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1・白と黒
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失笑気味に言うとサムはおどけてみせた。「あはは! ジェイは猛犬だから噛みつかれるよ、お医者のおじさん気をつけて」
ワンワンと言いながら、ベッドで転がるサムを軽く無視しながら医師である男に視線を向けると、男は人の良さそうな顔で頷いた。
「私も、似たようなものだ。若い頃、軍医をしていたんだよ。だが、治っても治っても死に行かせる為に傷を治すのがイヤになってね、逃げたのだよ、そしてこんな田舎で細々と開業医になったわけだ……ようやく戦が落ち着いてよかったよ。未来ある命を無駄に失わなくて済む」
ドクターピーターはリリーが淹れたお茶を飲みながら小さくため息をつき、少し考えると顔をあげて言った。
「そう言えばトルメインといったかね?」
「はい」
「もしかして、トルメイン大将の御子息か?」
「……父をご存知ですか? わたしは三男で末っ子になります」
「ほうほう……お父上とは、いくつも国を跨いだ仲だ。そうか、お元気かね?」
「ええ、お陰様で」
そうか、それはよかった。と、大きく頷いて立ち上がった。
「急ぎの用があるなら引き止めはしないが、医者としては……しばしの療養を薦めるね、脚を軽く捻っているようだし腹部を少し打撲したようだ。それに長い戦のせいだろうね。体調に支障があるのでは?」
「でも、いつまでもお世話になるわけにはいきません、街までの馬車など呼んで頂ければすぐにでもお暇するべきかと」
「いやいや、かまわんよ、大したもてなしもできんが、養生していってくれたまえ。トルメイン大将には借りもあるしねえ。心配なら、私はこれから街に行くんだトルメイン大将にお会いしてこようじゃないか。我が家に身を寄せていると分かればご家族も安心であろう」
「何から何まで申し訳ありません」
「遠慮はいらんよ。必ず伝えよう」
そう言って笑うと、リリーに向き直った。
「リリー。明日の晩には帰るからね。留守を頼むよ。何かあったらビルにね。ジュリアスくんの食欲があれば、給仕に言って粥かオートミールを。明日の晩にはささやかな晩餐をご一緒にね。……ジュリアスくん、押しつけるようで申し訳ないが、リリーの話し相手にでもなってやっておくれ」
「お心遣い感謝します」
ドクターピーターが部屋を出ると、サムは「ボクもおじゃまみたいだね」といいながら、壁に向いて昼寝を始めた。
いつもの狸寝入りだろう、と思いながらリリーに視線を向ける。
「父が……すみません、わたくし友人もたくさんいるわけでは、ありませんし。本ばかり読んでいるので皆さん空想家なんて陰でバカにしてますのよ、まあ、言いたい方はどうぞ、と、いう感じですけれど」
ふふと自嘲気味に笑ったリリーは、俺の脚に巻かれた包帯のズレを直すように途中まで解いた。
「本を読んだり、空想をするのは悪いことではない。それをバカにするご婦人のほうが、頭の中身が気の毒な事になっておられるのだろう……気に病む必要はないな」
「頭の中身が……気の毒。ふふふ、ジュリアス様ったらステキだわ」
楽しそうに笑いながら俺を見上げた彼女の瞳にドキリとする。
オリーブ色の瞳に吸い込まれてしまうのではないかと思ったのだった。
ワンワンと言いながら、ベッドで転がるサムを軽く無視しながら医師である男に視線を向けると、男は人の良さそうな顔で頷いた。
「私も、似たようなものだ。若い頃、軍医をしていたんだよ。だが、治っても治っても死に行かせる為に傷を治すのがイヤになってね、逃げたのだよ、そしてこんな田舎で細々と開業医になったわけだ……ようやく戦が落ち着いてよかったよ。未来ある命を無駄に失わなくて済む」
ドクターピーターはリリーが淹れたお茶を飲みながら小さくため息をつき、少し考えると顔をあげて言った。
「そう言えばトルメインといったかね?」
「はい」
「もしかして、トルメイン大将の御子息か?」
「……父をご存知ですか? わたしは三男で末っ子になります」
「ほうほう……お父上とは、いくつも国を跨いだ仲だ。そうか、お元気かね?」
「ええ、お陰様で」
そうか、それはよかった。と、大きく頷いて立ち上がった。
「急ぎの用があるなら引き止めはしないが、医者としては……しばしの療養を薦めるね、脚を軽く捻っているようだし腹部を少し打撲したようだ。それに長い戦のせいだろうね。体調に支障があるのでは?」
「でも、いつまでもお世話になるわけにはいきません、街までの馬車など呼んで頂ければすぐにでもお暇するべきかと」
「いやいや、かまわんよ、大したもてなしもできんが、養生していってくれたまえ。トルメイン大将には借りもあるしねえ。心配なら、私はこれから街に行くんだトルメイン大将にお会いしてこようじゃないか。我が家に身を寄せていると分かればご家族も安心であろう」
「何から何まで申し訳ありません」
「遠慮はいらんよ。必ず伝えよう」
そう言って笑うと、リリーに向き直った。
「リリー。明日の晩には帰るからね。留守を頼むよ。何かあったらビルにね。ジュリアスくんの食欲があれば、給仕に言って粥かオートミールを。明日の晩にはささやかな晩餐をご一緒にね。……ジュリアスくん、押しつけるようで申し訳ないが、リリーの話し相手にでもなってやっておくれ」
「お心遣い感謝します」
ドクターピーターが部屋を出ると、サムは「ボクもおじゃまみたいだね」といいながら、壁に向いて昼寝を始めた。
いつもの狸寝入りだろう、と思いながらリリーに視線を向ける。
「父が……すみません、わたくし友人もたくさんいるわけでは、ありませんし。本ばかり読んでいるので皆さん空想家なんて陰でバカにしてますのよ、まあ、言いたい方はどうぞ、と、いう感じですけれど」
ふふと自嘲気味に笑ったリリーは、俺の脚に巻かれた包帯のズレを直すように途中まで解いた。
「本を読んだり、空想をするのは悪いことではない。それをバカにするご婦人のほうが、頭の中身が気の毒な事になっておられるのだろう……気に病む必要はないな」
「頭の中身が……気の毒。ふふふ、ジュリアス様ったらステキだわ」
楽しそうに笑いながら俺を見上げた彼女の瞳にドキリとする。
オリーブ色の瞳に吸い込まれてしまうのではないかと思ったのだった。
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