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第16章
第2話(2)
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かつて味わったことのない無力感に苛まれ、それでも自分にできることはないかと必死で思考を巡らせる。
焦燥と絶望に押し潰されそうになる中、画面の向こうでガウン姿の男たちが、ベッドで悶える如月に近づいていった。
やめろ。やめろっ。その人の触れるな……っ。
だが不意に、一度しりぞいた黒服の男たちが舞台上にあわただしく駆けこんできた。
その中のひとりがなにごとかを告げると、ベッドサイドにいた男たちの顔色が変わる。同時に、群司たちのいる管理室にもあわただしいノックが響いた。
群司を蹴り上げた男が、苛立った様子で乱暴にドアを開けた。
「なにごとだっ?」
出入り口に立ったままドア向こうの相手と小声で交わすやりとりに、ただならぬ気配が漂っていた。
会話の内容までは聴き取ることができない。それでも不測の事態が発生したことは間違いなかった。おそらくは、舞台に黒服の男たちが駆けこんできたのもおなじ理由だろう。
画面の中で、舞台にいた者たちはバタバタと引き上げていき、如月もベッドから引き起こされて強制的に連れ去られていく。舞台のみならず、客席にいた招待客らも浮き足立っていた。
いまいましげな舌打ちが聞こえて、なんらかの報告を受けたらしい男が大股に戻ってくる。デスクに戻ってコンピュータを操作しようとした男は、そこで手を止めると群司を振り返り、部下に命じて躰の向きを変えさせた。
群司は、床に転がった状態のまま壁のほうを向かされる。首を巡らせようとしても、目隠しがわりに配下の男が立っていて、モニター画面を見ることができなかった。
コンピュータを操作する音が聞こえて、モニター画面のまえに集まり、なにごとかをやりとりしていた男たちはほどなくバタバタと管理室を出て行った。群司を壁際に向かせた配下の男ひとりが見張り役としてその場に残される。
いったい、なにがあったというのか。
不安に思う一方で、もしやという思いがあった。
期待しすぎてはいけない。だが天城邸を訪れるまえ、群司は池畑にあることを頼んでいた。それがうまくいったのではないか。そう思えてならなかった。
なにはともあれ、衆人環視の中、如月が複数の男たちに陵辱されるという最悪の事態は免れた。しかしそれでも、身体に変調をきたすなにかをすでに飲まされている。こんなところにいつまでも悠長に転がっている場合ではなかった。如月の救出に、早く向かわなければ。
どうにか拘束を解こうともがいてみるが、上半身と両足に巻きつけられた縄はビクともしない。後ろ手にかけられた手錠に至っては、なおのことはずすことができなかった。
なにか手を打たなければ。
思ったところで、ふたたび管理室のドアがノックされる。見張り役として残された男が億劫そうにドアを開けた直後、ゴツン、という鈍い音とともにかすかな呻き声が聞こえた。つづいて、なにかがドサリと床に沈む気配がする。
群司の心臓が跳ね上がった。
振り返ろうと思っても、群司の位置から出入り口の様子を窺うことはできない。
なんだ? なにが起こった?
足跡が近づいてくる。ドアを開けにいった男のものとはあきらかに異なる靴音。
すぐ背後で足音が止まり、人の気配が覗きこむように真上から迫ってくる。
無理やり首を捻ってそちらに視線を向けた群司は、その姿をとらえた瞬間、驚愕に目を見開いた。
「大丈夫、群ちゃん?」
そこにいたのは坂巻だった。
焦燥と絶望に押し潰されそうになる中、画面の向こうでガウン姿の男たちが、ベッドで悶える如月に近づいていった。
やめろ。やめろっ。その人の触れるな……っ。
だが不意に、一度しりぞいた黒服の男たちが舞台上にあわただしく駆けこんできた。
その中のひとりがなにごとかを告げると、ベッドサイドにいた男たちの顔色が変わる。同時に、群司たちのいる管理室にもあわただしいノックが響いた。
群司を蹴り上げた男が、苛立った様子で乱暴にドアを開けた。
「なにごとだっ?」
出入り口に立ったままドア向こうの相手と小声で交わすやりとりに、ただならぬ気配が漂っていた。
会話の内容までは聴き取ることができない。それでも不測の事態が発生したことは間違いなかった。おそらくは、舞台に黒服の男たちが駆けこんできたのもおなじ理由だろう。
画面の中で、舞台にいた者たちはバタバタと引き上げていき、如月もベッドから引き起こされて強制的に連れ去られていく。舞台のみならず、客席にいた招待客らも浮き足立っていた。
いまいましげな舌打ちが聞こえて、なんらかの報告を受けたらしい男が大股に戻ってくる。デスクに戻ってコンピュータを操作しようとした男は、そこで手を止めると群司を振り返り、部下に命じて躰の向きを変えさせた。
群司は、床に転がった状態のまま壁のほうを向かされる。首を巡らせようとしても、目隠しがわりに配下の男が立っていて、モニター画面を見ることができなかった。
コンピュータを操作する音が聞こえて、モニター画面のまえに集まり、なにごとかをやりとりしていた男たちはほどなくバタバタと管理室を出て行った。群司を壁際に向かせた配下の男ひとりが見張り役としてその場に残される。
いったい、なにがあったというのか。
不安に思う一方で、もしやという思いがあった。
期待しすぎてはいけない。だが天城邸を訪れるまえ、群司は池畑にあることを頼んでいた。それがうまくいったのではないか。そう思えてならなかった。
なにはともあれ、衆人環視の中、如月が複数の男たちに陵辱されるという最悪の事態は免れた。しかしそれでも、身体に変調をきたすなにかをすでに飲まされている。こんなところにいつまでも悠長に転がっている場合ではなかった。如月の救出に、早く向かわなければ。
どうにか拘束を解こうともがいてみるが、上半身と両足に巻きつけられた縄はビクともしない。後ろ手にかけられた手錠に至っては、なおのことはずすことができなかった。
なにか手を打たなければ。
思ったところで、ふたたび管理室のドアがノックされる。見張り役として残された男が億劫そうにドアを開けた直後、ゴツン、という鈍い音とともにかすかな呻き声が聞こえた。つづいて、なにかがドサリと床に沈む気配がする。
群司の心臓が跳ね上がった。
振り返ろうと思っても、群司の位置から出入り口の様子を窺うことはできない。
なんだ? なにが起こった?
足跡が近づいてくる。ドアを開けにいった男のものとはあきらかに異なる靴音。
すぐ背後で足音が止まり、人の気配が覗きこむように真上から迫ってくる。
無理やり首を捻ってそちらに視線を向けた群司は、その姿をとらえた瞬間、驚愕に目を見開いた。
「大丈夫、群ちゃん?」
そこにいたのは坂巻だった。
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