24 / 83
「英雄のしつけかた」 2章 英雄と呼ばれる男
24. 突然の! 1
しおりを挟む
目の前を大量の星が飛んだ。
そこまでは記憶があったが意識も飛んでしまう。
ズキズキズキズキと、なんだか頭が痛い。
何が起こったのか、ガラルドはまったくわからなかった。
ウ~とうなって目を開ける。
横でシクシクと若い女が泣いていて、その横には老女がいた。
見慣れない顔だが、見覚えはあった。
このアライグマに似た女と福招きのばあさんは、新しく雇った家政婦だったかなぁと思いながら、ガラルドは頭に手をやった。
見事に腫れていて、これはタンコブじゃないかと非常に驚いた。
と、いうことは、何かがぶつかったのだ。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
女が繰り返しているので、どうやらこいつのせいらしい。
あたりをつけて記憶をたどったが、まったく身に覚えがなかった。
いったい何がどうしたんだ? と首をかしげる。
「冷やせば朝までには腫れも引きますからねぇ」
おお福招きが人の言葉をしゃべったと非常に驚いていたら、濡れたタオルを額にぺシャンとやられた。
「おいたがすぎましたねぇ」
ガラルドは珍しく言葉に詰まった。
幼児扱いをされても相手は年寄りだ。
確かにこのばあさんから見たら二十五歳の自分など子供だと納得してしまう。
かもしだされる雰囲気に目を細めた。
見た目に騙されそうになるが、普通の老婆とはとても思えない。
それが何から来る違和感か確かめる前に、不意に知っている声が届いた。
「このお二人が、サリ殿とミレーヌ様だよ」
「俺たちもいつも言ってるだろう? 来客もある玄関で服は脱ぐなって」
「今日から一緒に暮らすことになったぞ」
クックッとラルゴに肩を揺らして笑われて、ガラルドは眉根を寄せた。
服をポイポイ脱ぐことぐらい、魔具だの呪具の山に比べたら害がない。
なにが問題かさっぱりわからないが、ようやく意識がしっかりしてきた。
よく見たら隊員がベッド横に勢ぞろいしている。
ミレーヌ達とは反対側に、デュランやサガンなどの二つ名持ちが立ったり座ったりしていた。
ちなみに、部屋に入りきらなかった半分は面倒ごとを避けて、食堂へと移動している。
「なんで貴様ら五人がそろってるんだ?」
素朴な疑問を投げかける。
当たり前じゃないかと爆笑が返った。
「人生初の黒星の感想を聞こうと思ってな」
「見事にのびたじゃないか」
「ご婦人に失礼な口を聞くからだ」
「何が起きたか、わかってないだろう?」
おお、確かにわかっていないぞと思いながら、タンコブをなでた。
やはり本物である。
殺気も何もなかったのに、誰かに攻撃されたらしい。
まともに攻撃を受けた経験は、前奥義継承者との修行中まで遡る。
記憶も自覚もないことなど、生まれて初めての体験で呆然とする。
さすがにガラルドが無口でいると、ミレーヌが笑い転げている青年たちに喰ってかかった。
「もう! 笑い事じゃありませんのよ! 打ち所が悪ければ、どうなっていたことか!」
こんな大きなフライパンですのにと、愛用の品を握りしめる。
つい動転して持ってきてしまい、横の長椅子に座っている今も手にしている。
黒々と輝く巨大なフライパンが、ミレーヌと一緒にプルプルと震えていた。
そこでようやく、ガラルドは事態を理解した。
ミレーヌがフライパンを握りしめている図はシュールである。
玄関の出迎えになぜかフライパンを持っている妙な女だと思っていたが、寝室にまで持参するとは。
どこにでも持ち歩くのかとあきれてしまった。
しかし、アレでやられたのか。
武器とは呼べぬ武器であるが、想像以上のダメージである。
普通なら鉄甲で思い切り殴られたとしても、蚊に刺されたほどのダメージもないのに。
それ以上に、襲われたことすらわからなかった。
ただの女に倒されてしまうとは、俺は流派の長だぞ。
さすがに渋い顔になってしまう。
そんなガラルドを取り残して、場は笑いに包まれ、異様に盛り上がっていた。
「大丈夫だよ、剣で刺しても死なんのだから」
「ここで試してみようか? 本当に刺さらないどころか、なまくらだったら折れちまうんだ」
恐ろしい事を口々に言いながらけしかけようとするので、バカ者どもがとガラルドはむかついた。
が、意外なところからダメ出しが出た。
「いくらなんでも刺されたら死にますわよ!」
ここは戦場ではないと、顔を真っ赤にして怒っている。
「ケガをしただけで痛いし、剣で刺すだなんて、冗談でもよして下さい!」
冗談でも性質が悪いと他の者たちを怒っているミレーヌに、ガラルドは衝撃を受けた。
この女、本気で言っている。
一度でも顔を合わせれば噂通りと言われてしまうガラルドのことが、かなり強いだけの普通の男に見えているようだ。
真実、剣豪だの英雄だの言われても、現実としてケガだってするし、病気にだってかかる。
英雄だの伝説だの人の噂などどうでもいいが、人外扱いされる日常は面白くない。
誰かにかばわれるなど初体験だった。
ミレーヌをマジマジと見つめる。
他人の意見や古い血に惑わされることなく、自分自身の感覚で当たり前に評価できる貴重な女。
普通の人間として接する事のできる唯一の女。
きっとこの女は、一生その感性が変わらない。
直感が閃いた。
この世界には、唯一無二の存在だ。
「結婚してくれ」
そこまでは記憶があったが意識も飛んでしまう。
ズキズキズキズキと、なんだか頭が痛い。
何が起こったのか、ガラルドはまったくわからなかった。
ウ~とうなって目を開ける。
横でシクシクと若い女が泣いていて、その横には老女がいた。
見慣れない顔だが、見覚えはあった。
このアライグマに似た女と福招きのばあさんは、新しく雇った家政婦だったかなぁと思いながら、ガラルドは頭に手をやった。
見事に腫れていて、これはタンコブじゃないかと非常に驚いた。
と、いうことは、何かがぶつかったのだ。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
女が繰り返しているので、どうやらこいつのせいらしい。
あたりをつけて記憶をたどったが、まったく身に覚えがなかった。
いったい何がどうしたんだ? と首をかしげる。
「冷やせば朝までには腫れも引きますからねぇ」
おお福招きが人の言葉をしゃべったと非常に驚いていたら、濡れたタオルを額にぺシャンとやられた。
「おいたがすぎましたねぇ」
ガラルドは珍しく言葉に詰まった。
幼児扱いをされても相手は年寄りだ。
確かにこのばあさんから見たら二十五歳の自分など子供だと納得してしまう。
かもしだされる雰囲気に目を細めた。
見た目に騙されそうになるが、普通の老婆とはとても思えない。
それが何から来る違和感か確かめる前に、不意に知っている声が届いた。
「このお二人が、サリ殿とミレーヌ様だよ」
「俺たちもいつも言ってるだろう? 来客もある玄関で服は脱ぐなって」
「今日から一緒に暮らすことになったぞ」
クックッとラルゴに肩を揺らして笑われて、ガラルドは眉根を寄せた。
服をポイポイ脱ぐことぐらい、魔具だの呪具の山に比べたら害がない。
なにが問題かさっぱりわからないが、ようやく意識がしっかりしてきた。
よく見たら隊員がベッド横に勢ぞろいしている。
ミレーヌ達とは反対側に、デュランやサガンなどの二つ名持ちが立ったり座ったりしていた。
ちなみに、部屋に入りきらなかった半分は面倒ごとを避けて、食堂へと移動している。
「なんで貴様ら五人がそろってるんだ?」
素朴な疑問を投げかける。
当たり前じゃないかと爆笑が返った。
「人生初の黒星の感想を聞こうと思ってな」
「見事にのびたじゃないか」
「ご婦人に失礼な口を聞くからだ」
「何が起きたか、わかってないだろう?」
おお、確かにわかっていないぞと思いながら、タンコブをなでた。
やはり本物である。
殺気も何もなかったのに、誰かに攻撃されたらしい。
まともに攻撃を受けた経験は、前奥義継承者との修行中まで遡る。
記憶も自覚もないことなど、生まれて初めての体験で呆然とする。
さすがにガラルドが無口でいると、ミレーヌが笑い転げている青年たちに喰ってかかった。
「もう! 笑い事じゃありませんのよ! 打ち所が悪ければ、どうなっていたことか!」
こんな大きなフライパンですのにと、愛用の品を握りしめる。
つい動転して持ってきてしまい、横の長椅子に座っている今も手にしている。
黒々と輝く巨大なフライパンが、ミレーヌと一緒にプルプルと震えていた。
そこでようやく、ガラルドは事態を理解した。
ミレーヌがフライパンを握りしめている図はシュールである。
玄関の出迎えになぜかフライパンを持っている妙な女だと思っていたが、寝室にまで持参するとは。
どこにでも持ち歩くのかとあきれてしまった。
しかし、アレでやられたのか。
武器とは呼べぬ武器であるが、想像以上のダメージである。
普通なら鉄甲で思い切り殴られたとしても、蚊に刺されたほどのダメージもないのに。
それ以上に、襲われたことすらわからなかった。
ただの女に倒されてしまうとは、俺は流派の長だぞ。
さすがに渋い顔になってしまう。
そんなガラルドを取り残して、場は笑いに包まれ、異様に盛り上がっていた。
「大丈夫だよ、剣で刺しても死なんのだから」
「ここで試してみようか? 本当に刺さらないどころか、なまくらだったら折れちまうんだ」
恐ろしい事を口々に言いながらけしかけようとするので、バカ者どもがとガラルドはむかついた。
が、意外なところからダメ出しが出た。
「いくらなんでも刺されたら死にますわよ!」
ここは戦場ではないと、顔を真っ赤にして怒っている。
「ケガをしただけで痛いし、剣で刺すだなんて、冗談でもよして下さい!」
冗談でも性質が悪いと他の者たちを怒っているミレーヌに、ガラルドは衝撃を受けた。
この女、本気で言っている。
一度でも顔を合わせれば噂通りと言われてしまうガラルドのことが、かなり強いだけの普通の男に見えているようだ。
真実、剣豪だの英雄だの言われても、現実としてケガだってするし、病気にだってかかる。
英雄だの伝説だの人の噂などどうでもいいが、人外扱いされる日常は面白くない。
誰かにかばわれるなど初体験だった。
ミレーヌをマジマジと見つめる。
他人の意見や古い血に惑わされることなく、自分自身の感覚で当たり前に評価できる貴重な女。
普通の人間として接する事のできる唯一の女。
きっとこの女は、一生その感性が変わらない。
直感が閃いた。
この世界には、唯一無二の存在だ。
「結婚してくれ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる