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第9章
第2話(3)
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身支度を調えて様子を見に来てくれた恋人に、莉音は事情を説明した。
「こちら、おじいちゃんたちがいつもお世話になってる、ご近所の田中優子さんです。市役所にお勤めされていて、僕を料理教室の講師に抜擢してくださった方なんですけど、今日のことを偶然知って、わざわざお祝いに駆けつけてくださって」
ご祝儀もいただいたんですと打ち明けてから、優子に向きなおった。
「優子さん、こちらがアルフレッド・ヴィンセントさん。いまお話しした、僕のパートナーの方です。……あの、優子さん?」
突然登場した長身の美丈夫に、ポカンと口を開けたまま放心していた優子は、莉音に声をかけられてハッと我に返った。
「え? あっ、あ、すみません! やだ、あたしったら。ハリウッドスターんごたる男前が出てきたもんやかぃ、たまがってしもうて。っちゅうか莉音ちゃん、こん方がお付き合いされちょるパートナーん方?」
勢いよくまくし立てられて、莉音はたじたじになりながら答えた。
「は、はい、そうです。アルフさんです」
「やだぁ、ちょっと、すごいお似合いじゃねえん! ふたりそろうてこんげ美形なカップルっている!? あ、ごめんなさい、あたしったら! はじめまして、田中ですぅ。こん度はまこち――本当におめでとうございます……って、外国ん方よね? 日本語、通ずるかしら」
「ゆ、優子さん、優子さん、落ち着いて。アルフさん、大丈夫です。日本語、すごく堪能なので」
優子の勢いに押されながらも、なんとかなだめようとする莉音の横にヴィンセントが立った。
「はじめまして。莉音のパートナーのアルフレッド・ヴィンセントと申します。この度はわたくしどものために暑い中、お越しいただきありがとうございました。料理教室の件は私も聞き及んでおりましたので、ぜひ一度、ご挨拶させていただきたいと思っていたところでした。こうしてお目にかかれて大変嬉しく思います」
「あらっ、あらあらあらっ」
恭しく手を取って挨拶をされ、優子は完全に舞い上がった様子で黄色い声をあげた。
「やだ、ほんとに日本語がお上手でいらっしゃってっ。こちらこそ、お会いできてよかったですわ」
頃合いよしと判断したのだろう。莉音を案内して以降、少し離れたところで様子を見守っていた茉梨花が近づいてきて声をかけた。
「よろしければ会場でご一緒にお祝いしていかれません? お席、ご用意しますけど」
有名モデルに直接声をかけられて、優子はヴィンセントに対するのとはまた違った様子であたふたとした。
「いえ、もう仕事に戻らんといけんので。いきなり押しかけたりしてすみませんでした。でも残念! 仕事じゃなかったら、ぜひご一緒させていただきたかったんにっ」
残念そうに辞退したあとで、
「あ、でも写真だけ、お願いでけんかなって」
遠慮がちに希望を口にした。
「いいですよ、もちろん。いま、カメラマン呼びますね」
快く了承して身を翻そうとした茉梨花を、優子はあわてて制止した。
「あ、いえっ、そこまでしていただかんで大丈夫です! 携帯で充分。あの、ほんでもし可能なら、一緒に写真、撮っちゃってほしい子たちがほかにもおっちゃけど……」
「ほかに?」
「莉音ちゃんのこと聞いて、こっそり見に来たんがあたし以外にもいたんですよぉ」
ここで莉音を待っているときに、庭の向こうから覗いている姿を見かけたのだという。
「屋内からやと結構丸見えで」
自分もそうだったのだと変な汗が出たと優子は笑った。
言われて庭のほうに目を向けると、植えこみの向こうに、たしかにこちらの様子を窺っている頭がいくつか見える。呼んでいいかと許可を求められて、ヴィンセントと茉梨花に目顔で確認をとった莉音は、どうぞと頷いた。
「こちら、おじいちゃんたちがいつもお世話になってる、ご近所の田中優子さんです。市役所にお勤めされていて、僕を料理教室の講師に抜擢してくださった方なんですけど、今日のことを偶然知って、わざわざお祝いに駆けつけてくださって」
ご祝儀もいただいたんですと打ち明けてから、優子に向きなおった。
「優子さん、こちらがアルフレッド・ヴィンセントさん。いまお話しした、僕のパートナーの方です。……あの、優子さん?」
突然登場した長身の美丈夫に、ポカンと口を開けたまま放心していた優子は、莉音に声をかけられてハッと我に返った。
「え? あっ、あ、すみません! やだ、あたしったら。ハリウッドスターんごたる男前が出てきたもんやかぃ、たまがってしもうて。っちゅうか莉音ちゃん、こん方がお付き合いされちょるパートナーん方?」
勢いよくまくし立てられて、莉音はたじたじになりながら答えた。
「は、はい、そうです。アルフさんです」
「やだぁ、ちょっと、すごいお似合いじゃねえん! ふたりそろうてこんげ美形なカップルっている!? あ、ごめんなさい、あたしったら! はじめまして、田中ですぅ。こん度はまこち――本当におめでとうございます……って、外国ん方よね? 日本語、通ずるかしら」
「ゆ、優子さん、優子さん、落ち着いて。アルフさん、大丈夫です。日本語、すごく堪能なので」
優子の勢いに押されながらも、なんとかなだめようとする莉音の横にヴィンセントが立った。
「はじめまして。莉音のパートナーのアルフレッド・ヴィンセントと申します。この度はわたくしどものために暑い中、お越しいただきありがとうございました。料理教室の件は私も聞き及んでおりましたので、ぜひ一度、ご挨拶させていただきたいと思っていたところでした。こうしてお目にかかれて大変嬉しく思います」
「あらっ、あらあらあらっ」
恭しく手を取って挨拶をされ、優子は完全に舞い上がった様子で黄色い声をあげた。
「やだ、ほんとに日本語がお上手でいらっしゃってっ。こちらこそ、お会いできてよかったですわ」
頃合いよしと判断したのだろう。莉音を案内して以降、少し離れたところで様子を見守っていた茉梨花が近づいてきて声をかけた。
「よろしければ会場でご一緒にお祝いしていかれません? お席、ご用意しますけど」
有名モデルに直接声をかけられて、優子はヴィンセントに対するのとはまた違った様子であたふたとした。
「いえ、もう仕事に戻らんといけんので。いきなり押しかけたりしてすみませんでした。でも残念! 仕事じゃなかったら、ぜひご一緒させていただきたかったんにっ」
残念そうに辞退したあとで、
「あ、でも写真だけ、お願いでけんかなって」
遠慮がちに希望を口にした。
「いいですよ、もちろん。いま、カメラマン呼びますね」
快く了承して身を翻そうとした茉梨花を、優子はあわてて制止した。
「あ、いえっ、そこまでしていただかんで大丈夫です! 携帯で充分。あの、ほんでもし可能なら、一緒に写真、撮っちゃってほしい子たちがほかにもおっちゃけど……」
「ほかに?」
「莉音ちゃんのこと聞いて、こっそり見に来たんがあたし以外にもいたんですよぉ」
ここで莉音を待っているときに、庭の向こうから覗いている姿を見かけたのだという。
「屋内からやと結構丸見えで」
自分もそうだったのだと変な汗が出たと優子は笑った。
言われて庭のほうに目を向けると、植えこみの向こうに、たしかにこちらの様子を窺っている頭がいくつか見える。呼んでいいかと許可を求められて、ヴィンセントと茉梨花に目顔で確認をとった莉音は、どうぞと頷いた。
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