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4・悪徳と美徳
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「……サム、すごいぞ」
俺が礼拝堂に一歩入ってステンドグラスで作られた窓を見まわすと、サムは渋々といった様子でドアから顔だけを出して覗き込んだ。
「へえ、田舎の教会にしては立派だな、悪くないよ」
俺はとても清々しい気分になって、年季の入った木製の椅子に腰掛けると祈った。
「なあ、サム。リリー殿は、何かあったのだろうか」
「さあね、聞いてみたらいいじゃないか」
「……だが、人には誰しも聞かれたくない事や話したくない事もあるだろう」
「ふうん。そうかな。ボクはないけどね」
「オマエはそうかもな……俺だってあるさ」
サムは驚いた顔をして見せた。
「……ボクにも言えない事なの? 聞かれたくな事?」
「……どうかな」
俺が曖昧に笑うとサムは舌をぺろっと出して、ドアの向こう側からステンドグラスをのぞき込んだ。
「どうかしてるよジェイ……だから教会は嫌いなんだよ」
サムは昔から教会のイベントもミサも好まない。
お祭りは好きで付いて来るものの、散々文句を言っている。
結果的にはサムが一番楽しんでいるのだけど、どうもこの厳粛な雰囲気に耐えられないらしい。
「……ジュリアス様? こちらでしたのね」
「すまない……あまりに美しいステンドグラスで、思わず」
「ふふ、そうでしょう? 街の大聖堂のステンドグラスに負けないくらい素敵だと思ってましてよ?」
リリーは胸をはってみせた。
「ああ、負けないな」
俺がそう言うと、リリーはドアの方を指さしながら言った。
「子供たちも、今は丘に行ってるみたいなので向こうで作業を致しましょう」
「子供たち?」
「ええ……先ごろの戦や内乱で家族をなくした子供たちが、ここの離れで共同生活をしておりますの、シスターが3人おりますが、とても大変そうで、わたくしもお給仕やお掃除に時々参っております」
「……なるほど」
「戦は嫌いでございます……ここの子供達のように罪のない者が悲しみを背負って生きていかねばならないのですから……ようやく終わってくれて安心しましたわ」
「そうだな……もっと早く終結させることも可能だったろうに……無駄に長くなってしまって、本当に申し訳なかった」
サムは俺の後ろで不服そうに呟いた。「ジェイが悪いんじゃないのに、謝ることないよ」
リリーは俺の顔を見て色気のない軍服用のシャツを見た。
「ごめんなさい、わたしったら。ジュリアス様は、軍でお仕事をなされてますのよね……それなのに……ジュリアス様は謝らないでくださいな」
リリーの言葉にサムは「当り前だよ、ジェイは悪くないんだから」と呟く。
通された質素な造りの部屋で、シンプルなダイニングセットのあまり座り心地の良くない椅子に座ると空の卵を手に取った。
暖炉の上の良く磨かれた銀の燭台が窓からの陽を受けてキラキラと輝いている。
「戦が好き……というか、戦場の空気が好きだと言うヤツがいるが……俺にもそれは理解できん。俺は、そいつのように強くない臆病者なんだ。いつも震えていたよ」
サムがにやりと笑ってこっちを見た。
「戦が恐ろしくない方などいないのではないでしょうか」
「たまにいるんですよ……そういう精神的に強靭なヤツが」
「まあ」
リリーは驚いたように目を丸くして手を止めた。俺はたまごの中にキャンディを詰めて色紙で蓋をしながら少しだけ微笑んで見せた。
俺が礼拝堂に一歩入ってステンドグラスで作られた窓を見まわすと、サムは渋々といった様子でドアから顔だけを出して覗き込んだ。
「へえ、田舎の教会にしては立派だな、悪くないよ」
俺はとても清々しい気分になって、年季の入った木製の椅子に腰掛けると祈った。
「なあ、サム。リリー殿は、何かあったのだろうか」
「さあね、聞いてみたらいいじゃないか」
「……だが、人には誰しも聞かれたくない事や話したくない事もあるだろう」
「ふうん。そうかな。ボクはないけどね」
「オマエはそうかもな……俺だってあるさ」
サムは驚いた顔をして見せた。
「……ボクにも言えない事なの? 聞かれたくな事?」
「……どうかな」
俺が曖昧に笑うとサムは舌をぺろっと出して、ドアの向こう側からステンドグラスをのぞき込んだ。
「どうかしてるよジェイ……だから教会は嫌いなんだよ」
サムは昔から教会のイベントもミサも好まない。
お祭りは好きで付いて来るものの、散々文句を言っている。
結果的にはサムが一番楽しんでいるのだけど、どうもこの厳粛な雰囲気に耐えられないらしい。
「……ジュリアス様? こちらでしたのね」
「すまない……あまりに美しいステンドグラスで、思わず」
「ふふ、そうでしょう? 街の大聖堂のステンドグラスに負けないくらい素敵だと思ってましてよ?」
リリーは胸をはってみせた。
「ああ、負けないな」
俺がそう言うと、リリーはドアの方を指さしながら言った。
「子供たちも、今は丘に行ってるみたいなので向こうで作業を致しましょう」
「子供たち?」
「ええ……先ごろの戦や内乱で家族をなくした子供たちが、ここの離れで共同生活をしておりますの、シスターが3人おりますが、とても大変そうで、わたくしもお給仕やお掃除に時々参っております」
「……なるほど」
「戦は嫌いでございます……ここの子供達のように罪のない者が悲しみを背負って生きていかねばならないのですから……ようやく終わってくれて安心しましたわ」
「そうだな……もっと早く終結させることも可能だったろうに……無駄に長くなってしまって、本当に申し訳なかった」
サムは俺の後ろで不服そうに呟いた。「ジェイが悪いんじゃないのに、謝ることないよ」
リリーは俺の顔を見て色気のない軍服用のシャツを見た。
「ごめんなさい、わたしったら。ジュリアス様は、軍でお仕事をなされてますのよね……それなのに……ジュリアス様は謝らないでくださいな」
リリーの言葉にサムは「当り前だよ、ジェイは悪くないんだから」と呟く。
通された質素な造りの部屋で、シンプルなダイニングセットのあまり座り心地の良くない椅子に座ると空の卵を手に取った。
暖炉の上の良く磨かれた銀の燭台が窓からの陽を受けてキラキラと輝いている。
「戦が好き……というか、戦場の空気が好きだと言うヤツがいるが……俺にもそれは理解できん。俺は、そいつのように強くない臆病者なんだ。いつも震えていたよ」
サムがにやりと笑ってこっちを見た。
「戦が恐ろしくない方などいないのではないでしょうか」
「たまにいるんですよ……そういう精神的に強靭なヤツが」
「まあ」
リリーは驚いたように目を丸くして手を止めた。俺はたまごの中にキャンディを詰めて色紙で蓋をしながら少しだけ微笑んで見せた。
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