【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈未来の希望〉後編

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「やあ! 源さん、久し振りだね」

「お久し振りです先生! 今日は紹介したい人がいるので連れてきました! こちら『宮本純子』さん! とっても歌が上手いんです」

「純子ちゃん、こちら清水かづら先生……浩くんの先生もしていた作詞家さんだよ」

「まあ、あの学園の先生だった方でしたか……その節は、浩が大変お世話になりました」

「あの子は元気かい?」

「浩は………………この近くの空襲の時に亡くなりました」

「そうか…………とても残念だよ……歌が大好きな子だったのに…………だったら今日の事は君たちには酷な事かもしれないから、また別の機会に来……」

「シミズセンセ~コニチワ~トテモアイタカタデ~ス」

「この人は?」

「アメリカの進駐軍の将校さんでね。会いたいと言われたんだが英語が分からないから、大学で勉強している君に通訳してもらおうと思って呼んだんだ、でも……」

「ミナサンモ~コニチワ~」

「どうしよう僕、英語そんな得意じゃない……」
 
「ダイジョブです! 私、日本語、少しできます。ミスター・シミズに、会えて、光栄で~す! あなたの~名前は~アメリカ、で、は、みんな知ってま~す」

「すごいね先生! 海外でも知られてるなんて……」

「いや~恐縮です」

「今日は~私の~息子スミスも、一緒に来ました~センセの~『靴がなる』、ダイスキな子です」

 すると車の影から……丁度、浩くんと同い年くらいの男の子が駆け寄ってきた。

「ボクも、日本語、できるヨ~? おネイチャン、歌、ウマイってキイタよ? 歌っテ?」

「ごめんなさい……私、弟を空襲で亡くしてから歌うのをやめたんです」

 すると、その将校さんは青い目からボロボロ涙を流した。

「ヤメナイデクダサイ……ヤメナイデ?……」

 その時だった……

「鬼畜米兵! アメリカへ帰れ!」

 中年の男がその人に向かって石を投げ、後ろにいた子供に当たりそうになった。

「危ない!!」

 咄嗟に身体を投げ出しスミスくんという、その子を庇ったのは……
 純子ちゃんだった。

「タイヘンです! 血が……」

 純子ちゃんの左目の上に石が当たり、眉尻からは血が流れていた。
 もう少しずれていたら失明していたかもしれない……
 「オーマイガー」と泣き出してしまったその子に浩くんの姿が重なったのか……

 純子ちゃんは久し振りに歌を歌った。
 まるで子守唄を歌うように、その子が大好きだという『靴が鳴る』を……

~~~~~~~~~~

お手つないで 野道をけば
みんな可愛い 小鳥になって
歌をうたえば 靴が鳴る
晴れたみ空に 靴が鳴る

花をつんでは おつむにさせば
みんな可愛い うさぎになって
はねて踊れば 靴が鳴る
晴れたみ空に 靴が鳴る

~~~~~~~~~~

 純子ちゃんの天使のような歌を聞いた将校さんは、盛大な拍手を送り……
 スミスくんは、すっかり泣き止んでニコニコしていた。

「アリガト……クツガナル……ボクノダイスキナウタ……ウタテクレテ……ウレシカタ……トテモジョウズ? ダネ~」

「ホントに~とても~素晴らしかたで~ス! 私の~息子ヲ……助けてイタダイテ……ホントに……本当に……アリガト……ゴザイマス」

 将校さんはスミスくんを抱き締めながら涙を流していて……
 ほんの先日まで敵同士だった国の人と心が繋がった気がして、僕は思わずもらい泣きしてしまった。

 「音楽は国境を超える」、「音楽なら世界中の人の心が繋がれる」……
 その奇跡の一部を僕は見た気がした。

 将校さん達を見送った後、僕はずっと気になっていた事を先生に聞いた。

「そういえば先生、この歌を作曲したのは何ていう人なの?」

「弘田光太郎さんていう高知の人だよ」

 先生は道に枝で名前の漢字を書いて教えてくれたが……

「高知?……弘……光……?」

 これはヒロが起こした奇跡だと思った。
 この世界は広いけれど、場所や名前、誕生日……他にも色々、沢山の不思議な奇跡で繋がっている気がした。

 純子ちゃんは左目が腫れて前が見えなくなってしまったので……
 家までの道、僕がずっとおんぶした。
 初めて背負った純子ちゃんは風船みたいに軽くて……
 こんなに細い身体で沢山の悲しみを背負ってきたのかと思うと、涙が出そうになった。

「歌……歌えたね……」

「…………うん」

「あの子、喜んでたね……」

「……うん」

「相変わらずキレイな歌声だったよ?」

「…………ありがと」

 背中から震えが伝わってきて……
 この人を一生、守っていこうと思った。

「しかし左目とは……この間の僕と、お揃いじゃないか」

「ほんとね……私、久し振りに歌えた。久し振りだから、初めは声が出なかったけど…………歌って……やっぱり音楽って、素晴らしいって思った」

「それでね私、気付いたの……私、子供達に歌を教えたい! 『音楽は音を楽しむもの』ってことや『音楽がある世界に住んでいるっていうのは、とても幸せなことなんだ』って伝えられる先生になりたい!」

「いいね、それ! じゃあ僕は、歴史の先生になるよ! 教科書に載っていることだけじゃない……その先にあった沢山の命を伝える歴史の先生に……そしていつか必ず本を出す! ヒロが伝えたかった沢山の思いを届けるために……」

「素敵な夢……」

「もう最後の文は決まってるんだ……ヒロと一緒に描いた『未来を生きる君へ』の最後の言葉……」


〈未来を生きる君たちへ〉

生きてください

どんなことがあっても

生きようと思ってください

自分を信じて

他人ひとを信じて

その先にある未来を信じて
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