シニカルロマネスク

成宮まりい

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1・白と黒

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「申し訳ないと思ったのですが、内ポケットに時計が入っておりまして」

「え? ああ、コイツのことか?」

「あ! そうです、そちらですわ。その時計、お水に浸かってしまったせいか、うごきが悪くなっておりまして……お見受けしたところ、よい品でしたので大切な物だろうと思い簡単に修理させていただきました」

「……修理? わざわざ、時計屋に持って行ってくれたのか?」

「いえ、あの。わたくし……女のくせにと思われるかもしれませぬがオルゴールとか時計などのカラクリを弄るのが好きでして……そのわたくしが……なので不具合があったらキチンとした職人さんに見て頂いてください」

「貴女が修理を……器用だな」

 そういいながら時計を上げたり下げたり、耳に当てて秒針の音を確認するも不具合は感じられず、目の前の虫一つ殺せないような、と、いうか刺繍しか出来ないようなお嬢さんが時計を直したと聞いて驚いていた。

「今のところ、不具合はなさそうだ」

「ふふ、それならよかったわ」

ホッとしたように笑いながら窓のそばに行く彼女をサムは物珍しそうに眺めた。

「今日は、とてもいい天気でしてよ」

「ジェイが、いつになくお喋りだからね。雨が降るかもしれないよ? しかも雷雨だね、あはは!」

サムは俺を見て舌をペロッと出して見せた。

 医者の家というだけあって、身なりもきちんとした美しい娘はサムの髪の色とほぼ同じ光を放つ金髪を片側にまとめて緩く三つ編みにしていた。

「医者の娘か、じゃあ貴族だね……ジェイ気に入ったの? 品もいいし、何よりさあ、笑顔がチャーミングだ! ボクはいいと思うよ」

サムはニヤニヤしながら長椅子に腰掛けて彼女を見ていた。俺は茶化すように言ったサムを無視して彼女に視線を移す。 

「お顔の色もとってもいいみたいで安心しましたわ、まだこの時期は水が冷たいから……お熱が出るんじゃないかと思ってましたの。でも、とっても丈夫なのね。素晴らしいわ。あ、そうだわ、お茶をお持ちしましょうか? それともスープがいいかしら?」

彼女はそういいながら、わずかに開いていた窓を閉めた。

「では、お茶を頂けるだろうか? ……失礼ついでに、名をなんと申うされるのか」

「あら、わたくしったら……名も名乗らず不躾でしたわ。……リリーと申します。リリアン・グランディア。リリーと呼んでくださいませ」

「リリー……リリアン。美しい名だ」

俺がそういうと、長椅子でサムが笑う。

「ははは! ジェイが女の名前を誉めるなんて珍しいな、うーん、しかし自分は名乗らないなんて失敬だな。ご婦人に名乗らせておいてさ」

俺ははっとして顔をあげた。

「それもそうだな……ご婦人に名乗らせておいて失礼した。俺は、ジュリアスだ」

「ボクはサムだよ! よろしくね!」

「ジュリアス様……ですか。英雄の名ですわね、素敵だわ」

「いや。そんな大層な……ジュリアス・トルメインだ。……たいていの者はジュリアスの頭文字でJ(ジェイ)と呼ぶが、呼びやすいようにしてくれてかまわない……それに年もいくつも離れてはいないだろう?」

「わたくしって……いくつに、見えまして?」

突然の質問に俺は戸惑った。

 サムはクスクスと笑いながら「20はいかないぐらいかな? 18か19か。でも、彼女まだ男を知らない顔だよ! 美人で処女なんて天然記念物だよ! お買い得! 早くしないと売れちゃうよ」と俺の耳元で囁く。


俺は横目で一瞬サムを見て言葉を慎めと言う視線を送りながら首を傾げた。



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