんて……ほんとうに嫌われたらどうしようって、思ったんだから」
「俺がイリスのこと、嫌いになるはずないだろう」

 甘い声でそう言うと、ラファエルはイリスを強く抱きしめた。

「むしろ俺の方こそ、イリスに嫌われたんじゃないかって怖くてたまらなかった」
「ラファエルを嫌いになったりなんてしないわ」
「本当?」
「本当だよ」

 二人は真剣に顔を見合わせて、やがてふっと相好を崩した。

「前にもこんな話、したね」
「そうだな。また同じだ」
「ねぇ、ラファエル。……わたしたち、また喧嘩してしまうのかしら」
「あまりしたくはないが……一緒に暮らすってなったら、どうしたって些細なすれ違いや不満は生じてしまうだろうから、ないとは言い切れないな」
「そっか……」

 イリスは彼の肩口に頭を預けたまま、考えるように言った。

「ラファエル。あなた前に、王宮は怖い所だって言ったでしょう? わたし、今回のことでそれがどういう意味かわかった気がするわ」

 いろんな考えを持った人間がいるから、衝突しあったり、それが噂になったり、形を変えて人を貶めたり、傷つけることに繋がる。イリスは噂を鵜呑みにしてしまい、ラファエルと拗れる羽目になった。

 恐ろしい場所だ、とイリスは思った。

「ラファエルの忠告、もっときちんと頭に入れておけばよかったわ」
「イリスは今までそういった場所と疎遠だったんだ。それに慣れていても惑わされる人間は大勢いる。今回は仕方がないと思うぞ」

 だから今度は、とラファエルは続けた。

「聞くこと全部が正しいって思わず、その都度考えろ。悩んだら俺や信用できる人間に相談しろ」
「うん。次からはそうする」

 できれば今回みたいなことはこれっきりにしたい。

(難しいのかもしれないけれど)

「喧嘩している間、とても苦しかったの」

 たった一日だけだったけれど、ラファエルのことばかり考えてしまって、素直になれない自分が嫌で、彼に嫌われたらどうしようかと不安でたまらなかった。

「これからはそういうの、あんまりしたくないなぁ……」
「そうだな。でも……」
「でも?」
「喧嘩して仲直りするの、俺はあんまり嫌いじゃない」
「どうして?」

 ラファエルはイリスの目をじっと見つめて、「秘密だ」と悪戯っぽく微笑んだ。

「教えてくれないの?」
「ああ」
「意地悪」

 けれど、なんとなくわかる気がした。

(ラファエルのこと、好きなんだなって改めて思うもの)

 きっと彼も同じ気持ちだろう。
 イリスはそう思って、ラファエルに微笑んだ。彼もまた優しい目をして自分を見つめていた。


 シェファール家まで送り届けてもらい、少し休んでいけばとイリスは勧めたが、ラファエルは首を振った。

「仕事があるから、王宮にまた戻る」
「ねぇ、もしかして今日も、いろいろ無茶して来てくれたの?」
「夜勤を代わってもらっただけだ」

 気にするなと言われても、イリスは申し訳なかった。

「ラファエル。その、あまり無理して会わなくてもいいんだよ?」
「無理はしていない。それに今回はおまえとの仲を修復させるのに必要不可欠だった」

 大真面目な顔して言うものだから、イリスの方がなんだか恥ずかしくなってくる。

(殿下に対しても、同じように説明したのかしら……)

「今度王太子殿下にお会いしたらもう一度謝らないといけないわ……」
「いや、あの人は面白い体験をしたと思っているだろうから、おそらく大丈夫だ」
「そんなことは……」

 サミュエルの笑顔が浮かんで、ないとは言い切れなかった。

「王女殿下もだけど、王太子殿下も少し、変わった方だね……」
「そうだな」

 否定もせず、ラファエルは即答した。

「だが主君としては尊敬している」
「うん。……お仕事、頑張ってね」
「ああ」

 そう言って別れようとしたラファエルがふいに思い出したというようにこちらを振り返った。

「イリス。今度の休み、また会いに来るから空けておいてくれ」
「ええ、わかったわ」

 そう返事をすると、ラファエルは笑みを作り、じゃあなと帰って行った。

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