フェリシアン・シンドローム

九條 連

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第16章

第1話(4)

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「悠長に博士を説得したりなどせず、さっさと権利を奪ってしまえばよかったんだ。私の手でフェリスを開発していたら、娘は死なずに幸せを掴むことができたはずだった。開発者本人に研究をつづける気がなく、すべてを白紙にするつもりでいたのなら、有効活用できる人間に権利が譲られてもよかったはずだ。そうだろう?」
 己の正しさを誇示するように声のトーンがあがった。

「けれど私は遅すぎた。どれほど悔やんだかしれない。娘は私の宝で、生きる希望と理由だった。この世に生まれ落ちたその瞬間から、だれよりも恵まれた幸せが約束されていたはずだった。あんな地獄のような苦しみの中で、短すぎる生を終えるべき子じゃなかったんだ」
 そんなことがあっていいはずはないのだと、天城瑠唯の姿をした偽物が吠え立てた。

「私は決意した。娘を必ずこの手に取り戻してみせると。そしてこのとおり、その夢を実際に実現させることができた。気の遠くなるような歳月と想像を絶する苦労の連続だったが、一度喪われた娘の生命は、こうして私の中で完全に甦ることができたんだ」

 直前の嘆きから一転、天城嘉文は歓喜に打ちふるえる。

「フェリスはまだ開発途上ではあるが、これだけの成果を成し得たことを私は誇りに思う。私の最愛の娘、至高の宝はふたたびこの世界に甦り、私と一体となってより完璧な輝きを放つ存在となった」

 己の演説に酔いしれるその姿に群司は慄然とする。張りのある肌。美しく結い上げられた豊かな髪。豪奢なイブニングドレスに包まれた、見事な曲線を描く肢体。どこから見ても若く美しい女そのものの姿の中で、一点、不自然に股間が隆起していた。
 群司の視線に気づいたがニタリと嗤う。

「失礼、少し興奮しすぎてしまったようだ」
「……娘さんを甦らせたはずでは?」
「そう、彼女は完璧に甦った。我々親子はフェリスの力でこのとおり融合することができたわけだが、私は別段、女性になりたかったわけではない。ただ娘の再生を望み、この身体を使ってそれを実現させただけのこと。娘でありながら、私は私自身でもある。妻もこの姿をとても気に入っている」

 はじめて言及されたその存在に、群司は眉を顰めた。

「奥さんがこの状況を受け容れていると?」
「そうだとも。彼女もまた、娘を心から愛していたからね。一時は失意のどん底にいて、到底立ち直れるような状態ではなかったが、いまはとても喜んでいる」

 天城嘉文は満足げに頷いた。それがかえって不自然に思えた。
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