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第3章
第2話(11)
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「もっとずっと、キャリアが長い人なのかと思いました。結構重要なポストについてそうな感じでしたし」
「だよねえ。実際、あっという間に主任クラスまで登りつめたからね。それ以前どこにいたのかは知らないけど、かなり話題になったよね。っていうか、現在進行形で話題の人物。とにかく有能だし隙がないってんで。そのうえいまは、天城顧問のお気に入り」
含みを持たせた調子で言ってから、
「あ、べつにだからどうこうとは俺は思ってないよ?」
坂巻はすかさず弁明をした。
「天城顧問も優秀だから目をかけてるんだろうし、噂はやたら耳にしてたけど、実際本人と対面してみると、なるほどと頷ける部分が多かったなって実感してるところ。いや、あれはたしかに相当切れるわ。っていうか、切れすぎて俺、スゲエ怖いんだけど」
主任、しっかりしてくださいよと直属の部下たちからひやかしの声が投げられた。
「いやいや、あれは無理でしょ。全然懐柔できる気がしない。取りつく島がないうえに部署の飲み会とか、仕事外の付き合いはいっさいしないって話だし。俺、この先彼とうまくやってける自信ねぇわ」
「それ、ダメなヤツじゃないですか。ってか、懐柔はしなくていいんじゃないですか? 仕事面でうまく付き合っていけば」
苦笑交じりに群司が言うと、坂巻は拗ねたように口唇を尖らせた。
「だぁってさあ、一緒に飲み行って、気心知れたほうが絶対仕事しやすくなるじゃん? まあ、実際に飲みに行かなくても、もうちょっと気安くやりとりできると助かるんだけどなぁ。今日のあの感じがこの先もずっとつづくとか、いまから想像しただけで胃が重くなるんですけどぉ」
ぼやきつづける坂巻を他のメンバーとともに慰めつつ、群司も片付けに加わった。
ここしばらくかかりっきりになっていた案件を無事乗りきり、ようやく肩の荷が下りたのか、坂巻の愚痴は止まらない。坂巻班のメンバーも、心なしかホッとした様子で苦笑いしながら坂巻に付き合っていた。
『わたしがいまのこの身体を手に入れられたのは、すべて新薬がいい方向に作用してくれたおかげなの――』
いましがたの天城瑠唯との会話が群司の脳裡に甦る。
『なんだ、ルイか。めずらしいな、こんな時間に。どうした?』
最後に兄と飲んだ夜、別れぎわに偶然耳にした電話口の会話。
その口調と表情から、電話の相手が兄にとって、特別な意味合いを持つことは充分察せられた。正直、結婚相手なのではないかとさえ思っていた。だが実際は、兄の死後にそれらしい女性の存在が浮上することはなかった。
その相手が、付き合っていた恋人だったのかどうかはさだかではない。だが兄があの晩、口にした名前は、彼女のことだったのではあるまいか。
『瑠唯さん』
その彼女に目をかけられている男が、食堂ではじめて自分を目にしたときに見せた反応がひどく気になる。
会議での様子。社内での評判。その外観が他者に与える地味で目立たない印象と、群司がほんの一瞬垣間見た素顔とのギャップ。そして、天城瑠唯の存在――
そこに、なんらかの綻びが潜んでいる気がした。
もどかしい毎日の中で、少しずつ、だが着実に真相に近づきつつあるのではないか。
片付けを終えた坂巻班のメンバーとともに会議室をあとにしながら、群司はひそかに、自分がなんらかの核心に近づきつつある手応えを感じていた。
「だよねえ。実際、あっという間に主任クラスまで登りつめたからね。それ以前どこにいたのかは知らないけど、かなり話題になったよね。っていうか、現在進行形で話題の人物。とにかく有能だし隙がないってんで。そのうえいまは、天城顧問のお気に入り」
含みを持たせた調子で言ってから、
「あ、べつにだからどうこうとは俺は思ってないよ?」
坂巻はすかさず弁明をした。
「天城顧問も優秀だから目をかけてるんだろうし、噂はやたら耳にしてたけど、実際本人と対面してみると、なるほどと頷ける部分が多かったなって実感してるところ。いや、あれはたしかに相当切れるわ。っていうか、切れすぎて俺、スゲエ怖いんだけど」
主任、しっかりしてくださいよと直属の部下たちからひやかしの声が投げられた。
「いやいや、あれは無理でしょ。全然懐柔できる気がしない。取りつく島がないうえに部署の飲み会とか、仕事外の付き合いはいっさいしないって話だし。俺、この先彼とうまくやってける自信ねぇわ」
「それ、ダメなヤツじゃないですか。ってか、懐柔はしなくていいんじゃないですか? 仕事面でうまく付き合っていけば」
苦笑交じりに群司が言うと、坂巻は拗ねたように口唇を尖らせた。
「だぁってさあ、一緒に飲み行って、気心知れたほうが絶対仕事しやすくなるじゃん? まあ、実際に飲みに行かなくても、もうちょっと気安くやりとりできると助かるんだけどなぁ。今日のあの感じがこの先もずっとつづくとか、いまから想像しただけで胃が重くなるんですけどぉ」
ぼやきつづける坂巻を他のメンバーとともに慰めつつ、群司も片付けに加わった。
ここしばらくかかりっきりになっていた案件を無事乗りきり、ようやく肩の荷が下りたのか、坂巻の愚痴は止まらない。坂巻班のメンバーも、心なしかホッとした様子で苦笑いしながら坂巻に付き合っていた。
『わたしがいまのこの身体を手に入れられたのは、すべて新薬がいい方向に作用してくれたおかげなの――』
いましがたの天城瑠唯との会話が群司の脳裡に甦る。
『なんだ、ルイか。めずらしいな、こんな時間に。どうした?』
最後に兄と飲んだ夜、別れぎわに偶然耳にした電話口の会話。
その口調と表情から、電話の相手が兄にとって、特別な意味合いを持つことは充分察せられた。正直、結婚相手なのではないかとさえ思っていた。だが実際は、兄の死後にそれらしい女性の存在が浮上することはなかった。
その相手が、付き合っていた恋人だったのかどうかはさだかではない。だが兄があの晩、口にした名前は、彼女のことだったのではあるまいか。
『瑠唯さん』
その彼女に目をかけられている男が、食堂ではじめて自分を目にしたときに見せた反応がひどく気になる。
会議での様子。社内での評判。その外観が他者に与える地味で目立たない印象と、群司がほんの一瞬垣間見た素顔とのギャップ。そして、天城瑠唯の存在――
そこに、なんらかの綻びが潜んでいる気がした。
もどかしい毎日の中で、少しずつ、だが着実に真相に近づきつつあるのではないか。
片付けを終えた坂巻班のメンバーとともに会議室をあとにしながら、群司はひそかに、自分がなんらかの核心に近づきつつある手応えを感じていた。
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