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3・夜と昼
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しおりを挟む無邪気すぎるサムに疲れや憤りを感じることがないわけではない。
昔はこんな風には思わなかった。
サムがやることなすこと全てが新鮮で斬新で、その挙動に感動すらしていたのだ。
でもいつからだろうか、こんな風に溜息をつくことが多くなり、突拍子もない言動を見て見ぬ聞いて聞かぬフリをするようになったのは……イヤなのはサムではなくて、そんな自分が一番イヤだった。と、いうのが正解かもしれなかった。
雪隠から出て洗面台で顔を洗うと鏡の中に少し疲れたような顔をした自分が映りこむ。
ゲスト用にセットされたらしいアメニティの中から剃刀を取り出して少しだけ伸びた髭を剃り寝癖であちらこちらに向いた髪を石鹸で洗って柔らかなタオルで拭きながら部屋に戻るとベッドの横にきちんと洗濯され畳んである服に着替えた。
そんな俺を見ながら、まだベッドの中にいるサムは起きあがって悲しげにいった。
「……ごめん、ジェイ。怒ってる?」
「……別に」
「怒ってるじゃないか!」
「怒ってない」
「ごめん、ボク」
「サム、わかったから、オマエも服を着てくれ」
サムは俺を見上げるとしぶしぶといった様子で立ち上がった。
昼の光にサムの白い肌が浮かんだ。背中まで伸びた金色の髪をかきあげる。
俺が彫刻のような身体なら、サムは胸のないビーナスと言うところだろうか、白い肌と細い腰が本当に女のようだ。
俺の視線に気がつくと「ボクを触る?」と言いながら笑って見せた。
「ふざけるな、リリーがすぐに昼飯を持ってくるぞ」
その時ドアが軽快にノックされる。
俺がはっとして返事をすると、サムはパーテーションの向こう側に隠れた。
「お食事をお持ちしました」
機械的な声の給仕係とメイドが入ってきてテラスに続く大きな窓を開け放つ。
さわっと、いい風が部屋に抜けた。
メイドは俺をチラリと見てカフェテーブルと椅子をテラスに出すと、今度は上から下まで値踏みでもするように見た。そして、何故かほんのりと頬を染めて顔を反らすと給仕係と黙々と食事をセットした。
「まあ、もう準備できたの? ありがとう。素敵ね」
そういいながら部屋に入ってきたリリーが微笑む。
テーブルにつくと、温かいお茶がカップに注がれた。
「用があったら呼ぶわ、下がって休んでいて」
「そんな、申し訳ありませんわ」
「いいのよ、わたくし。ゆっくりお話したいから」
「……かしこまりました」
メイドと給仕係は深々と頭を下げて部屋を出て行った。
「本当にいい天気だな」
「ええ、このサンドイッチをもって丘にでも行ったらもっと素敵でしょうけれどね」
「……ピクニックってやつか」
「そう! ピクニック! 母が生きておりました頃はよく行ったのですが」
「母君は、居られぬのか」
「ええ、一昨年。兄が結婚してすぐに……今は兄の子供も産まれて賑やかになりましたが、暫くはとても寂しくなりましたの。母はとても賑やかな人でしたから」
「そうか」
「お日様みたいに笑う素敵な母でした」
いつの間にか横にいたサムは腕組みをしながら「ほら、ここで君もステキだよとか言うんだよ」と呟いた。
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