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〈お揃いの誕生日プレゼント〉後編
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「源次の方は、どないやねん?」
「うちは相変わらず母さんと上手くいってなくて……甲種合格を知らせた時は、ご近所さんの前でやけに喜んでたけど、家に入ると余り話してくれないんだよね」
「そりゃ大事な息子が戦争に行くことになって落ち込んどるんやないか?」
「まさか~あと母さんからおかしな誕生日祝いを貰ってさ……千人針と一緒に鏡を渡されたんだ」
千人針は出征する者の武運を祈って近所の人などに一人一針ずつ赤い糸で縫って貰った布で……
玉留めは「弾を止める」、返し縫いは「無事に帰る」の意味がそれぞれ込められていて、赤い糸は神社の鳥居の色に由来するという。
「なんやそれ~女の子に渡すなら分かるけどな」
「母さんは純奈の事が大好きだったから、男の僕の事は嫌いなのかも、だから……」
「普段はどんな母ちゃんなんや?」
「厳しい人かな……純奈が死んだのは自分が甘やかして育てたせいだって言ってた。着物を仕立てた帰りに立ち寄った本屋から一度は一緒に出たのに、『嫌だ、まだ本屋にいたい』と一人だけお店に戻ってしまった時に地震があって店が潰れたから……」
「そうやったんか……」
「それからは僕に厳しくなって怒ってばかりだった……僕は純奈と違って歌も下手だし器用じゃないから嫌われるのも仕方ないけど」
「同じ事を繰り返したくないっちゅう親心やと思うで? ほんで顔は源次に似とるんか?」
「えーと、これ出征前に一緒に撮った写真なんだけど……」
写真を差し出すと、ヒロに盛大に笑われた。
「源次お前、母ちゃんそっくりやな~こりゃー鏡を見る度に母を思い出してくれっちゅうことやないか?」
「そんなことないよ! 見送る時も『バンザイ』って言ってたし、僕がいなくなるのを喜んでるんじゃないかな」
「子供が死んで喜ぶ親はおらんやろ」
「ほんと兵役法で大学生は最初の頃27歳まで徴集を猶予されていたのに、どんどん引き下げられて……まさか学徒出陣が僕達からとは運が悪いよね」
「なあ源次……こんなこと言うたら非国民扱いやけど……俺は国のために戦うんやない! 家族を守りたいから戦うんだ!」
徴兵検査が落ち着いた頃……
播磨屋の2階に呼ばれた僕とヒロは、純子ちゃんに驚くことを言われた。
「渡したいものがあるんだけど、目を閉じて手を出してくれない?」
ヒロと共に純子ちゃんの指示に従うと、手の上に柔らかい布のようなものが乗った感覚がして……思わず握り締め感触を確かめた。
「はい、目を開けて~二人とも誕生日おめでとう! これお揃いのお守りだから必ず持っててね」
そっと手を開いてみると……
柔らかい感触の正体は、白くて可愛らしいウサギの人形だった。
「前に一緒に行った神田明神の守り神がウサギだから、浴衣の生地で作ったの」
「あのスミレの浴衣、切っちゃったの?」
「もう着ないだろうし、光ちゃんと源次さんで二人お揃いのウサギにしたかったから……」
僕は思いがけない心の籠もった誕生日プレゼントを貰い本当に嬉しかったが……
似合っていた浴衣を着ることを女の子に諦めさせるという今の日本の情勢に憤りを感じた。
「ありがとう!」「おおきにな!」
「必ず肌身離さず持っていてね! あとね、お願いがあるの……三人で一緒に写真を撮りましょう!」
僕達は出征前に写真館で写真を撮った。
1枚は宮本家の四人水入らずで、もう1枚は純子ちゃんを真ん中にして僕が左でヒロが右側に立って……
浩くんが一緒に写ると駄々をこねたり僕が遠慮したりと撮るまでが大変だったが、純子ちゃんに強引に並ばされて緊張しながらの撮影だった。
純子ちゃんが作ってくれたウサギのお守りと三人で写った白黒写真は僕の宝物になり、出征先に持参する荷物の中に大切にしまった。
これがあれば、どんなつらい状況でも乗り越えていける気がした。
絶対、大丈夫な気がしたんだ……
「うちは相変わらず母さんと上手くいってなくて……甲種合格を知らせた時は、ご近所さんの前でやけに喜んでたけど、家に入ると余り話してくれないんだよね」
「そりゃ大事な息子が戦争に行くことになって落ち込んどるんやないか?」
「まさか~あと母さんからおかしな誕生日祝いを貰ってさ……千人針と一緒に鏡を渡されたんだ」
千人針は出征する者の武運を祈って近所の人などに一人一針ずつ赤い糸で縫って貰った布で……
玉留めは「弾を止める」、返し縫いは「無事に帰る」の意味がそれぞれ込められていて、赤い糸は神社の鳥居の色に由来するという。
「なんやそれ~女の子に渡すなら分かるけどな」
「母さんは純奈の事が大好きだったから、男の僕の事は嫌いなのかも、だから……」
「普段はどんな母ちゃんなんや?」
「厳しい人かな……純奈が死んだのは自分が甘やかして育てたせいだって言ってた。着物を仕立てた帰りに立ち寄った本屋から一度は一緒に出たのに、『嫌だ、まだ本屋にいたい』と一人だけお店に戻ってしまった時に地震があって店が潰れたから……」
「そうやったんか……」
「それからは僕に厳しくなって怒ってばかりだった……僕は純奈と違って歌も下手だし器用じゃないから嫌われるのも仕方ないけど」
「同じ事を繰り返したくないっちゅう親心やと思うで? ほんで顔は源次に似とるんか?」
「えーと、これ出征前に一緒に撮った写真なんだけど……」
写真を差し出すと、ヒロに盛大に笑われた。
「源次お前、母ちゃんそっくりやな~こりゃー鏡を見る度に母を思い出してくれっちゅうことやないか?」
「そんなことないよ! 見送る時も『バンザイ』って言ってたし、僕がいなくなるのを喜んでるんじゃないかな」
「子供が死んで喜ぶ親はおらんやろ」
「ほんと兵役法で大学生は最初の頃27歳まで徴集を猶予されていたのに、どんどん引き下げられて……まさか学徒出陣が僕達からとは運が悪いよね」
「なあ源次……こんなこと言うたら非国民扱いやけど……俺は国のために戦うんやない! 家族を守りたいから戦うんだ!」
徴兵検査が落ち着いた頃……
播磨屋の2階に呼ばれた僕とヒロは、純子ちゃんに驚くことを言われた。
「渡したいものがあるんだけど、目を閉じて手を出してくれない?」
ヒロと共に純子ちゃんの指示に従うと、手の上に柔らかい布のようなものが乗った感覚がして……思わず握り締め感触を確かめた。
「はい、目を開けて~二人とも誕生日おめでとう! これお揃いのお守りだから必ず持っててね」
そっと手を開いてみると……
柔らかい感触の正体は、白くて可愛らしいウサギの人形だった。
「前に一緒に行った神田明神の守り神がウサギだから、浴衣の生地で作ったの」
「あのスミレの浴衣、切っちゃったの?」
「もう着ないだろうし、光ちゃんと源次さんで二人お揃いのウサギにしたかったから……」
僕は思いがけない心の籠もった誕生日プレゼントを貰い本当に嬉しかったが……
似合っていた浴衣を着ることを女の子に諦めさせるという今の日本の情勢に憤りを感じた。
「ありがとう!」「おおきにな!」
「必ず肌身離さず持っていてね! あとね、お願いがあるの……三人で一緒に写真を撮りましょう!」
僕達は出征前に写真館で写真を撮った。
1枚は宮本家の四人水入らずで、もう1枚は純子ちゃんを真ん中にして僕が左でヒロが右側に立って……
浩くんが一緒に写ると駄々をこねたり僕が遠慮したりと撮るまでが大変だったが、純子ちゃんに強引に並ばされて緊張しながらの撮影だった。
純子ちゃんが作ってくれたウサギのお守りと三人で写った白黒写真は僕の宝物になり、出征先に持参する荷物の中に大切にしまった。
これがあれば、どんなつらい状況でも乗り越えていける気がした。
絶対、大丈夫な気がしたんだ……
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