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エピローグ
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「あれ? おばあちゃんもそこにいるの?」
『莉音ちゃ~ん、田中んおばちゃんもおるよ~!』
「え? あ、優子さんも! こんばんは」
おじさん、ちょっとそれ貸して、という声とともに通話が中断し、すぐに画面の中に祖父母と優子が現れた。
『あ、ほら、映った。莉音ちゃ~ん、アルフさ~ん、元気ぃ?』
祖父母を中心に映しつつ、スマホを持った優子が端っこから手を振った。莉音も手を振り返す。東京に戻ってきてからまだひと月足らずだが、画面に映るみんなの姿が懐かしく感じられた。
『莉音ちゃん、これ、今日届いたちゃ。こげえ立派な記念にしてもろうち』
祖母の手に、金の刺繍が表紙に施された分厚い冊子がある。
「アルバム、届いたんだね。僕たちのところにも一昨日届いたよ。茉梨花さん、すごく豪華に作ってくれて、感動しちゃった」
莉音の言葉に祖母は涙ぐみながら大きく頷いた。
『ほんとにねぇ。莉音ちゃんもアルフさんも、しんけん、きれいに撮れちょった。ふたりとも美男子やけん、そりゃあもう見ごたえがあっち』
祖母の手放しの讃辞に、莉音はえへへと照れ笑いした。
「おばあちゃんたちも、すごくよく撮れてたよね。集合写真も会場での様子も、みんな楽しそうで生き生きとしてて、素敵な思い出がいっぱいもらえたなって」
祖母は目もとを拭いながら、うんうんと何度も頷いた。
『今度そっちにお礼ん品と結婚祝い送るけん、アルフさんから、あちらさんに渡しちゃってくるるやろうか。こっちで旦那さんのレストランに届くるんも、邪魔になるやろうし』
祖父の言葉に、ヴィンセントはもちろんですと請け合った。それを聞いた優子が、祖父の隣で手を挙げる。
『あ、あたしも! あたしからのも一緒に送らせてください。ほんのちいと顔出しただけなんに、あたしが撮ってもろうた写真までわざわざアルバムにしち、送ってもろうちしもうたけん』
もう宝物よ~!と優子は自分用のアルバムを胸に抱きしめながら嬉しそうに言った。
『披露宴んときんムービーもあるっちゅうし、今度優那ちゃんたちにも声かけて、みんなで鑑賞会させてもらうねぇ』
ウキウキと言う優子に、莉音はどうぞどうぞと笑った。
『莉音、近えうちに畑でとれた野菜送る。夏バテせんごつな』
「うん、ありがとう。楽しみにしてる。おじいちゃんたちも身体に気をつけてね。お正月にはまた、そっちに行こうと思ってるから」
『いい、いい。無理せんじ』
言いながらも、祖父は嬉しそうに目尻を下げている。
『アルフさん、うちん孫ぅよろしゅう頼むちゃ。ふたりで仲良うな』
「はい、必ず大切にします。武造さんも君恵さんも、どうぞお元気で。よかったらぜひ、今度うちのホテルにも泊まってください。ご招待しますので。優子さんも、おふたりのことをくれぐれもよろしくお願いします」
名残を惜しみつつ、みんなで挨拶を交わしながら通話を終了した。莉音はホッと息をついて傍らのヴィンセントを見る。自分に向けられたあざやかな青い瞳がやわらかくなごむのを見て、胸がいっぱいになった。
どちらからともなく両手をひろげて、しっかりと抱き合う。
「茉梨花さんへのお祝いとお礼、いっぱい考えましょうね」
「ああ。だがそのまえにいまは、私たちの愛について考えよう」
口唇に啄むようなキスを落とされ、莉音はくすぐったさに、うふふと笑った。
「考えなくても、もう充分に証明されてると思いますけど?」
「証明はされているが、愛の形も大きさも、つねに変化している。確認するたびに変わっているから、こまめにチェックする必要があるんだ」
「そうなんですね? じゃあ、最新の状態ではどんな感じでしたか?」
「それが……、じつはあまりにも大きすぎて、全容をたしかめることができなかった」
莉音を抱きしめながら大真面目に言うので、莉音はとうとうふきだしてしまった。その様子を見て、ヴィンセントもますます愛しげに目もとをなごませる。背中にまわされた手に力がこもるのを感じて、莉音も抱き返しながら身を擦り寄せた。
互いのぬくもりを感じながら、間近で瞶め合う。
「莉音、この先も互いの意見がくい違ったり、衝突することもあるかもしれない。だが恐れずぶつかり合って、正面から向き合うことで、よりいっそう関係を深めていけるはずだ。そうして互いの想いを育みながら、ともに歩んでいこう」
大きくあたたかな手が優しく頬を包みこみ、そっと撫でる。
莉音は宝石のように美しい青い瞳を見つめながら、想いをこめて「はい」と応えた。そして交わす、誓いの口づけ。
これからも何度でも、誓い合ってたしかめていこう。
刻々と形を変え、色を変えていく『愛』という名の絆を深めていくために。
ともに手を取り合って生きていける、最愛の人とめぐり逢えたのだから――――
~end~
『莉音ちゃ~ん、田中んおばちゃんもおるよ~!』
「え? あ、優子さんも! こんばんは」
おじさん、ちょっとそれ貸して、という声とともに通話が中断し、すぐに画面の中に祖父母と優子が現れた。
『あ、ほら、映った。莉音ちゃ~ん、アルフさ~ん、元気ぃ?』
祖父母を中心に映しつつ、スマホを持った優子が端っこから手を振った。莉音も手を振り返す。東京に戻ってきてからまだひと月足らずだが、画面に映るみんなの姿が懐かしく感じられた。
『莉音ちゃん、これ、今日届いたちゃ。こげえ立派な記念にしてもろうち』
祖母の手に、金の刺繍が表紙に施された分厚い冊子がある。
「アルバム、届いたんだね。僕たちのところにも一昨日届いたよ。茉梨花さん、すごく豪華に作ってくれて、感動しちゃった」
莉音の言葉に祖母は涙ぐみながら大きく頷いた。
『ほんとにねぇ。莉音ちゃんもアルフさんも、しんけん、きれいに撮れちょった。ふたりとも美男子やけん、そりゃあもう見ごたえがあっち』
祖母の手放しの讃辞に、莉音はえへへと照れ笑いした。
「おばあちゃんたちも、すごくよく撮れてたよね。集合写真も会場での様子も、みんな楽しそうで生き生きとしてて、素敵な思い出がいっぱいもらえたなって」
祖母は目もとを拭いながら、うんうんと何度も頷いた。
『今度そっちにお礼ん品と結婚祝い送るけん、アルフさんから、あちらさんに渡しちゃってくるるやろうか。こっちで旦那さんのレストランに届くるんも、邪魔になるやろうし』
祖父の言葉に、ヴィンセントはもちろんですと請け合った。それを聞いた優子が、祖父の隣で手を挙げる。
『あ、あたしも! あたしからのも一緒に送らせてください。ほんのちいと顔出しただけなんに、あたしが撮ってもろうた写真までわざわざアルバムにしち、送ってもろうちしもうたけん』
もう宝物よ~!と優子は自分用のアルバムを胸に抱きしめながら嬉しそうに言った。
『披露宴んときんムービーもあるっちゅうし、今度優那ちゃんたちにも声かけて、みんなで鑑賞会させてもらうねぇ』
ウキウキと言う優子に、莉音はどうぞどうぞと笑った。
『莉音、近えうちに畑でとれた野菜送る。夏バテせんごつな』
「うん、ありがとう。楽しみにしてる。おじいちゃんたちも身体に気をつけてね。お正月にはまた、そっちに行こうと思ってるから」
『いい、いい。無理せんじ』
言いながらも、祖父は嬉しそうに目尻を下げている。
『アルフさん、うちん孫ぅよろしゅう頼むちゃ。ふたりで仲良うな』
「はい、必ず大切にします。武造さんも君恵さんも、どうぞお元気で。よかったらぜひ、今度うちのホテルにも泊まってください。ご招待しますので。優子さんも、おふたりのことをくれぐれもよろしくお願いします」
名残を惜しみつつ、みんなで挨拶を交わしながら通話を終了した。莉音はホッと息をついて傍らのヴィンセントを見る。自分に向けられたあざやかな青い瞳がやわらかくなごむのを見て、胸がいっぱいになった。
どちらからともなく両手をひろげて、しっかりと抱き合う。
「茉梨花さんへのお祝いとお礼、いっぱい考えましょうね」
「ああ。だがそのまえにいまは、私たちの愛について考えよう」
口唇に啄むようなキスを落とされ、莉音はくすぐったさに、うふふと笑った。
「考えなくても、もう充分に証明されてると思いますけど?」
「証明はされているが、愛の形も大きさも、つねに変化している。確認するたびに変わっているから、こまめにチェックする必要があるんだ」
「そうなんですね? じゃあ、最新の状態ではどんな感じでしたか?」
「それが……、じつはあまりにも大きすぎて、全容をたしかめることができなかった」
莉音を抱きしめながら大真面目に言うので、莉音はとうとうふきだしてしまった。その様子を見て、ヴィンセントもますます愛しげに目もとをなごませる。背中にまわされた手に力がこもるのを感じて、莉音も抱き返しながら身を擦り寄せた。
互いのぬくもりを感じながら、間近で瞶め合う。
「莉音、この先も互いの意見がくい違ったり、衝突することもあるかもしれない。だが恐れずぶつかり合って、正面から向き合うことで、よりいっそう関係を深めていけるはずだ。そうして互いの想いを育みながら、ともに歩んでいこう」
大きくあたたかな手が優しく頬を包みこみ、そっと撫でる。
莉音は宝石のように美しい青い瞳を見つめながら、想いをこめて「はい」と応えた。そして交わす、誓いの口づけ。
これからも何度でも、誓い合ってたしかめていこう。
刻々と形を変え、色を変えていく『愛』という名の絆を深めていくために。
ともに手を取り合って生きていける、最愛の人とめぐり逢えたのだから――――
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