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41.聖女と魔女

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「見苦しいところを見せたな」

 カルロスの後始末を終え、アレクシスはリアンにそう言った。リアンとしては何と答えていいかわからない。ただ王位を狙おうとしていたカルロスは死に、アレクシスが次の王となることだけは確かであった。

 自分はラシアへ帰り、事の顛末を話さなければならない。

(だがまだ……)

聖女ディアナはどうなるのですか」
「魔女として処刑されることが決まった」

 まじょ、とリアンは呟いた。

「そんな……ディアナは聖女のはずです。魔女だなんて……」
「王子を惑わし、人の命を奪った。もちろん、唆した者は大勢いる。そもそもの発端となったのは、俺を良く思っていない貴族の連中だ。彼女だけの責任ではない。命を奪ったのも、争いだから仕方がないことだ」
「そこまでわかっているのならなぜ……!」

 せめて聖女として死なせてやればいい。

「たくさん、お調べになったのでしょう? 彼女が清い体であるのか、聖痕がどこにあるのか、神の声をいつ、どのようにして聞いたのか、何度も何度も、嫌になるほどお聞きになったのでしょう?」

 それでも彼女の力は本物だったはずだ。調べた者の中にはあまりの罪深さに涙を浮かべ、拒否する者までいたという。自分たちは聖女である彼女を貶め、尊厳を傷つけようとしている、と。

「あなたが命じれば、教会だって撤回するはずです」
「できないな」
「どうして」

 そんなにも教会の権威が大切なのか。魔女という不名誉な烙印まで押して、守りたいものなのか。

「ディアナが神の声に従ってカルロスを王にしようとしたからだ。彼女を聖女のまま処刑することは、彼女の主張を認めることになる。俺が王であることの否定になるのだ」
「けれどあなたは……神の意思など自分には関係ないとおっしゃったではありませんか」
「そうだ。だからこそ否定する。魔女として殺すのだ」
「そんな……」

 もはやアレクシスの決定は絶対であり、リアンにはどうすることもできなかった。いや、そもそも自分はただこの国に使者として滞在しているだけであり、ディアナとは顔見知りでも何でもない。

「リアン。そなたはやけに聖女を庇おうとするな」

 アレクシスが当然の疑問をぶつけてくる。他国の聖女など、おまえにとってはどうでもいい存在のはずであるのに、なぜそんなにも気にかけるのか。

「俺がそなたの命を見逃したのは、そなたが聖女のことを特別な者ではない、自分たちと同じ存在だと言ったからだ」

 アレクシスの考えに、偶然にもリアンは一致していたのだ。

「聖女というのは王ではない。結局支配する者の意見で、聖女にも、魔女にもなり得る。……もし、そなたがラシアの聖女を魔女にしたくないのならば、聖女を絶対視する者を王にするしかないな」

 あるいは、とアレクシスは言いかけたけれど、その先を続けることはせず、話はこれでお終いだとリアンに退出を命じた。

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