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2・月と太陽
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「足、痛みますか?」
「少し……な。だが歩くのには支障はなさそうだ」
「そうですか」
俺は天気の良い空がうらめしく、窓の外を見上げるようにして言った。
「寝てばかりいても体が鈍りそうでな……部屋で剣を振る真似事をして何か物を壊さないかとヒヤヒヤしている」
サムはクスクスと笑った。
「そう、サムが壊さないかとって言ってもいいんだよ? 優しいなぁジェイは」
俺はそんなサムのセリフを聞いて、まだ子供だった頃に母が嫁入り道具として持ってきた美しい花瓶を割ってサムのせいにして酷く怒られたのを思い出した。
サムは必死になって俺を庇ってくれたけれど、両親は俺を長いこと座り心地の悪いピアノの椅子に座らせて正論を説いたのだった。
今となっては、両親が言わんとしていた事がよくわかる。
それからは、務めてサムや誰か他人のせいにはしないようにしていたが自分のなかで諦めたり悔やんだりする時は免罪符のようにサムに理由を被せたりしていたのだ。俺は最低な女々しい男だ。
「あの、ジュリアス様……よければ明日にでもお庭を散歩しませんか? 今日ゆるりとお部屋で養生なさって、明日からリハビリと言う事でいかがかしら?」
俺は少し驚いた。
リリーは俺の容姿が恐ろしくないのだろうか?
と思った。
サムに比べると貴族の子息というよりは、軍人というカテゴリーのほうがしっくりくる顔だろうし、戦を経て英雄などと言われているが、単に他の兵より体も大きく力があり、剣にたけていたというだけだろう。
要は、たくさんの人の血で汚れた体だということだ。
虫も殺したことがないような細い指をチラリと見て、小さな溜め息をこぼした。
「……俺は構わんが、散歩の相手としては役不足かもしれないな」
「なぜです?」
「……俺は、愉快な話や気の利いた冗談のひとつも言えぬからな、ご婦人のお相手できるかどうか」
リリーはクスクスと笑った。
「ジュリアス様ったら、何を気になさってるの? わたくし、愉快なお話などが聞きたいわけではありませんわ。……明日、お体の調子が良ければ是非ご一緒してくださいませね」
「ああ……わかった」
「でわ……後程、お食事と清拭に参りますわね」
「せいしき?」
「お体を拭かせて頂きます。傷の手当ても含めて」
彼女がそう言って部屋を出て行くとサムはやっと呼吸を思い出したと、言わんばかりに笑い出した。
あまりに大笑いをするので俺は少しムッとしてサムを見た。
「なんだよ、何だよ! ジェイったら顔がだらしないぞ! 暗黒の騎兵隊、魔王のジュリアスの名が泣くぞ」
「変な通り名はよしてくれ、それに……もう演習と王の護衛なんかの仕事が主たるで、戦はもうせぬのだ。あの重たい甲冑などつけなくてよいのだぞ、暗黒と魔王ともおさらばだ」
サムはふーんと背伸びをしながら言った。
「そうか、そうだよね。平和はいい事なんだろうけどさ、つまんないなぁ、ボク、戦場のピーンとした空気とかビリビリする人の気みたいなもの結構好きだったんだけどな」
「サムは悪趣味だな」
「やだなぁ、耽美主義なのさ。デカダンスって言ってくれてもいいけどさ、それだと堕落した感じがするから、やっぱり耽美主義ってことさ」
「耽美ねぇ……そりゃ高尚な趣味だな、戦がなくなって残念だったな」
俺が少しあきれ気味に言ったのを面白がっているようだった。
「じゃあこれからは、軍服生活か……まぁ甲冑は確かに重いもんな。ボクはあんな重たい上に綺麗じゃない物ゴメンだから、まだ軍服のほうがいいよ……そうだ! ねえ、ジェイ」
「なんだよ、急に大きな声を出して」
「戦に行かないなら、昔みたいに髪を長くしてボクとお揃いにしなよ」
サラリとかきあげた美しい金髪に日の光が絡んで何ともいえない妖しさを吐き出す。
一瞬見とれそうになって、はっとすると答えた。
「少し……な。だが歩くのには支障はなさそうだ」
「そうですか」
俺は天気の良い空がうらめしく、窓の外を見上げるようにして言った。
「寝てばかりいても体が鈍りそうでな……部屋で剣を振る真似事をして何か物を壊さないかとヒヤヒヤしている」
サムはクスクスと笑った。
「そう、サムが壊さないかとって言ってもいいんだよ? 優しいなぁジェイは」
俺はそんなサムのセリフを聞いて、まだ子供だった頃に母が嫁入り道具として持ってきた美しい花瓶を割ってサムのせいにして酷く怒られたのを思い出した。
サムは必死になって俺を庇ってくれたけれど、両親は俺を長いこと座り心地の悪いピアノの椅子に座らせて正論を説いたのだった。
今となっては、両親が言わんとしていた事がよくわかる。
それからは、務めてサムや誰か他人のせいにはしないようにしていたが自分のなかで諦めたり悔やんだりする時は免罪符のようにサムに理由を被せたりしていたのだ。俺は最低な女々しい男だ。
「あの、ジュリアス様……よければ明日にでもお庭を散歩しませんか? 今日ゆるりとお部屋で養生なさって、明日からリハビリと言う事でいかがかしら?」
俺は少し驚いた。
リリーは俺の容姿が恐ろしくないのだろうか?
と思った。
サムに比べると貴族の子息というよりは、軍人というカテゴリーのほうがしっくりくる顔だろうし、戦を経て英雄などと言われているが、単に他の兵より体も大きく力があり、剣にたけていたというだけだろう。
要は、たくさんの人の血で汚れた体だということだ。
虫も殺したことがないような細い指をチラリと見て、小さな溜め息をこぼした。
「……俺は構わんが、散歩の相手としては役不足かもしれないな」
「なぜです?」
「……俺は、愉快な話や気の利いた冗談のひとつも言えぬからな、ご婦人のお相手できるかどうか」
リリーはクスクスと笑った。
「ジュリアス様ったら、何を気になさってるの? わたくし、愉快なお話などが聞きたいわけではありませんわ。……明日、お体の調子が良ければ是非ご一緒してくださいませね」
「ああ……わかった」
「でわ……後程、お食事と清拭に参りますわね」
「せいしき?」
「お体を拭かせて頂きます。傷の手当ても含めて」
彼女がそう言って部屋を出て行くとサムはやっと呼吸を思い出したと、言わんばかりに笑い出した。
あまりに大笑いをするので俺は少しムッとしてサムを見た。
「なんだよ、何だよ! ジェイったら顔がだらしないぞ! 暗黒の騎兵隊、魔王のジュリアスの名が泣くぞ」
「変な通り名はよしてくれ、それに……もう演習と王の護衛なんかの仕事が主たるで、戦はもうせぬのだ。あの重たい甲冑などつけなくてよいのだぞ、暗黒と魔王ともおさらばだ」
サムはふーんと背伸びをしながら言った。
「そうか、そうだよね。平和はいい事なんだろうけどさ、つまんないなぁ、ボク、戦場のピーンとした空気とかビリビリする人の気みたいなもの結構好きだったんだけどな」
「サムは悪趣味だな」
「やだなぁ、耽美主義なのさ。デカダンスって言ってくれてもいいけどさ、それだと堕落した感じがするから、やっぱり耽美主義ってことさ」
「耽美ねぇ……そりゃ高尚な趣味だな、戦がなくなって残念だったな」
俺が少しあきれ気味に言ったのを面白がっているようだった。
「じゃあこれからは、軍服生活か……まぁ甲冑は確かに重いもんな。ボクはあんな重たい上に綺麗じゃない物ゴメンだから、まだ軍服のほうがいいよ……そうだ! ねえ、ジェイ」
「なんだよ、急に大きな声を出して」
「戦に行かないなら、昔みたいに髪を長くしてボクとお揃いにしなよ」
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一瞬見とれそうになって、はっとすると答えた。
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