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「英雄のしつけかた」 3章 死神と呼ばれる少年
52. 今わかること 2
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しかし、ほんの偶然で誘拐されたにしては、ミレーヌはやけに綺麗に痕跡を断っていた。
「なんだ? ないないづくしじゃないか。だが、帰ってこんぞ。訳がわからんな。王都ばかりで退屈になって、隣町でも買い物に出たか?」
「勝手なあんたと一緒にするな」
ム~とガラルドが首をひねったら、街道に出ていたサガンがポコンと頭をはたく。
「少し黙ってろ。あんたが口を開くと話が長引くだろ? ひとつ、興味深い話があった」
パッと視線が集中する。
「直接は流派にもガラルドにも関係ないことだ」
前置きして、傭兵の仕事をあっせんしているギルドに顔を出して聞いた話を始めた。
最近、大街道周辺の魔物や野盗の討伐の成果が、非常に上がっている。
それぞれの件は違う傭兵が仕切って報酬を受け取っているが、大きな魔物狩りや野盗の大物の首を取ってきた連中は、ひいき目に見てもそんな力がない奴ばかりだった。
かといって証拠もそろっているし討伐も完了しているので、報酬を払わない理由もない。
「で、裏を取ったら直接狩った奴は別にいた。この国では未成年だからギルドに登録できないってのもあるが、他国でも他の奴を使って、自分はほとんど表に出ない。ずっとヴィゼラルやスカルロードを流れていた小僧だ」
おやおやとそろって眉根を寄せた。
「小僧ってことは、限られるな。キラービーとビッグフットと死神ぐらいだろう?」
「だとしたら死神だな」
他の二人は自分の名で仕事を取るので、成人までのあと数年はカナルディア国に足を踏み入れる可能性が低い。
それに名前を上げようと派手な狩りも多いのだ。
噂にほとんど上らず姿もつかませない少年となると、消去法で残るは死神だけだ。
「御明察だ。一件だけ死神の名が出た」
報酬を偽って上前をはねようとした連中が、丸裸にされ簀巻きで隣町の中央公園に吊るされた。
もっとも、吊るされた連中は子供にやられたと言いづらかったらしい。
警備団には酔ってケンカに負けたとか何とか取り繕っていたようだが、後から経緯を酒場でこぼしていたらしい。
「一つだけでも死神の名前をよく見つけたな」と褒められて、わざと残したんじゃないのか? とサガンは肩をすくめた。
「賢い坊主だぞ。あいつは法にも詳しくて、犯罪にはこれっぽっちも関わらず、表向きは綺麗なもんだ。色々やってるはずだが、他は尻尾もつかめん」
盗みはせず、殺すのは殺傷許可の出ている人間だけ。
魔物も妖物も討伐申請のあるモノか、後から討伐許可の取れる案件だけ。
ギルドにも流派にも傭兵にも、どこにも属していない。
恐ろしいほど殺しまくっておきながら、一件も法や条約に引っかかったことがないのだ。
それが死神と呼ばれる由縁だ。
ただ、退屈を持て余しているのか、趣味の悪い遊びをする。
はしっこい子供を装って盗賊団などにもぐりこんで、現場を警備団に知らせてその捕り物の手際を観察する。
表向きは世の助けにはなっているが、まるで気まぐれな神の遊戯に似た趣味の悪さがある。
「今回の誘拐は犯罪だぞ? 別口の可能性は?」
死神にしてはアプローチが珍しいと突っ込まれて、まぁなと答える。
「初犯の未成年だからじゃないか? 身柄が無事ですぐ返せば、刑として禁錮なら一週間程度と、一カ月の保護観察処分だろ? 大したことじゃない」
東の国は法の順守が基本にある。
細分化されていて、覚えるのが面倒なほどだ。
場違いかもしれないが、一同は少し安心する。
予想通り死神がさらったのなら、ミレーヌは元気でピンピンしているだけでなく、安全な状態ですごしているはずだった。
例えば、逃走に失敗して死神が捕まったとしよう。
「剣豪や英雄とまで呼ばれる人の私生活を、家政婦さんなら知っているはずだから、ゆっくり話したかっただけなんだよ」
などと、憐れっぽく演技しそうな小僧なのだ。
名前は売れていても法ではただの子供だと、腹の底では舌を出しながら「ごめんなさい」と謝罪を口にして、涙ぐらい当たり前に流すだろう。
もちろん心の中ではベロベロと舌を振り回して嘲笑しているし、この程度なら法では軽罪だとぬかりもなさそうだ。
明日か明後日にはミレーヌ様を解放する気だろうさと、面白くなさそうにサガンは告げた。
「死神がすぐ返す気なら、無視するか?」
ほっとくのも心が痛むが、かまうとたびたび遊びに誘われそうだと迷惑そうな顔を作るので、それがなぁとラルゴとサガンが顔を見合わせた。
もっと厄介なことが眠っているとわかる表情だった。
「なんだ? ないないづくしじゃないか。だが、帰ってこんぞ。訳がわからんな。王都ばかりで退屈になって、隣町でも買い物に出たか?」
「勝手なあんたと一緒にするな」
ム~とガラルドが首をひねったら、街道に出ていたサガンがポコンと頭をはたく。
「少し黙ってろ。あんたが口を開くと話が長引くだろ? ひとつ、興味深い話があった」
パッと視線が集中する。
「直接は流派にもガラルドにも関係ないことだ」
前置きして、傭兵の仕事をあっせんしているギルドに顔を出して聞いた話を始めた。
最近、大街道周辺の魔物や野盗の討伐の成果が、非常に上がっている。
それぞれの件は違う傭兵が仕切って報酬を受け取っているが、大きな魔物狩りや野盗の大物の首を取ってきた連中は、ひいき目に見てもそんな力がない奴ばかりだった。
かといって証拠もそろっているし討伐も完了しているので、報酬を払わない理由もない。
「で、裏を取ったら直接狩った奴は別にいた。この国では未成年だからギルドに登録できないってのもあるが、他国でも他の奴を使って、自分はほとんど表に出ない。ずっとヴィゼラルやスカルロードを流れていた小僧だ」
おやおやとそろって眉根を寄せた。
「小僧ってことは、限られるな。キラービーとビッグフットと死神ぐらいだろう?」
「だとしたら死神だな」
他の二人は自分の名で仕事を取るので、成人までのあと数年はカナルディア国に足を踏み入れる可能性が低い。
それに名前を上げようと派手な狩りも多いのだ。
噂にほとんど上らず姿もつかませない少年となると、消去法で残るは死神だけだ。
「御明察だ。一件だけ死神の名が出た」
報酬を偽って上前をはねようとした連中が、丸裸にされ簀巻きで隣町の中央公園に吊るされた。
もっとも、吊るされた連中は子供にやられたと言いづらかったらしい。
警備団には酔ってケンカに負けたとか何とか取り繕っていたようだが、後から経緯を酒場でこぼしていたらしい。
「一つだけでも死神の名前をよく見つけたな」と褒められて、わざと残したんじゃないのか? とサガンは肩をすくめた。
「賢い坊主だぞ。あいつは法にも詳しくて、犯罪にはこれっぽっちも関わらず、表向きは綺麗なもんだ。色々やってるはずだが、他は尻尾もつかめん」
盗みはせず、殺すのは殺傷許可の出ている人間だけ。
魔物も妖物も討伐申請のあるモノか、後から討伐許可の取れる案件だけ。
ギルドにも流派にも傭兵にも、どこにも属していない。
恐ろしいほど殺しまくっておきながら、一件も法や条約に引っかかったことがないのだ。
それが死神と呼ばれる由縁だ。
ただ、退屈を持て余しているのか、趣味の悪い遊びをする。
はしっこい子供を装って盗賊団などにもぐりこんで、現場を警備団に知らせてその捕り物の手際を観察する。
表向きは世の助けにはなっているが、まるで気まぐれな神の遊戯に似た趣味の悪さがある。
「今回の誘拐は犯罪だぞ? 別口の可能性は?」
死神にしてはアプローチが珍しいと突っ込まれて、まぁなと答える。
「初犯の未成年だからじゃないか? 身柄が無事ですぐ返せば、刑として禁錮なら一週間程度と、一カ月の保護観察処分だろ? 大したことじゃない」
東の国は法の順守が基本にある。
細分化されていて、覚えるのが面倒なほどだ。
場違いかもしれないが、一同は少し安心する。
予想通り死神がさらったのなら、ミレーヌは元気でピンピンしているだけでなく、安全な状態ですごしているはずだった。
例えば、逃走に失敗して死神が捕まったとしよう。
「剣豪や英雄とまで呼ばれる人の私生活を、家政婦さんなら知っているはずだから、ゆっくり話したかっただけなんだよ」
などと、憐れっぽく演技しそうな小僧なのだ。
名前は売れていても法ではただの子供だと、腹の底では舌を出しながら「ごめんなさい」と謝罪を口にして、涙ぐらい当たり前に流すだろう。
もちろん心の中ではベロベロと舌を振り回して嘲笑しているし、この程度なら法では軽罪だとぬかりもなさそうだ。
明日か明後日にはミレーヌ様を解放する気だろうさと、面白くなさそうにサガンは告げた。
「死神がすぐ返す気なら、無視するか?」
ほっとくのも心が痛むが、かまうとたびたび遊びに誘われそうだと迷惑そうな顔を作るので、それがなぁとラルゴとサガンが顔を見合わせた。
もっと厄介なことが眠っているとわかる表情だった。
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