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第18章

第3話(6)

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 如月の迎えた絶頂により、これまでにないほどのうねりが群司の陽根をきつく締め上げる。如月の放った精がふたりの腹をじっとりと濡らす中、数瞬の間をおいて群司も如月の中でその瞬間を迎えた。
 迸る熱が最奥に叩きつけられる感触に、如月はあえかな声を放って身悶えた。
 腰を揺すって最後の一滴まで搾り出した群司は、大きく肩を喘がせながら如月の中からゆっくりと己を引き抜く。そして、いたわるように汗ばむ恋人の額を拭って、そっと口づけた。

「ごめんね、全然加減できなかった。激しすぎたよね?」

 覆いかぶさる群司に躰を擦り寄せながら、如月は小さくかぶりを振る。

「だい、じょぶ……。すごく、きもちよか、た……」

 まだ呼吸を乱しながらも恥じらう様子がたまらなく可愛かった。
 如月の隣にごろりと横になって、群司はほっそりとした躰を腕の中に抱きこんだ。

「ぐんじ」
「ん?」
「どうしよ。すごく、幸せ……」
「幸せだと困るの?」
「そ、じゃ、ないけど、なんか、ふわふわする」
「琉生さん、細くて軽いもんね」
「ち、ちがっ、そういうんじゃ――ん……っ」

 赤くなって抗議しようとする如月の口唇を塞いだ。ゆっくりと吸い上げてそっと離し、薄い色合いのやわらかな髪を梳き上げる。

「ヤバい、俺もふわふわしてドキドキしてる。たぶんもう一生、手放せない」
「ぐん、じ?」

「愛してるよ」

 一瞬大きく見張ったその瞳から、涙が溢れた。

「甘えん坊の次は泣き虫なの? ほんと可愛いなぁ」
 顔を隠すように胸に縋りつく如月の頭を、群司は笑いながら撫でた。

「ぐんじ、好き。ぐんじに、会え…よかった。おれも、愛、して…るっ」

 しゃくり上げる背中を、あやすようにトントンと叩く。

「兄貴のことがあって、つらい思いも、しんどい思いもいっぱいしてきたから、余計にいろんな感情が溢れちゃうよね。ずっとずっと、ひとりで頑張ってきたんだから」
 こみあげる愛おしさをそのまま言葉に載せた。

「琉生さんが泣けるのも甘えられるのも、俺の腕の中だけでしょう? だから好きなだけ泣いて、甘えていいよ。そのかわり、俺のお願いもひとつ聞いてくれる?」
「お願い?」
「仕事柄、どうしても危険なことは避けられないと思うけど、俺のためにも自分のこと、大事にしてほしいなって」
「群司……」
「俺も琉生さんのこと、力の及ぶ範囲で大事に守っていくから、これからもずっと、そばにいてください」

 ひとりで我慢しないように。ひとりで頑張りすぎないように。ひとりで無理をしないように。

 泣き濡れた目でじっと群司を見上げていた如月は、ゆっくりと瞬きをした後、囁くような声で返事をした。

「うん、そばに、いる。だからぐんじも、ずっとそばに、いて?」

 群司はその口唇に、あらためて口づけた。

「よろこんで」

 厳かな誓いのキスを、如月は目を閉じてしずかに受け容れた。
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