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「英雄のしつけかた」 2章 英雄と呼ばれる男
28. 特別な存在 1
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「変なばあさんだな」
ガラルドはぼやいた。
前奥義継承者のほかに、教育・師事を受けたことはない。
サラディンの妖怪婆もいるが、あれは指導とは呼べないだろう。経験のないガキだったから力業で押さえ込まれただけだ。
今ではそんな不覚をとることなどないが、国を一つ背負っているだけあって喰えない相手だった。
サリは師匠のように、色々なことをガラルドに指導する気らしい。
もっとも、師匠との学びは剣技や流派が中心だから、身体で覚えることが中心だった。
こうしてとつとつと教えを語られることは、いまだかつてない経験だ。
どうにも調子が狂って仕方ない。
まぁいいかと、ガラルドは立ち上がった。
「面倒なことは好かん。ついでだ。あの女も、ばあさんも大事にしてやるさ」
あれこれ考える必要はなく、一緒に暮らすと決めたならそれで十分だ。
年寄りにとって階段を降りるのは難儀だろうと、ひょいと抱きあげたらせっかちな子だとサリは笑った。
「あらあら、こんなおばあちゃんに。まぁ、心はあっても、マイナスだねぇ」
ペチペチと頬を軽く叩かれて、下ろすように言われたからガラルドは素直に従った。
おお猛獣使いだと言いかけたが、賢く他の五人は口を閉じた。
聞こえたら拗ねて面倒だ。
ガラルドを扱える存在が現れるなんて想定外だったから、内心ドキドキしながら成り行きを見守った。
「何が?」
カラルドはサリが何を気にしているか、本当にわかっていないようだった。
ちょいと待っておいでと言って、サリはタンスをゴソゴソと漁った。
中から新しいシャツとズボンを取り出した。
「部屋の外に出るなら、服ぐらい着てごらん」
まずはそこからだとサリは笑う。
そう。ガラルドは、いまだにパンツ一枚でいた。
帰宅してからずっとほぼ裸のままである。
「ちょっと降りて、すぐにここで寝るんだぞ」
本当に面倒くさいので嫌がった。
「おやおや、困った子だねぇ」
ガラルドは実に奇妙な顔をした。
ふざけたばあさんだと思いつつも、なんとなく気にいっていた。
同等の目線で話せるだけでなく、あれこれ世話を焼かれるのは実に新鮮である。
機嫌を損ねたくはないから、言うことを聞いてもいいかとも思う。
う~ん、と頭を悩ましている様子に、ちょっといいか? とキサルが問いかける。
「お前、いつもそれで寝てるのか?」
パンツ一枚で寝るには王都カナルは寒い気候ではあるし、ついこの間まではここにいる全員が旅に流れていたのだ。
野外のような武装はさすがにしなくても、最低限の服は身につけておかないと落ち着かない。
それが剣士としての普通だから、ガラルドの感性を疑った。
「当たり前だ。詰所に起きてる奴もいれば、この家にはお前らがいるんだ。俺のところまで来るのは、妖怪婆の魂魄ぐらいだろう?」
世界で一番安全なのだから裸でグーグー寝ることの何が悪いと、ガラルドは口をとがらせた。
でかい図体をした厳つい青年がすねても可愛くないので、デュランがため息をついた。
「信用してくれるのもいいが、問題だぞ?」
「なにが?」
「もしものときはどうするんだ?」
ウンウンと他の者も賛同する。
「いいか? 俺たちはあんたがどれだけ強いか知っているから、非常事態には自分のことだけしか考えない。面倒な奴が来たら、全部あんたに任せてもいいと思ってるぐらいだ」
強く言った。
それにこの館で何か事件が起きたのならば、無敵のガラルドなんてほっとく。
とうぜん非戦闘員の安全を最優先にして、ミレーヌとサリを保護しに動く。
そんなふうに叱られて、流派の長の家を襲うバカがいるかとガラルドは吐き捨てる。
俺を襲う根性があるやつがいるなら、その顔を拝みたいぐらいだと偉そうに言った。
「剣などなくてもどうにでもなるさ」
ベロベロと子供のように舌を出す。
「だいたい、俺は素手でも奥義技ぐらい打てるし、この格好でも困ることなど何もない」
すがすがしいほどに言いきった。
双剣があれば便利だが、身一つでもなんら変わりはないのだと胸をそらしている。
もっともな言い分のようにも聞こえるが、一斉に白い目が向けられた。
「だいたいな、賊が入るだけじゃないんだぞ」
「あんた、東流派の長で、双剣の要だぞ?」
「王や騎士団の緊急呼び出しや、異国の使者にパンツで出る気か?」
「賊よりは、そりゃそうとう問題が大きいぞ」
やんわりとたしなめられ、服ぐらい着る時間は待たせておけばいいと当たり前に返した。
「俺で不足か? いつでも代わる」
さっさと次の長を見つければいいだろう、などと不遜な態度だった。
性格的に向いていない自覚があるので、お前らが気にいった奴を連れてこいと、ひどく無責任な事をガラルドは口にする。
ガラルドはぼやいた。
前奥義継承者のほかに、教育・師事を受けたことはない。
サラディンの妖怪婆もいるが、あれは指導とは呼べないだろう。経験のないガキだったから力業で押さえ込まれただけだ。
今ではそんな不覚をとることなどないが、国を一つ背負っているだけあって喰えない相手だった。
サリは師匠のように、色々なことをガラルドに指導する気らしい。
もっとも、師匠との学びは剣技や流派が中心だから、身体で覚えることが中心だった。
こうしてとつとつと教えを語られることは、いまだかつてない経験だ。
どうにも調子が狂って仕方ない。
まぁいいかと、ガラルドは立ち上がった。
「面倒なことは好かん。ついでだ。あの女も、ばあさんも大事にしてやるさ」
あれこれ考える必要はなく、一緒に暮らすと決めたならそれで十分だ。
年寄りにとって階段を降りるのは難儀だろうと、ひょいと抱きあげたらせっかちな子だとサリは笑った。
「あらあら、こんなおばあちゃんに。まぁ、心はあっても、マイナスだねぇ」
ペチペチと頬を軽く叩かれて、下ろすように言われたからガラルドは素直に従った。
おお猛獣使いだと言いかけたが、賢く他の五人は口を閉じた。
聞こえたら拗ねて面倒だ。
ガラルドを扱える存在が現れるなんて想定外だったから、内心ドキドキしながら成り行きを見守った。
「何が?」
カラルドはサリが何を気にしているか、本当にわかっていないようだった。
ちょいと待っておいでと言って、サリはタンスをゴソゴソと漁った。
中から新しいシャツとズボンを取り出した。
「部屋の外に出るなら、服ぐらい着てごらん」
まずはそこからだとサリは笑う。
そう。ガラルドは、いまだにパンツ一枚でいた。
帰宅してからずっとほぼ裸のままである。
「ちょっと降りて、すぐにここで寝るんだぞ」
本当に面倒くさいので嫌がった。
「おやおや、困った子だねぇ」
ガラルドは実に奇妙な顔をした。
ふざけたばあさんだと思いつつも、なんとなく気にいっていた。
同等の目線で話せるだけでなく、あれこれ世話を焼かれるのは実に新鮮である。
機嫌を損ねたくはないから、言うことを聞いてもいいかとも思う。
う~ん、と頭を悩ましている様子に、ちょっといいか? とキサルが問いかける。
「お前、いつもそれで寝てるのか?」
パンツ一枚で寝るには王都カナルは寒い気候ではあるし、ついこの間まではここにいる全員が旅に流れていたのだ。
野外のような武装はさすがにしなくても、最低限の服は身につけておかないと落ち着かない。
それが剣士としての普通だから、ガラルドの感性を疑った。
「当たり前だ。詰所に起きてる奴もいれば、この家にはお前らがいるんだ。俺のところまで来るのは、妖怪婆の魂魄ぐらいだろう?」
世界で一番安全なのだから裸でグーグー寝ることの何が悪いと、ガラルドは口をとがらせた。
でかい図体をした厳つい青年がすねても可愛くないので、デュランがため息をついた。
「信用してくれるのもいいが、問題だぞ?」
「なにが?」
「もしものときはどうするんだ?」
ウンウンと他の者も賛同する。
「いいか? 俺たちはあんたがどれだけ強いか知っているから、非常事態には自分のことだけしか考えない。面倒な奴が来たら、全部あんたに任せてもいいと思ってるぐらいだ」
強く言った。
それにこの館で何か事件が起きたのならば、無敵のガラルドなんてほっとく。
とうぜん非戦闘員の安全を最優先にして、ミレーヌとサリを保護しに動く。
そんなふうに叱られて、流派の長の家を襲うバカがいるかとガラルドは吐き捨てる。
俺を襲う根性があるやつがいるなら、その顔を拝みたいぐらいだと偉そうに言った。
「剣などなくてもどうにでもなるさ」
ベロベロと子供のように舌を出す。
「だいたい、俺は素手でも奥義技ぐらい打てるし、この格好でも困ることなど何もない」
すがすがしいほどに言いきった。
双剣があれば便利だが、身一つでもなんら変わりはないのだと胸をそらしている。
もっともな言い分のようにも聞こえるが、一斉に白い目が向けられた。
「だいたいな、賊が入るだけじゃないんだぞ」
「あんた、東流派の長で、双剣の要だぞ?」
「王や騎士団の緊急呼び出しや、異国の使者にパンツで出る気か?」
「賊よりは、そりゃそうとう問題が大きいぞ」
やんわりとたしなめられ、服ぐらい着る時間は待たせておけばいいと当たり前に返した。
「俺で不足か? いつでも代わる」
さっさと次の長を見つければいいだろう、などと不遜な態度だった。
性格的に向いていない自覚があるので、お前らが気にいった奴を連れてこいと、ひどく無責任な事をガラルドは口にする。
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