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第7章
第3話(2)
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「あらためまして、月島茉梨花です。どうぞよろしく。モデルの仕事は下の名前だけでやってるの」
「はじめまして、佐倉莉音です」
「ハニーちゃん、見た目だけじゃなくて名前もきれいなのねぇ」
「あ、いえ、そんな……」
業界のことはくわしくない莉音でさえ知っている有名モデルに褒められても、どう返していいのかわからない。というか、自分はなぜここにいるのだろうという疑念が残ったままだった。
「ごめんなさいね。いきなりこんな状況、びっくりしちゃうわよね。今日はね、いろいろやらかしちゃったことへのお詫びも兼ねて来てもらったの」
「お詫び、ですか?」
「そう、それと提案。あんな騒ぎ、起こしちゃったじゃない? あ、もちろんあたしとアルフはなんでもないのよ? 普通にただのお友達だから。だけどあたしがちょっと有名だったばかりに、あんな記事を載せられちゃって。ハニーちゃんにもきっと、嫌な思いさせちゃったわよね。あたしの顔なんて、見たくもなかったんじゃないかしら。本当にごめんなさい」
「あ、いえ、そんな、大丈夫です」
深々と頭を下げられて、莉音はあわてた。
「あの、僕、平気ですから。あの記事はデマだって、ちゃんとわかってましたから。アルフさんは僕を裏切ったりしないって、信じてるので」
莉音の言葉を聞いた途端、茉梨花は目をまるくした。
「まぁあ~っ! ハニーちゃん、あなたって……っ!」
感歎の声をあげた直後、ヴィンセントに視線を向ける。
「ちょっとアルフ、あなた、こんな純真無垢な子、どうやって誑かしたのよ!」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ」
ヴィンセントは途端に眉間に皺を寄せた。
「君はいったい、私をなんだと思ってるんだ。私たちを応援してくれてるんじゃなかったのか?」
「あら、ごめんなさい。だって、あまりにも想像を絶する穢れなさだったんだもの。薄汚れた社会に染まりきっちゃったあたしたちとは正反対」
茉梨花はそう言って肩を竦めた。
「まあ、でもそうね。これならだれにも靡かなかった鉄壁のアルフが陥落するのも納得だわ。そりゃあ必死で繋ぎ止めようとするわけよね」
「え?」
「茉梨花!」
思わず目をしばたたいた莉音の隣で、ヴィンセントがめずらしくあわてた様子を見せた。反対に、茉梨花は悠然と落ち着き払っている。
「なぁに、アルフ。もしかして愛しの仔猫ちゃんのまえでは、カッコイイ大人の部分だけ見せておきたい、なんて言わないでしょうね? そんなふうに取り繕ってるから、いざというときに拗れるのよ。もうこの際、素直になって全部さらけ出しなさい。今回はさんざん、それで後悔する羽目になったんでしょう?」
忌憚のないその言葉に、ヴィンセントはグッと詰まった。
いつも泰然自若として、なにごとにもスマートに対応するヴィンセントがやりこめられている。莉音はただ、驚くばかりだった。
「ハニーちゃん、聞いてくれる? この人ったらほんと、普段は小憎らしいくらいなんでもそつなくこなすくせに、肝心なところで不器用なんだもの。見ていられなくてあれこれ口出ししちゃったわ。あの記事はあなたの言うとおり、完全なデタラメ。この人があんまりにもらしくなく、しょぼくれてるものだから激励してあげてるところだったのよ」
「アルフさんが、しょぼくれて……」
「べつにしょげてはいない」
呆気にとられる莉音の横で、またしてもヴィンセントが憮然と反論する。だが茉梨花は、まったく取り合わなかった。
「なに言ってんのよ。ほかの人の目は誤魔化せても、あたしの目は誤魔化せませんからね。実際いろいろ訊きだしてみたら、これ以上ないくらいヘコんでたじゃないの」
「それは…っ」
ヴィンセントは太刀打ちできないまま、言葉を詰まらせた。その様子を見た茉梨花が、勝ち誇った顔で莉音に向きなおった。
「はじめまして、佐倉莉音です」
「ハニーちゃん、見た目だけじゃなくて名前もきれいなのねぇ」
「あ、いえ、そんな……」
業界のことはくわしくない莉音でさえ知っている有名モデルに褒められても、どう返していいのかわからない。というか、自分はなぜここにいるのだろうという疑念が残ったままだった。
「ごめんなさいね。いきなりこんな状況、びっくりしちゃうわよね。今日はね、いろいろやらかしちゃったことへのお詫びも兼ねて来てもらったの」
「お詫び、ですか?」
「そう、それと提案。あんな騒ぎ、起こしちゃったじゃない? あ、もちろんあたしとアルフはなんでもないのよ? 普通にただのお友達だから。だけどあたしがちょっと有名だったばかりに、あんな記事を載せられちゃって。ハニーちゃんにもきっと、嫌な思いさせちゃったわよね。あたしの顔なんて、見たくもなかったんじゃないかしら。本当にごめんなさい」
「あ、いえ、そんな、大丈夫です」
深々と頭を下げられて、莉音はあわてた。
「あの、僕、平気ですから。あの記事はデマだって、ちゃんとわかってましたから。アルフさんは僕を裏切ったりしないって、信じてるので」
莉音の言葉を聞いた途端、茉梨花は目をまるくした。
「まぁあ~っ! ハニーちゃん、あなたって……っ!」
感歎の声をあげた直後、ヴィンセントに視線を向ける。
「ちょっとアルフ、あなた、こんな純真無垢な子、どうやって誑かしたのよ!」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ」
ヴィンセントは途端に眉間に皺を寄せた。
「君はいったい、私をなんだと思ってるんだ。私たちを応援してくれてるんじゃなかったのか?」
「あら、ごめんなさい。だって、あまりにも想像を絶する穢れなさだったんだもの。薄汚れた社会に染まりきっちゃったあたしたちとは正反対」
茉梨花はそう言って肩を竦めた。
「まあ、でもそうね。これならだれにも靡かなかった鉄壁のアルフが陥落するのも納得だわ。そりゃあ必死で繋ぎ止めようとするわけよね」
「え?」
「茉梨花!」
思わず目をしばたたいた莉音の隣で、ヴィンセントがめずらしくあわてた様子を見せた。反対に、茉梨花は悠然と落ち着き払っている。
「なぁに、アルフ。もしかして愛しの仔猫ちゃんのまえでは、カッコイイ大人の部分だけ見せておきたい、なんて言わないでしょうね? そんなふうに取り繕ってるから、いざというときに拗れるのよ。もうこの際、素直になって全部さらけ出しなさい。今回はさんざん、それで後悔する羽目になったんでしょう?」
忌憚のないその言葉に、ヴィンセントはグッと詰まった。
いつも泰然自若として、なにごとにもスマートに対応するヴィンセントがやりこめられている。莉音はただ、驚くばかりだった。
「ハニーちゃん、聞いてくれる? この人ったらほんと、普段は小憎らしいくらいなんでもそつなくこなすくせに、肝心なところで不器用なんだもの。見ていられなくてあれこれ口出ししちゃったわ。あの記事はあなたの言うとおり、完全なデタラメ。この人があんまりにもらしくなく、しょぼくれてるものだから激励してあげてるところだったのよ」
「アルフさんが、しょぼくれて……」
「べつにしょげてはいない」
呆気にとられる莉音の横で、またしてもヴィンセントが憮然と反論する。だが茉梨花は、まったく取り合わなかった。
「なに言ってんのよ。ほかの人の目は誤魔化せても、あたしの目は誤魔化せませんからね。実際いろいろ訊きだしてみたら、これ以上ないくらいヘコんでたじゃないの」
「それは…っ」
ヴィンセントは太刀打ちできないまま、言葉を詰まらせた。その様子を見た茉梨花が、勝ち誇った顔で莉音に向きなおった。
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