今日も黒熊日和 ~ 英雄たちの還る場所 ~

真朱マロ

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「英雄のしつけかた」 4章 カッシュ要塞

58. そういえば人質でした 2

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 そうこうしている間に、建物の中央にある高い塔のような場所にたどりついた。
 熊を五頭は詰め込めそうな、鳥かごに似た巨大な檻が三つほどあった。
 こっちこっちとオルランドに手招かれて、ミレーヌはその中の一つに入った。
 ど真ん中に支柱のような柱がある。

 ミレーヌがおっかなびっくりのまま中に入ると、本当に鳥かごとしか思えなかった。
 サイズ的に、自分が小鳥になった気がする。
 古い物らしいが鋼鉄でできていて、やけに頑丈なつくりだ。

「いい? この真ん中の柱にしがみついてないと、危ないからね? 外枠に近づいたりしたら、死んじゃうから。ちゃんといい子にしているんだよ?」

「わたくし、死ぬんですの?」
 物騒なオルランドの言葉を受けて、ミレーヌはとてつもなく不安な顔になる。
「人質だから仕方ありませんわね」
 ボソボソとミレーヌはつぶやきながらも、ウルウルと瞳を潤ませてしまう。
 上目遣いのすがる目に、オルランドはつい後ずさった。

「いや、ちゃんと柱にしがみついてたら平気だよ? うん、たぶんね」
「たぶん、ですの?」
 助けて~助けて~とエンドレスに続く声にならないお願いが、ミレーヌの顔に書いてある。

 なぜか気持ちが揺らいでしまった。
 お姉さんでも怖いの? なんて普段なら笑い飛ばすのだけど……そんな雰囲気ではなかった。

 どうでもいい、なんて言えない。
 オルランドは一つため息をついてカバンからロープを取り出した。

「……仕方ないなぁ」
 支柱とミレーヌの胴を縛った。
 これで少々のことでは支柱から離れないと、強度も確かめている。

 檻の作りももう一回、丁寧に調べなおした。
 古びているが、頑強な檻は不具合一つない。

「これでよし。できるだけ口を閉じて、静かにしておくんだよ? わかった?」
 そしてミレーヌの言葉が聞こえるのが悪いのだとばかりに、耳栓を取り出してそれをはめた。
 よし聞こえない、などと満足げな顔になる。

「大人しくしておかないとどうなっても知らないよ」と、とりあえず付け足した。
 勝手なことをすると本当に危ないのだと念を押されて、ミレーヌの不安が増した。
「危なくなったら、助けて下さるんでしょう?」

 不安げなミレーヌのまなざしに、かすかに笑っただけでオルランドは檻の外に出た。
 扉を閉めると、厳重に封をする。
 力いっぱい揺らしても扉の金具が外れないことを確かめ、ヨシヨシと一人でうなずきながら納得すると檻から離れていった。

 ミレーヌが何を問いかけても、耳栓をしたままのオルランドから返事はなかった。
 ただ、どことなく楽しそうだった。
 なにをしているのか、ミレーヌにはさっぱりわからない。

 セッセと手を動かしてオルランドは作業をすすめ、壁から突き出ていた木の杭をグイッと下に引いた。
 ガラガラと仕掛けの放つ重い音がする。
 絡みあうように響き始めた金属音が、壁の中で無数に動いているのがわかった。

 ガタン! と不意に檻が揺れたので、ミレーヌは支柱にしがみついた。
 ゆっくりと外に向かって動き出す。
 次第に速度を増しながらスライドし、斜めに傾いた檻に向かって、オルランドは手をふった。

「ここから先はお姉さんの運次第だよ? お迎えが来るまで頑張りな。グッドラック!」

 バイバイ♪ と陽気な口調を、ミレーヌは最後まで聞くことはできなかった。
 ゴトッと大きな音を立てて、檻が空中へと投げだされる。
 キャーッ! とミレーヌは大きな悲鳴を上げた。

 地面には落ちなかったけれど。
 ブラブラと左右に激しく揺れて、空中に吊り下げられていた。
 高速で左右に揺れ続けるため、イヤーッとミレーヌは叫んだ。
 ヒシッと支柱にコアラのごとくしがみつく。

「オルランド~っ! 助けて~いやぁ~っ!」

 こんな重くて大きな檻を吊るす鎖や金具が、どれだけ頑丈なのかはわからない。
 だけど支柱も明らかにさびているし、ずいぶん使われていない気がする。
 揺れるたびにギシギシと妙なきしみがあるし、こうしているだけで命が縮みそうだった。
 物見台よりは下だが、五階建ての建物よりも明らかに高い位置に宙づりである。
 落ちたら絶対に助からない。

「助けてぇっオルランド! オルランド!」

 静かにしろと言われたことなどすっかり忘れて、悲鳴を上げ続けるミレーヌだった。
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