51 / 83
「英雄のしつけかた」 3章 死神と呼ばれる少年
51. 今わかること 1
しおりを挟む
夕闇が迫る頃。
詰所に五人が戻ってきた。
ソファーでグーグー寝ているガラルドに気がつくと、さすがに全員がムッとした。
「それで留守番のつもりか!」
ラルゴが怒りのままボディープレスをかける。
「いくらやることがないからって、誰がそこまでだらけていいと言った! え? ふざけるなよ!」
「人が来れば嫌でも目が覚めるぞ! 休めるときに休んで何が悪い!」
トウッとラルゴを投げ返してガラルドが堂々と胸を張るので、全員が白い眼を向けた。
それぞれ王都内やその外をかけずり回って、休む暇もなかったのだ。
遠征直後なので寝たい気持ちも理解できるが、目の前でやられるとさすがに気分が悪い。
どこまで自己中心的なんだとムカついていた。
「あ~わかったわかった。俺が悪かった。ほんのちょっとのつもりが、あんまり気持ちよくて本気で寝てしまったんだ。で、どうだった?」
ボサボサになった頭髪を手でなでつけながら、大きなあくび交じりである。
「こりゃだめだ」
「まったく反省してないな」
そろってブツブツ言いながらも、届かない説教に時間を割くのは無駄な気がする。
「サリ殿は?」
デュランが聞いた。
揺りイスはあるけれど姿が見えない。
「おお、こっちは冷えるからな。ライナに泊るよう頼んで、あのどでかい来客部屋にお二人様だ。ばあさん同士で今夜は仲良く添い寝できるように、用意はしといた」
国賓も泊まるキングサイズのベッドを提供し、三食食ってよく寝ろと言えば年寄りらしく二人とも素直に従う。
「たぶん大丈夫だ」
耳をいじっているガラルドに、あんたにしちゃ気が利いてると、とりあえずみんなが褒めた。
何よりライナに宿泊を頼んだのは異例の気の回し方だ。
ハッハッハッとガラルドはこの留守番がまんざらでもなかったのか、とても楽しそうだった。
「サリは賢いからな。心配顔でウロウロしてると俺らの気が散るとか、よけいな気を遣わせると思っているんだろうよ。いいばあさんだ」
それでもここを使えと客間を開けると、二人とも目が点になっておかしかったぞと笑った。
そりゃそうだろうよ、と全員がそろって思ったが、賢く口を閉じた。
国賓クラスの外交仕様だし金糸銀糸も使われた高級な寝具なので、見慣れない者からしたら宝飾に埋もれるようなものだ。
一般人の感覚では場違いな場所だろう。
少しでも汚したらどうしようと、今頃は二人ともビクビクして青ざめているに違いない。
嫌がらせか? と聞くのもやめた。
一番いい部屋にと気を配ったつもりなのだから、水を差してはいけないだろう。
黙っているのも疲れるが、口を開いて疲れるのはもっと遠慮したかった。
ハァッとキサルは大きなため息をついた。
またどこかに消えていて、探しまわるはめになると思っていたのだ。
だから「良くできました」とちょっとだけ褒めた。
心がこもらなかったのは仕方ないだろう。
「まぁあんたに留守番ができただけでも上出来だよ。ばあさん二人の相手をして、昼寝をしてたなら、勝手にお出かけしてるよりマシだ」
まぁなとガラルドはうなずいた。
「お友達や仲間だとサリが言っていたからな。出るのはやめた」
「は?」
訳がわからなかった。
「まだ寝ぼけてんのか?」
「何の話だ?」
「だいたい出かけたって、おっそろしく目立つ熊には何もできないだろうが」
「バカじゃないのか?」とそろって口をそろえられ、ガラルドは座りなおした。
「そこだ。お仲間は待ってりゃいい。で、どうだった?」
訳のわからん奴だと、そろって頭を悩ませた。
説明をしているつもりだろうが足りていないので、何の話かさっぱりわからない。
「自分だけで納得しやがって」と皆がブツブツと文句を垂れたが、ガラルドなりに何か心境の変化があったことは理解した。
大人しく待っていたなら悪い変化ではないし、そのままにしておくに限る。
気味が悪くても、いい事に違いなかった。
後でサリにでも詳しく聞こうと思いながら、それぞれ持って帰ってきた情報の交換を始めた。
王都の中には特別な動きはまったくなかった。
ミレーヌの姿を最後に見たのは商店街の人間で、大通りに出てすぐぷっつりと姿を消した。
とりあえず調べてみた中で、個人的にサリやミレーヌが恨みを買っている話や、トラブルに巻き込まれる要因は一つもなかった。
それに誘拐される程の巨大な資産も、目のくらむような美貌もない。
第三者的視点から見て、ミレーヌには価値がないのはハッキリしていた。
大輪の薔薇ならともかく、コロコロしたアライグマでは誘拐のリスクが大きすぎる。
次は流派がらみと予想したが、多国間の和平条約が再度締結されたばかりなので、異国の間者も直接ガラルドへ手を出すのは控えている。
不安定な情勢だからこそ、国際問題に発展する動きはまったくないと結論付けてかまわない。
国王と流派との親密度が上がったことを快く思っていない輩もいる。
だが、利害を考えれば互いに損はないので、国内の抵抗勢力も今は身を潜めている。
それこそ水面下の動きだけだ。
流派へもガラルド個人へも、対抗する大きな動きは、今のところない。
むしろこのタイミングでちょっかいをかけることを、慎重なほど周囲が控えている。
結論。
ガラルドに対して手を出す者はいない。
詰所に五人が戻ってきた。
ソファーでグーグー寝ているガラルドに気がつくと、さすがに全員がムッとした。
「それで留守番のつもりか!」
ラルゴが怒りのままボディープレスをかける。
「いくらやることがないからって、誰がそこまでだらけていいと言った! え? ふざけるなよ!」
「人が来れば嫌でも目が覚めるぞ! 休めるときに休んで何が悪い!」
トウッとラルゴを投げ返してガラルドが堂々と胸を張るので、全員が白い眼を向けた。
それぞれ王都内やその外をかけずり回って、休む暇もなかったのだ。
遠征直後なので寝たい気持ちも理解できるが、目の前でやられるとさすがに気分が悪い。
どこまで自己中心的なんだとムカついていた。
「あ~わかったわかった。俺が悪かった。ほんのちょっとのつもりが、あんまり気持ちよくて本気で寝てしまったんだ。で、どうだった?」
ボサボサになった頭髪を手でなでつけながら、大きなあくび交じりである。
「こりゃだめだ」
「まったく反省してないな」
そろってブツブツ言いながらも、届かない説教に時間を割くのは無駄な気がする。
「サリ殿は?」
デュランが聞いた。
揺りイスはあるけれど姿が見えない。
「おお、こっちは冷えるからな。ライナに泊るよう頼んで、あのどでかい来客部屋にお二人様だ。ばあさん同士で今夜は仲良く添い寝できるように、用意はしといた」
国賓も泊まるキングサイズのベッドを提供し、三食食ってよく寝ろと言えば年寄りらしく二人とも素直に従う。
「たぶん大丈夫だ」
耳をいじっているガラルドに、あんたにしちゃ気が利いてると、とりあえずみんなが褒めた。
何よりライナに宿泊を頼んだのは異例の気の回し方だ。
ハッハッハッとガラルドはこの留守番がまんざらでもなかったのか、とても楽しそうだった。
「サリは賢いからな。心配顔でウロウロしてると俺らの気が散るとか、よけいな気を遣わせると思っているんだろうよ。いいばあさんだ」
それでもここを使えと客間を開けると、二人とも目が点になっておかしかったぞと笑った。
そりゃそうだろうよ、と全員がそろって思ったが、賢く口を閉じた。
国賓クラスの外交仕様だし金糸銀糸も使われた高級な寝具なので、見慣れない者からしたら宝飾に埋もれるようなものだ。
一般人の感覚では場違いな場所だろう。
少しでも汚したらどうしようと、今頃は二人ともビクビクして青ざめているに違いない。
嫌がらせか? と聞くのもやめた。
一番いい部屋にと気を配ったつもりなのだから、水を差してはいけないだろう。
黙っているのも疲れるが、口を開いて疲れるのはもっと遠慮したかった。
ハァッとキサルは大きなため息をついた。
またどこかに消えていて、探しまわるはめになると思っていたのだ。
だから「良くできました」とちょっとだけ褒めた。
心がこもらなかったのは仕方ないだろう。
「まぁあんたに留守番ができただけでも上出来だよ。ばあさん二人の相手をして、昼寝をしてたなら、勝手にお出かけしてるよりマシだ」
まぁなとガラルドはうなずいた。
「お友達や仲間だとサリが言っていたからな。出るのはやめた」
「は?」
訳がわからなかった。
「まだ寝ぼけてんのか?」
「何の話だ?」
「だいたい出かけたって、おっそろしく目立つ熊には何もできないだろうが」
「バカじゃないのか?」とそろって口をそろえられ、ガラルドは座りなおした。
「そこだ。お仲間は待ってりゃいい。で、どうだった?」
訳のわからん奴だと、そろって頭を悩ませた。
説明をしているつもりだろうが足りていないので、何の話かさっぱりわからない。
「自分だけで納得しやがって」と皆がブツブツと文句を垂れたが、ガラルドなりに何か心境の変化があったことは理解した。
大人しく待っていたなら悪い変化ではないし、そのままにしておくに限る。
気味が悪くても、いい事に違いなかった。
後でサリにでも詳しく聞こうと思いながら、それぞれ持って帰ってきた情報の交換を始めた。
王都の中には特別な動きはまったくなかった。
ミレーヌの姿を最後に見たのは商店街の人間で、大通りに出てすぐぷっつりと姿を消した。
とりあえず調べてみた中で、個人的にサリやミレーヌが恨みを買っている話や、トラブルに巻き込まれる要因は一つもなかった。
それに誘拐される程の巨大な資産も、目のくらむような美貌もない。
第三者的視点から見て、ミレーヌには価値がないのはハッキリしていた。
大輪の薔薇ならともかく、コロコロしたアライグマでは誘拐のリスクが大きすぎる。
次は流派がらみと予想したが、多国間の和平条約が再度締結されたばかりなので、異国の間者も直接ガラルドへ手を出すのは控えている。
不安定な情勢だからこそ、国際問題に発展する動きはまったくないと結論付けてかまわない。
国王と流派との親密度が上がったことを快く思っていない輩もいる。
だが、利害を考えれば互いに損はないので、国内の抵抗勢力も今は身を潜めている。
それこそ水面下の動きだけだ。
流派へもガラルド個人へも、対抗する大きな動きは、今のところない。
むしろこのタイミングでちょっかいをかけることを、慎重なほど周囲が控えている。
結論。
ガラルドに対して手を出す者はいない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる