120 / 192
第13章
第4話(3)
しおりを挟む
「……それで、これを?」
「そんなに思い悩んでるんだったら、いいのがあるぞって持ちかけられて」
群司は思わせぶりに口の端を上げた。
「ひと包み五千円。通いはじめて八日目にひとつ入手。買ったのは常連客のひとりからですけど、おそらく店とはグルなんじゃないかな。で、その三日後にふたつめ。昨日の夜二種類ひと袋ずつでで計四つ。種類は三種類。量としては微妙ですけど、とりあえずこれだけあれば――」
「バカッ!」
突然怒鳴られて、群司は目を瞠った。
「なんでそんな危ないことっ。自分がなにしたのかわかってるのかっ!?」
「もちろんわかってますよ。けど、現物は必要でしょう?」
「俺はそんなこと頼んでないし、おまえからもなにも聞いてないっ」
「そりゃ言いませんよ。言ったら琉生さん、反対するでしょう?」
「あたりまえだ! 知ってたら絶対こんなことさせなかったっ」
「だからですよ」
群司は肩を竦めた。
「これはあくまで俺の独断でしたことです。それでなにか問題が生じたら、責任は全部俺が取りますんで」
「そんな問題じゃないっ!!」
如月はかつてないほど感情を剥き出しにして声を荒らげた。
「おまえはわかってない。なんにもわかってないっ。そんな危ない場所に出入りして、顔まで憶えられて、それがどんなことになるのかっ。もしこんなものを持ち歩いてるさなかに職質かけられて所持品検査でもされてみろ。問答無用で罪に問われるんだぞ!? おまえの人生、メチャクチャじゃないかっ。それ以前に双龍会の連中に目をつけられてたら……っ」
「琉生さん、琉生さん落ち着いて。ごめん、勝手なことして。でも俺――いてっ」
なだめようとした群司の胸を、如月は力任せに拳で叩いた。
「ちょっ、琉生さん、頼むから落ち着いて。俺の話、もう少しだけ聞いて? 俺、考えなしに無謀な真似したわけじゃなくて――」
「うるさい、バカ!」
興奮した如月は、何度も群司の胸を叩きつづけた。
「おまえになんかあったら優悟さんに顔向けできないじゃないかっ。親御さんにもなんて言えばいいんだよっ。おまえになんかあったら、俺は――俺は……っ」
その瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。ハッとした如月は、耐えかねたように立ち上がると隣の寝室に駆けこんだ。
「琉生さん!」
群司の呼びかけも虚しく、勢いよく扉が閉ざされる。群司は茫然と扉を見つめた。
こんなふうに心配をかけ、不安にさせて泣かせるつもりはなかったのだが、結果として最悪のタイミングで悪手を打ったことになる。
いったいなにをやっているのかと情けなくなった。
深々と息をついた群司は、乱暴に頭を掻くと意を決したように立ち上がった。
「琉生さん、ごめん。謝るから機嫌直して?」
寝室につづくドアをノックしながら静かに声をかけるが、中から返事はない。
「ちゃんと話がしたいから、入ってもいいですか? 開けるよ?」
しばし間合いをとってから、ゆっくりとドアを開ける。如月は、奥の窓ぎわに立ってこちらに背を向けていた。
「そんなに思い悩んでるんだったら、いいのがあるぞって持ちかけられて」
群司は思わせぶりに口の端を上げた。
「ひと包み五千円。通いはじめて八日目にひとつ入手。買ったのは常連客のひとりからですけど、おそらく店とはグルなんじゃないかな。で、その三日後にふたつめ。昨日の夜二種類ひと袋ずつでで計四つ。種類は三種類。量としては微妙ですけど、とりあえずこれだけあれば――」
「バカッ!」
突然怒鳴られて、群司は目を瞠った。
「なんでそんな危ないことっ。自分がなにしたのかわかってるのかっ!?」
「もちろんわかってますよ。けど、現物は必要でしょう?」
「俺はそんなこと頼んでないし、おまえからもなにも聞いてないっ」
「そりゃ言いませんよ。言ったら琉生さん、反対するでしょう?」
「あたりまえだ! 知ってたら絶対こんなことさせなかったっ」
「だからですよ」
群司は肩を竦めた。
「これはあくまで俺の独断でしたことです。それでなにか問題が生じたら、責任は全部俺が取りますんで」
「そんな問題じゃないっ!!」
如月はかつてないほど感情を剥き出しにして声を荒らげた。
「おまえはわかってない。なんにもわかってないっ。そんな危ない場所に出入りして、顔まで憶えられて、それがどんなことになるのかっ。もしこんなものを持ち歩いてるさなかに職質かけられて所持品検査でもされてみろ。問答無用で罪に問われるんだぞ!? おまえの人生、メチャクチャじゃないかっ。それ以前に双龍会の連中に目をつけられてたら……っ」
「琉生さん、琉生さん落ち着いて。ごめん、勝手なことして。でも俺――いてっ」
なだめようとした群司の胸を、如月は力任せに拳で叩いた。
「ちょっ、琉生さん、頼むから落ち着いて。俺の話、もう少しだけ聞いて? 俺、考えなしに無謀な真似したわけじゃなくて――」
「うるさい、バカ!」
興奮した如月は、何度も群司の胸を叩きつづけた。
「おまえになんかあったら優悟さんに顔向けできないじゃないかっ。親御さんにもなんて言えばいいんだよっ。おまえになんかあったら、俺は――俺は……っ」
その瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。ハッとした如月は、耐えかねたように立ち上がると隣の寝室に駆けこんだ。
「琉生さん!」
群司の呼びかけも虚しく、勢いよく扉が閉ざされる。群司は茫然と扉を見つめた。
こんなふうに心配をかけ、不安にさせて泣かせるつもりはなかったのだが、結果として最悪のタイミングで悪手を打ったことになる。
いったいなにをやっているのかと情けなくなった。
深々と息をついた群司は、乱暴に頭を掻くと意を決したように立ち上がった。
「琉生さん、ごめん。謝るから機嫌直して?」
寝室につづくドアをノックしながら静かに声をかけるが、中から返事はない。
「ちゃんと話がしたいから、入ってもいいですか? 開けるよ?」
しばし間合いをとってから、ゆっくりとドアを開ける。如月は、奥の窓ぎわに立ってこちらに背を向けていた。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
僕と教授の秘密の遊び (終)
325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。
学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。
そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である…
婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。
卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。
そんな彼と教授とのとある午後の話。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
スイート・スパイシースイート
すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ
BL
佐藤裕一郎は経営してるカレー屋から自宅への帰り道、店の近くの薬品ラボに勤める研究オタクの竹川琢を不良から助ける。そしたら何か懐かれちまって…? ※大丈夫っ(笑)この小説はBLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる