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番外編~ある幸せな休日~

第1話(2)

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 如月は、声もなくただただ目の前のケーキをつめた。さっきまでわくわくしていた胸が、今度はじわっと熱くなった。

「はじめてにしては、なかなかいい出来でしょ?」

 上着を脱いで身軽になった群司が傍らに来て、満足そうに同意を求めた。如月は、そんな恋人をゆっくり振り返った。

「すごい……。これ、ほんとに群司が? こんな手作りのケーキ、もらえるなんて思わなかった。どうしよう、もったいなくて食べられない……」
「え~、なにそれ。そんな可愛いこと言ってくれるなんて思わなかった」
 頑張った甲斐があったなぁと群司は感慨深げに言った。

「けど、このまま飾っておくわけにもいかないんで、一緒に食べましょうね。そのために作ってきたんですから」

 群司の言葉に如月は残念そうな様子を見せ、ややあってからおずおずと尋ねた。

「あの、それじゃあ写真、撮ってもいい? せっかくの思い出だから」
「もちろん。じゃあ俺、手洗ってお茶の準備しますね。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「紅茶がいい」
「了解です。琉生さんはそのあいだ、撮影会しててください」

 如月は素直にうんと頷いた。それからあらためて群司に向きなおる。

「あの、群司……、ありがとう。すごく、嬉しい」
「よかった。喜んでもらえて、俺も嬉しいです」

 如月は恋人の腕をとって自分のほうへ引き寄せると、みずからも伸び上がってその頬にキスをした。

「俺の彼氏、最高にカッコイイ」

 一瞬驚いた顔をした群司は、すぐに笑み崩れて如月の頬にキスを返した。

「俺の彼氏も、最高に可愛い」

 言った直後に、突然プッと吹き出す。思わずきょとんとした如月を、群司は腕の中に抱きこみながら言った。

「いや、俺たちってはたから見たら、結構なバカップルなんじゃないかなって思って」
「バカップル……」
 如月は、群司の腕の中で言葉の意味を吟味するように呟いた。

「お互いに俺の彼氏カッコイイ、可愛いって盛り上がっててさ。ふたりの世界でお花畑いっぱい、みたいな」

 群司が言うと、如月もいまのやりとりをあらためて思い返したのだろう。群司の胸に顔をうずめてフフフッと笑った。

「気づいてなかっただけで、これまでにもだいぶやらかしてたんだろうなぁ。でもしょうがないよね、実際琉生さん、最高の恋人で世界一可愛いんだから」

 言った途端に、如月はちょっと口唇くちびるを尖らせた。

「可愛いわけない。男だし、とうとう三十だし」
「いいじゃないですか。俺だってそのうち三十にもなるし、おっさんにもなるんだから」
 でしょ?と同意を求められて、如月はそうだけど、と不満そうな顔をした。

「でも群司は、まだずっと先だし」
「そうでもないと思いますよ? 俺もいよいよ学生生活が終わるわけだし、そうなったら時間の流れも加速する一方なんじゃないですかね。それに、またバカップルモードに戻るけど、俺にとってはそのへんの女子高生やアイドルなんかより、琉生さんのほうが遙かに可愛くて目移りする暇もないんですから。俺の中の琉生さん最強ランキングは、この先もずっと入れ替わりなしの独走状態がつづきます」

 こう見えてかなり一途なんでという恋人の胸を、如月はバカと軽く叩いた。それからふたたびフフッと笑う。

「でも、群司とずっとこうやっていられるなら、バカップルでもいいかも。俺、大人になってからこんなふうに誕生日祝ってもらったの、はじめて」
「ほんとは高級レストランでディナー、みたいなことも考えなくはなかったですけどね。でも、いまの俺の立場で、背伸びしすぎはかえってみっともないですから」
「そんなのしなくていい。手作りケーキのほうがずっと嬉しかったから」
「ほらね、俺の恋人、やっぱり宇宙一可愛い」
「もう、バカっ」

 拗ねたように言う如月の口唇に、群司は笑いながらキスを落とした。
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