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「英雄のしつけかた」 2章 英雄と呼ばれる男
27. ガラルドとサリ 2
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「おまえさんたち、王都はしんどいだろう?」
サリはガラルドだけでなく、部屋の中にいる青年たち全員を見回した。
ガラルド以外は小さく肩をすくめた。
環境に馴染めるかどうかの表面的な問題ではなく、自らの異質さが浮き上がるのだ。
自然に同化するには時間がかりそうだった。
流れて歩く普通の双剣持ちならともかく、自分たちは流派を担っている。
立場だけでなく、同じ流派の者といても異質さは隠せない。
馴染もうとすれば、心身に負荷がかかるのはいたしかたない事だった。
並大抵の覚悟では、王都に暮らすのは困難だった。
だが、ガラルドだけは憮然とする。
サリが何を言いたいか、理解はしている。
偶然出てくる古い血は遺伝でも何でもなく偶然の先祖返りらしいが、ガラルドだけでなくこの部屋にいる 五人も並外れて濃い血を持っている。
この部屋にいない他の五人も同じだ。
一般市民と似た日常生活を送ることは、かなり無理をして自分の力を押さえなくてはいけないので不自由だった。
だからといって、ハイハイそのとおりですから誰か助けてくださいと、簡単に泣き言を出せない理由もあった。
「ばあさん、俺たちは流派の中では広告塔だ。普通の人でいてはいかんのだ。これぐらいでちょうどいいんだよ」
やっぱりあの人たちは違うのよね、と距離を置かれているぐらいでちょうどいい。
力を持て余している不自由な本音なんて二の次だ。
しんどいしんどい、もう嫌だなんて、絶対に口にしてはいけないのだ。
「だけどねぇ、もうわかっているだろう? 旅を捨てて、王都を選んだんだからねぇ?」
能力は今以上の物を突き詰めて研ぎ澄ましていく必要がある。
けれど、暮らしや日常は一般市民に同化していくことを求められる。
「王都に来たからには、そう簡単には出ていけないよ」
ガラルドはガリガリと頭をかいた。
やはり、ただの年寄りではないと思った。
今は王都民でも、街道も未発達な頃や戦争も多い時期に旅慣れているせいか、世局を読むことも得意らしい。
神殿と共存している西流派と違い、歴史上は国策と真っ向から立ち向かう事が多かった東流派にとって、王都カナルは居心地の悪い場所でもある。
王権とのきわどい駆け引きや、流派としてこの地になじむまでや、相当の苦労があるのは仕方のない事だった。
それでも共存することを選んだのだ。
前例もないことだし、どう暮らすかは試行錯誤中でもある。
「チッ頭のいい女は嫌われるぞ。さっきのアライグマぐらい、頭も勘も鈍いぐらいで丁度いいんだ」
立派な都民を目指せ、程度の浅い悪態で納めろとぼやく。裏に隠れている事情はともあれ、目指すところは同じなのだから、こまごまと面倒なことを考えなくてすむ。
言葉を尽くして流派の心得を一般民に説明するなど、無意味だし疲れる。
立派な市民とやらに同化することが目的なのだから、理屈など飛び越えたところでお互いの行動利害が一致すれば楽でいい。
利口でもないが、愚かでもないなら、それでいいのだ。
考えれば考えるほど、ミレーヌはガラルドの好みにはまっている。
実にいい、と呟く。
「おやおや、おまえさん。あの子のことまでわかっているのかい?」
サリは笑った。
「鈍いんじゃないよ。ミレーヌは古い力にまったく影響されない生れなのさ。それこそ、遺跡だろうが封印だろうが、あの子には何の意味もないんだよ。あんたたちみたいな濃い血を持つ御人ほど、見慣れない反応に驚くだろうさ」
非常におかしそうだった。
「あの子はねぇ、普通の生まれなのに古い血にも惑わされない。不思議な星に生まれついてねぇ~あんたたちの濃すぎる血だって気にしない。それこそ太陽みたいな子なんだ」
サリは可愛い孫を思い出して目を細めた。
持って生まれた特性だけでなく、明るい性格がそれを強化している。
おかげで、共に暮らしても私の能力に気付かないと、サリはからかうようにガラルドを見た。
こぉんな年寄りにはあまり時間は残ってないけどねぇと、さほどの感慨もなくつぶやく。
「私がおさらばすれば、ミレーヌがいるよ? あの子はあんたに丁度いい。大事にしておくれ」
「う~ん、なんだか丸め込まれそうだ」
サリはガラルドだけでなく、部屋の中にいる青年たち全員を見回した。
ガラルド以外は小さく肩をすくめた。
環境に馴染めるかどうかの表面的な問題ではなく、自らの異質さが浮き上がるのだ。
自然に同化するには時間がかりそうだった。
流れて歩く普通の双剣持ちならともかく、自分たちは流派を担っている。
立場だけでなく、同じ流派の者といても異質さは隠せない。
馴染もうとすれば、心身に負荷がかかるのはいたしかたない事だった。
並大抵の覚悟では、王都に暮らすのは困難だった。
だが、ガラルドだけは憮然とする。
サリが何を言いたいか、理解はしている。
偶然出てくる古い血は遺伝でも何でもなく偶然の先祖返りらしいが、ガラルドだけでなくこの部屋にいる 五人も並外れて濃い血を持っている。
この部屋にいない他の五人も同じだ。
一般市民と似た日常生活を送ることは、かなり無理をして自分の力を押さえなくてはいけないので不自由だった。
だからといって、ハイハイそのとおりですから誰か助けてくださいと、簡単に泣き言を出せない理由もあった。
「ばあさん、俺たちは流派の中では広告塔だ。普通の人でいてはいかんのだ。これぐらいでちょうどいいんだよ」
やっぱりあの人たちは違うのよね、と距離を置かれているぐらいでちょうどいい。
力を持て余している不自由な本音なんて二の次だ。
しんどいしんどい、もう嫌だなんて、絶対に口にしてはいけないのだ。
「だけどねぇ、もうわかっているだろう? 旅を捨てて、王都を選んだんだからねぇ?」
能力は今以上の物を突き詰めて研ぎ澄ましていく必要がある。
けれど、暮らしや日常は一般市民に同化していくことを求められる。
「王都に来たからには、そう簡単には出ていけないよ」
ガラルドはガリガリと頭をかいた。
やはり、ただの年寄りではないと思った。
今は王都民でも、街道も未発達な頃や戦争も多い時期に旅慣れているせいか、世局を読むことも得意らしい。
神殿と共存している西流派と違い、歴史上は国策と真っ向から立ち向かう事が多かった東流派にとって、王都カナルは居心地の悪い場所でもある。
王権とのきわどい駆け引きや、流派としてこの地になじむまでや、相当の苦労があるのは仕方のない事だった。
それでも共存することを選んだのだ。
前例もないことだし、どう暮らすかは試行錯誤中でもある。
「チッ頭のいい女は嫌われるぞ。さっきのアライグマぐらい、頭も勘も鈍いぐらいで丁度いいんだ」
立派な都民を目指せ、程度の浅い悪態で納めろとぼやく。裏に隠れている事情はともあれ、目指すところは同じなのだから、こまごまと面倒なことを考えなくてすむ。
言葉を尽くして流派の心得を一般民に説明するなど、無意味だし疲れる。
立派な市民とやらに同化することが目的なのだから、理屈など飛び越えたところでお互いの行動利害が一致すれば楽でいい。
利口でもないが、愚かでもないなら、それでいいのだ。
考えれば考えるほど、ミレーヌはガラルドの好みにはまっている。
実にいい、と呟く。
「おやおや、おまえさん。あの子のことまでわかっているのかい?」
サリは笑った。
「鈍いんじゃないよ。ミレーヌは古い力にまったく影響されない生れなのさ。それこそ、遺跡だろうが封印だろうが、あの子には何の意味もないんだよ。あんたたちみたいな濃い血を持つ御人ほど、見慣れない反応に驚くだろうさ」
非常におかしそうだった。
「あの子はねぇ、普通の生まれなのに古い血にも惑わされない。不思議な星に生まれついてねぇ~あんたたちの濃すぎる血だって気にしない。それこそ太陽みたいな子なんだ」
サリは可愛い孫を思い出して目を細めた。
持って生まれた特性だけでなく、明るい性格がそれを強化している。
おかげで、共に暮らしても私の能力に気付かないと、サリはからかうようにガラルドを見た。
こぉんな年寄りにはあまり時間は残ってないけどねぇと、さほどの感慨もなくつぶやく。
「私がおさらばすれば、ミレーヌがいるよ? あの子はあんたに丁度いい。大事にしておくれ」
「う~ん、なんだか丸め込まれそうだ」
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