フェリシアン・シンドローム

九條 連

文字の大きさ
30 / 192
第3章

第2話(11)

しおりを挟む
「もっとずっと、キャリアが長い人なのかと思いました。結構重要なポストについてそうな感じでしたし」
「だよねえ。実際、あっという間に主任クラスまで登りつめたからね。それ以前どこにいたのかは知らないけど、かなり話題になったよね。っていうか、現在進行形で話題の人物。とにかく有能だし隙がないってんで。そのうえいまは、天城顧問のお気に入り」
 含みを持たせた調子で言ってから、

「あ、べつにだからどうこうとは俺は思ってないよ?」
 坂巻はすかさず弁明をした。

「天城顧問も優秀だから目をかけてるんだろうし、噂はやたら耳にしてたけど、実際本人と対面してみると、なるほどと頷ける部分が多かったなって実感してるところ。いや、あれはたしかに相当切れるわ。っていうか、切れすぎて俺、スゲエ怖いんだけど」
 主任、しっかりしてくださいよと直属の部下たちからひやかしの声が投げられた。

「いやいや、あれは無理でしょ。全然懐柔できる気がしない。取りつく島がないうえに部署の飲み会とか、仕事外の付き合いはいっさいしないって話だし。俺、この先彼とうまくやってける自信ねぇわ」
「それ、ダメなヤツじゃないですか。ってか、懐柔はしなくていいんじゃないですか? 仕事面でうまく付き合っていけば」
 苦笑交じりに群司が言うと、坂巻は拗ねたように口唇くちびるを尖らせた。

「だぁってさあ、一緒に飲み行って、気心知れたほうが絶対仕事しやすくなるじゃん? まあ、実際に飲みに行かなくても、もうちょっと気安くやりとりできると助かるんだけどなぁ。今日のあの感じがこの先もずっとつづくとか、いまから想像しただけで胃が重くなるんですけどぉ」
 ぼやきつづける坂巻を他のメンバーとともに慰めつつ、群司も片付けに加わった。


 ここしばらくかかりっきりになっていた案件を無事乗りきり、ようやく肩の荷が下りたのか、坂巻の愚痴は止まらない。坂巻班のメンバーも、心なしかホッとした様子で苦笑いしながら坂巻に付き合っていた。

『わたしがいまのこの身体を手に入れられたのは、すべて新薬がいい方向に作用してくれたおかげなの――』

 いましがたの天城瑠唯との会話が群司の脳裡に甦る。

『なんだ、ルイか。めずらしいな、こんな時間に。どうした?』

 最後に兄と飲んだ夜、別れぎわに偶然耳にした電話口の会話。
 その口調と表情から、電話の相手が兄にとって、特別な意味合いを持つことは充分察せられた。正直、結婚相手なのではないかとさえ思っていた。だが実際は、兄の死後にそれらしい女性の存在が浮上することはなかった。
 その相手が、付き合っていた恋人だったのかどうかはさだかではない。だが兄があの晩、口にした名前は、のことだったのではあるまいか。

『瑠唯さん』

 その彼女に目をかけられている男が、食堂ではじめて自分を目にしたときに見せた反応がひどく気になる。
 会議での様子。社内での評判。その外観が他者に与える地味で目立たない印象と、群司がほんの一瞬垣間見た素顔とのギャップ。そして、天城瑠唯の存在――
 そこに、なんらかの綻びが潜んでいる気がした。

 もどかしい毎日の中で、少しずつ、だが着実に真相に近づきつつあるのではないか。
 片付けを終えた坂巻班のメンバーとともに会議室をあとにしながら、群司はひそかに、自分がなんらかの核心に近づきつつある手応えを感じていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

ブライダル・ラプソディー

葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。 しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが── エブリスタにも投稿しています。

我が為に生きるもの【BL】

いんげん
BL
大正ごろの日本に似た和国の話。 能力者の痣から蜜を吸わないと生きていけない僕は、幼馴染から蜜をもらって生きている。 しかし、兄のように慕っている人が海外から帰ってきて…僕たちの関係は変わりはじめ……。 守られ系、病弱主人公。可愛いが正義。  作品の都合上、主に喘いでるのは攻めです。絶頂してるのも攻めです。 無口で横暴だけど、誰よりも主人公に執着する能力者のヒーロー。 二人の兄のような存在で、主人公を愛するヤンデレ能力者。 駄目なおじさん能力者参戦しました。 かなり好き勝手書いているので、地雷が有る人には向かないです。 何でも許せる人向けです。 予告なしに性的表現が入ります。むしろ、ほぼ性的表現・・・。

BL団地妻on vacation

夕凪
BL
BL団地妻第二弾。 団地妻の芦屋夫夫が団地を飛び出し、南の島でチョメチョメしてるお話です。 頭を空っぽにして薄目で読むぐらいがちょうどいいお話だと思います。 なんでも許せる人向けです。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

処理中です...