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第15章
第2話(3)
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「我が社のプロジェクトチームによって開発されたあらたなフェリスは、その即効性の高さが売りになっております。一度の服用で、いったいどれほどの効力が認められるものなのか、皆様ご自身の目でご確認いただければと思います」
天城瑠唯は舞台袖に下がっていき、かわりに上手と下手、両サイドから三人の男たちが登場する。ひとりは屈強な、いかにもリングに上がるのに相応しい格闘家といった風情の男だった。そしてその反対側から現れたふたり組のうち、ひとりは黒いスーツ姿のスタッフと思しき男で、その男に抱えられるようにふらふらと登場したのは、貧相な体躯の――群司はそこで愕然とした。
スタッフの男に連れてこられたのは、渋谷の繁華街で姿を見失った藤川だった。
いったいなにが行われようとしているのか。
なんの情報を得ていなくとも、これから起こることがまっとうでないことは群司にもわかる。そしてその予想は、見事に的中した。
格闘家ふうの男がリングに上がると、黒服のスタッフが藤川になにか錠剤のようなものを手渡した。藤川はそれを、虚ろな目をしたまま口に含むと差し出されたペットボトルの水で飲み干す。それを見届けたところで、黒服の男は舞台の袖に消えていった。場内が静寂に包まれていたのはわずか数十秒。客席にいる全員が見守る中、変化は唐突に訪れた。
ぼんやりとその場に立ち尽くしていた藤川の躰が、遠目から眺める群司にもそれとわかるほど大きく痙攣した。ふらふらとおぼつかなかった両足を突如踏ん張り、直後、天を仰いだその口から獣のような咆吼が放たれる。同時に、腕や足が何倍にも膨れ上がり、身体の厚みも増していった。
Tシャツの下でひょろひょろと貧弱だった体躯が見る間に巨大化して布地を破りそうな勢いで発達し、その変化を目の当たりにした観客のあいだからどよめきが起こった。
群司もまた、舞台上の藤川から目を離すことができなかった。CG加工が施されたような変貌が生身の肉体に起こっている。信じがたい目の前の光景に、背筋が冷え、腋や首筋から嫌な汗が流れ落ちた。
これが、あらたに開発されたフェリスの効力。
こんなことを『成果』と謳って見世物にするのか。
こんな企画を考えた側にも、それを嬉々とした様子で見物している客席の連中にも、嫌悪しか感じなかった。
偽善者ぶるつもりはない。だが、良識や正義を振り翳すつもりはなくとも、到底受け容れられるものではなかった。
登場した当初の二倍にも膨れ上がったように見える藤川は、シャツから覗くはち切れんばかりの筋肉に鎧われた腕を振り上げ、雄叫びをあげながらリングに飛びこんだ。そこからの出来事は、悪夢としか言いようがないものだった。
その道のプロと思われた相手の男は、フェリスの力を得て超人と化した藤川のまえで、まるで歯が立たなかった。切れのある技や攻撃を次々に仕掛けるも、素人であるはずの藤川にことごとく躱され、あるいはまともに技が決まっても、ダメージを与えることすらできない。力の差は、素人目にも歴然だった。
天城瑠唯は舞台袖に下がっていき、かわりに上手と下手、両サイドから三人の男たちが登場する。ひとりは屈強な、いかにもリングに上がるのに相応しい格闘家といった風情の男だった。そしてその反対側から現れたふたり組のうち、ひとりは黒いスーツ姿のスタッフと思しき男で、その男に抱えられるようにふらふらと登場したのは、貧相な体躯の――群司はそこで愕然とした。
スタッフの男に連れてこられたのは、渋谷の繁華街で姿を見失った藤川だった。
いったいなにが行われようとしているのか。
なんの情報を得ていなくとも、これから起こることがまっとうでないことは群司にもわかる。そしてその予想は、見事に的中した。
格闘家ふうの男がリングに上がると、黒服のスタッフが藤川になにか錠剤のようなものを手渡した。藤川はそれを、虚ろな目をしたまま口に含むと差し出されたペットボトルの水で飲み干す。それを見届けたところで、黒服の男は舞台の袖に消えていった。場内が静寂に包まれていたのはわずか数十秒。客席にいる全員が見守る中、変化は唐突に訪れた。
ぼんやりとその場に立ち尽くしていた藤川の躰が、遠目から眺める群司にもそれとわかるほど大きく痙攣した。ふらふらとおぼつかなかった両足を突如踏ん張り、直後、天を仰いだその口から獣のような咆吼が放たれる。同時に、腕や足が何倍にも膨れ上がり、身体の厚みも増していった。
Tシャツの下でひょろひょろと貧弱だった体躯が見る間に巨大化して布地を破りそうな勢いで発達し、その変化を目の当たりにした観客のあいだからどよめきが起こった。
群司もまた、舞台上の藤川から目を離すことができなかった。CG加工が施されたような変貌が生身の肉体に起こっている。信じがたい目の前の光景に、背筋が冷え、腋や首筋から嫌な汗が流れ落ちた。
これが、あらたに開発されたフェリスの効力。
こんなことを『成果』と謳って見世物にするのか。
こんな企画を考えた側にも、それを嬉々とした様子で見物している客席の連中にも、嫌悪しか感じなかった。
偽善者ぶるつもりはない。だが、良識や正義を振り翳すつもりはなくとも、到底受け容れられるものではなかった。
登場した当初の二倍にも膨れ上がったように見える藤川は、シャツから覗くはち切れんばかりの筋肉に鎧われた腕を振り上げ、雄叫びをあげながらリングに飛びこんだ。そこからの出来事は、悪夢としか言いようがないものだった。
その道のプロと思われた相手の男は、フェリスの力を得て超人と化した藤川のまえで、まるで歯が立たなかった。切れのある技や攻撃を次々に仕掛けるも、素人であるはずの藤川にことごとく躱され、あるいはまともに技が決まっても、ダメージを与えることすらできない。力の差は、素人目にも歴然だった。
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