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第3章
天の摂理(5)
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メルヴィルはしばし沈黙して俺――否、『エルディラント』をじっと見やる。だがやがて、静かに口を開いた。
「あり得ません」
きっぱりとした、迷いのない口調だった。
「この世界のバランスは、おふたりの盟主によって保たれています。盟主の存在なくして世界は成り立たない。光と闇の調和を保つことができなければ、世界はあっという間に滅んでしまうのです」
光と闇のエネルギーが、ほどよく保たれることこそがこの世の摂理。
「それゆえ、力を取り交わすことのできない者が、候補者として天にさだめられることはありません」
それでは世界が消滅してしまうとメルヴィルは言った。
「寿命の長さについても然りです。力の強さは我ら神族の寿命に比例します。盟主となられる方々は、この世に生を受けた時点ですでに、我々とは比べものにならない、桁外れの力をお持ちです。短命であることはあり得ません。おそらくエルディラント様が懸念しておられるのは、不慮の事故などによって天命をまっとうできなかった場合のことなのでしょう。ですが、そのような事態にならぬように、我ら天霊府の人間が、全霊をかけてお守りしているのです」
盟主となる者は、神族の中でもとりわけ特別で、並ぶべき者のない世界の理そのものなのだとメルヴィルは熱く語った。盟主の存在は、この世界にとって不可欠で、天によって選ばれし存在を否定することなど、だれにもできはしないのだと。
だが実際に、リュシエルは何者かによって襲撃された。その結果、リュシエルを守ろうとしたエルディラントの魂は、いずれかへ消えている。メルヴィルはもちろんのこと、天霊府では、その事実をいまだ把握していない。
犯人は、いったいだれなのか。そしてどんな意図があるのか。
リュシエルに襲撃当時のことを尋ねてみたが、突然のことで、なにもわからなかったという。
なんの欠陥も瑕疵もない、完璧な世界。
うっかりまぎれこんでしまった立場で、この世界の成り立ちを批判するつもりはない。それでも俺の目には、調和のとれたこの世界が、うわべだけを取り繕った、張りぼての理想郷に見えた。
「そうですね、少し神経質になりすぎていたかもしれません」
そんな思いはおくびにも出さず、上っ面の愛想笑いを浮かべる。いまの俺は、外側だけは超絶イケメン。生まれ持った品位と風格、落ち着きのある低い美声で、いくらでも誤魔化すことができた。
「次代盟主としての責務を果たせるよう、最善を尽くします。今後とも、お力添えをいただければ幸いです」
「もちろんでございます。なにかありましたら、いつでも、お気軽にお申し付けください」
「よろしく頼みます」
メルヴィルの言葉に、いかにも奉仕を受け慣れている態で鷹揚に頷いた。その裏で、あらためて思う。だれにも頼ることはできない、と。
だれが味方で、だれが敵なのか、自力で見極める必要があった。
まがいものの天国で、世界を統べる者として崇められる人柱。
だれも信じてはならないと、強く思った。
「あり得ません」
きっぱりとした、迷いのない口調だった。
「この世界のバランスは、おふたりの盟主によって保たれています。盟主の存在なくして世界は成り立たない。光と闇の調和を保つことができなければ、世界はあっという間に滅んでしまうのです」
光と闇のエネルギーが、ほどよく保たれることこそがこの世の摂理。
「それゆえ、力を取り交わすことのできない者が、候補者として天にさだめられることはありません」
それでは世界が消滅してしまうとメルヴィルは言った。
「寿命の長さについても然りです。力の強さは我ら神族の寿命に比例します。盟主となられる方々は、この世に生を受けた時点ですでに、我々とは比べものにならない、桁外れの力をお持ちです。短命であることはあり得ません。おそらくエルディラント様が懸念しておられるのは、不慮の事故などによって天命をまっとうできなかった場合のことなのでしょう。ですが、そのような事態にならぬように、我ら天霊府の人間が、全霊をかけてお守りしているのです」
盟主となる者は、神族の中でもとりわけ特別で、並ぶべき者のない世界の理そのものなのだとメルヴィルは熱く語った。盟主の存在は、この世界にとって不可欠で、天によって選ばれし存在を否定することなど、だれにもできはしないのだと。
だが実際に、リュシエルは何者かによって襲撃された。その結果、リュシエルを守ろうとしたエルディラントの魂は、いずれかへ消えている。メルヴィルはもちろんのこと、天霊府では、その事実をいまだ把握していない。
犯人は、いったいだれなのか。そしてどんな意図があるのか。
リュシエルに襲撃当時のことを尋ねてみたが、突然のことで、なにもわからなかったという。
なんの欠陥も瑕疵もない、完璧な世界。
うっかりまぎれこんでしまった立場で、この世界の成り立ちを批判するつもりはない。それでも俺の目には、調和のとれたこの世界が、うわべだけを取り繕った、張りぼての理想郷に見えた。
「そうですね、少し神経質になりすぎていたかもしれません」
そんな思いはおくびにも出さず、上っ面の愛想笑いを浮かべる。いまの俺は、外側だけは超絶イケメン。生まれ持った品位と風格、落ち着きのある低い美声で、いくらでも誤魔化すことができた。
「次代盟主としての責務を果たせるよう、最善を尽くします。今後とも、お力添えをいただければ幸いです」
「もちろんでございます。なにかありましたら、いつでも、お気軽にお申し付けください」
「よろしく頼みます」
メルヴィルの言葉に、いかにも奉仕を受け慣れている態で鷹揚に頷いた。その裏で、あらためて思う。だれにも頼ることはできない、と。
だれが味方で、だれが敵なのか、自力で見極める必要があった。
まがいものの天国で、世界を統べる者として崇められる人柱。
だれも信じてはならないと、強く思った。
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